第13話

『よっとまだフミは戻ってきてない・・・よね』


 ふぅとソラは息をついて言った。


『さっきというか今までも感じてたんだけどさみんなっねすぐ調子にのるよね。別に何言われても効かないからいいけど・・・』


「ごめんて」 「めっちゃ効いてるじゃんw」 「かわいい」「www」


『あぁーほんとにこいつらキモいコメントばっかじゃん。終わってんな』


 ソラは笑いながらリスナーと話している。なりゆきで始めたことだがソラも配信をしてリスナーと喋ることは気に入っている。


『それとみんなに聞きたいことがあるんだけど私好きな人に女の子だって認識してもらうにはどうしたらいいかな・・・』


 ソラは落ち着いた声に切り替えて話し始めた。妙なソラにチャットも困惑している。


「は?Y氏コロス」 「俺たちのソラちゃんを・・・」 「やっぱりワイソラだわてぇてぇ」


『別にフミのことじゃないから!全然違うし・・・確かにフミはいつでもカッコいいけどさ・・・みんなも分かるよね・・・』


 ソラは慌てて否定し、訥々と話し始めた。その口調は完全に恋する乙女そのものだった。温かいコメントが流れた。


『今言ってたことは絶対秘密だからね!みんなを信頼して言ったんだから。なんならみんなの恋愛事情も今話してよ!等価交換!』


「俺インキャだからそーゆーのないわ」 「俺も」 「俺たちに求めちゃあかん」


 こんな調子のリスナーに呆れてソラは嘆息をした。ソラは気を紛らわすために射撃訓練場に入りボット撃ちをはじめた。動揺しているのかいつもの正確さとは程遠い。


「おっソラもう戻ってる待たせてちまったか?」


 ドアを開ける音と同時に郁人の声が配信に載った。当然ソラにも聞こえている。初めはマイクから遠く声が小さかったが段々と声が近づき、微かな息遣いも聞こえる。


「こんな早く戻ってるなんて思わなかったから下でゆっくりしすぎたな」


 郁人は机な上に置かれているヘッドホンをつけ、腕にアームカバーを通した。このアームカバーはソラに薦められたものである。郁人がよく配信を覗くプロゲーマーたちがみんな着けていて気になっているとソラに言ったところ、ソラがいつもつけているアームカバーのリンクが送られてきて郁人はそれを買った。アームカバーは手首から二の腕よ半分までの長さがある。ソラのおすすめにハズレがあるはずがなくとても快適に使えておりエイムも気のせいか上手くなった気がする。なんと言っても汗で腕が机にピタッとくっつかず滑らかに滑るところが最評価ポイントである。


「あ、きた」 「なんか戻ってたぞ」


「え、どうした?来たらあかんかったか?もしかしてソラがなんか話してた?」

『う、ううん。なんも話してない。よね?みんな?』


「・・・」 「・・・」 「・・・」


『裏切り者ぉぉ!』


 ソラが怒涛の叫びをあげた。悲鳴のような悲哀の声をしていた。


「マジで何があったんだよ」

『うるさい!なんも話さずフミを待ってただけだってほら早く始めるぞ!」

「お、おう。さっきのと同じやつでいいか?」


 郁人がそう聞くとソラは端的な返事をしランクを一戦だけしたいと言うことなので今日は一日ソラの奴隷である郁人は否応なしに付き添わなければならない。


 郁人はどちらかと言うとどのゲームもエンジョイ勢なのでランクは基本的に回さない。リスナーにもランクしてくれと頼まれることがあるが誰かとパーティーを組んでいない限り1人ですることは全くと言っていいほど無い。


「ソラはデュエリストを使うだろ・・・俺何にしよう」

『フミは今日一日私の奴隷だから私のためのモク奴隷になりなさい』

「えーいつもモクなしで突っ込んでくくせに。それにスモーク頭使うから嫌なんだけどな」

『流石にランクでそんなトロールじみたことしないし、それに・・・・・・』


 ソラは話を一旦途切るとゴホンと咳をした。


『奴隷に拒否権はないよな?』


 ソラの伝統芸が炸裂した。音圧と吐息が郁人の耳をくすぐる。


「・・・ワーン」

『棒読みやめい』


「イエッサー」

『私これでも女」


「イエスマム」

『お前のマムになった覚えはないし性別どうこうじゃない』


「はっ姫の仰せのままに」

『姫って柄じゃない』


「かしこまりましたお嬢様」

『生意気執事はお呼びじゃない』


「りょ」

『まだワンの方がマシだった』


「主様が宣った通りに私めが勤しんでこの命に変えてでもお守りお仕え申し上げる所存であります」

『あー長い長い何言ってるかわからん。それにいつまで続けんねん。はよー準備せんとラウンド始まるさかいな」

「エセやめろ」

『あんなにも付き合ってあげたのに冷たすぎやしません?」


 チャット欄にはソラを擁護する声が多くあがっている。どんな状況でもリスナーは郁人の肩を持つことはない。全員がソラ側につきいつも1v5001(郁人とソラの視聴者数とソラを合わせると大体このくらいだ)をしている。


「ほんとにみんなソラのこと好きだよな」


「当たり前だろ」 「お前には絶対渡さん」 「ソラちゃんのソロ配信でいい!」


 まるでアイドルの囲みだ。郁人がソラと配信をしているとたまに矛先が郁人に向き始める。冗談なのはわかっているが敵が多すぎる。


「1人ぐらい俺の味方いてくれたっていいだろ」


 郁人は5001人に向かって嘆いた。

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