第14話

「そーいえばソラのキル集めっちゃバズってたよな」

『暇だったから軽く編集してBGMつけただけなんだけどね』


 ソラは元々ツイッタラーでありゲームのキル集を往々にしてあげていた。ソラのキル集の投稿はかなりの確率でバズっている。今回の投稿も何十とバズっている中の一つにすぎない。


「俺も見たけどさなんであんな視点できるんだよ。180度振り向きであんなにヘッショするのやばすぎるし、スナイパーはクイックスコープばっかだし覗いてない時もあっただろ。あんなプレーできるのソラぐらいなんじゃないのか?」

『んー自分で言うのもあれだけどあんな魅せプできるプレーヤーなんてそうそういないとは思うよ。けど、私でもまだLuzには到底及ばないかな」


 Luzとは日本ゲーム界のレジェンドや日本の宝と呼ばれているプロゲーマーである。堅実なプレーに加え正確無慈悲なエイムも兼ね備えている。それに彼は精悍な顔付きでモデル業もしており女性人気も高く配信が本業ではないのに関わらずいつも一万人越えの視聴者数をほこっている。郁人もソラも自分が配信をしていないときはLuzの配信をしきりに見ている。2人は彼のプレーを参考にしたり真似しようとしたりしている。まさに2人の憧れである。郁人の夢はLuzと一回でも一緒にプレーすることだ。


「はぁぁぁ?」

『びっくりしたー急に何よ』

「今ソラのあげてたキル集見返そうと思ってツイッター開いたら、ちょ、お前Luzからリプ来てるって・・・」

『またまたーいいって冗談言われてもうれしくないんだけど・・・ってええぇ!?マジじゃん「視点やばすぎww」ってうそでしょ!?どうしよう・・・なんか返した方がいいかな・・・』


 あわあわと擬音が口から出るほどソラはいつにもなくテンパっている。それも無理はないあのいつも見ているLuzからのリプ、あわよくば認知である。


「な、なんか送った方がいいんじゃないか?そ、それもいつも見てます・・・とか?」


 かくいう郁人もテンパっている。自分ことではないのにソラと同等のテンパリ様だ。


『いつも見てますはキモくて引くでしょ。無難にありがとうございますとか、いやでもなーうわーほんとにどうしよう』


 ソラはあーでもないこうでもないと言い、スマホに爪が当たっている音がマイク越しに聞こえてくる。


『あ、ぁぁ・・・やったわ・・・』

「おい、どうした?」

『間違えて「今度一緒にやりましょう」って送っちゃった・・・」

「おいマジかよ・・・消すんだ!跡形もなく消すんだ!今ならまだ間に合う!」

『もうだめだ返信きてる・・・』

「アーメン・・・所詮俺たちはただの1ファンでしかないんだ。一緒にゲームできるなんてまた夢のゆ・・・」

『いいってきてる・・・あっやばい・・・涙出てくきた・・・』

「え、うそだろ?まじか・・・それって俺も参加できる?」

『いや普通に無理でしょ。だってフミ全く関係ないじゃん』

「そこをなんとか!俺たちの中だよね?」

『・・・仕方ないなぁ聞いといてあげるよ』

「流石ソラ様器がちがうな!」


 ありがたやーと郁人はモニターの前で手を擦り合わせている。郁人の喜びに呼応するかのように手元のキーボードも明るく光り始めた。


『そーいえばフミはキル集とか作らないの?』

「んーやっぱり編集がめんどくさいから動画とかもあげる目処は立ってないな。でも公認の切り抜きチャンネルが頑張って動いてるからそれだけで十分だね」


 少し前から配信を切り抜いて動画を投稿する切り抜き師と呼ばれる人たちが現れ始めた。郁人とにも3人の切り抜き師によって無断で動画が上げられていたが配信にその3人を呼び郁人が1人ずつ面接をした。初めは切り抜きを禁止にしようと考えていたが切り抜きを見てwaiチャンネルを知り配信に来てくれた人もいるので1人だけ公認の切り抜き師をつくることにした。トラブル回避のため動画で得た広告収入は折半にし全権限は郁人が持つことになっている。


「ソラも動画は上げてないよな」

『私も動画はいいかなって編集は嫌いじゃないけど時間がかかるからしてない』

「あれ、切り抜き動画も上がってないっけ?」

『まだ私の切り抜きは見たことないかなー』


 ソラは颯爽とキルをしながら答える。郁人もソラもレートが高いので相手もそれ相応に強いはずだがソラがうますぎる故に次々と倒されていっている。相手は意味がわからない死に方をするためチャットで「???」 「how?」 「insane」などと送られてくる。


「俺も切り抜き野放しにしてたけど悪意のある切り抜きするやつもいるから気をつけとけよ」


 過去に郁人は冗談で言った発言をあたかも真剣に言っていると誤解を招きかねない切り抜きをされたことがある。リスナーは冗談だと理解してくれていたがwaiチャンネルを知らない人たちの中には郁人の発言を真に受けた人もいた。それによって少し荒れてしまったこともある。「冗談を冗談だと見抜けない人はネットに向いてない」なんて言葉が存在するがたとえ冗談であったとしても誤解を招いた発言をした側が大方悪いというのが世間一般的な意見である。


「ソラが気にしてないならいいけど一応注意勧告はしとく」

『うぃーご心配あざます』


 どこか楽観的なソラはカタカタとキーボードを打っている。この世界はどこまでいっても悪人は必ず存在する。ソラがそんな悪人に目をつけられないことを郁人は祈るばかりである。

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