第12話
「ちょ、おい、それじゃカバー行けないだろ。アビリティも入れてないのに何1人でエントリーして突っ込んでるんだよ」
『うるせー!全員ぶっ飛ばせばいいんだろ!私がエゴイストだーー!行くぞぉー!!』
そのあと数秒経つと『ACE』と画面に表示された。1人で相手陣営を全て倒したと言うことだ。
『ザッコwwwもっと頑張れよw』
ヘッドホンから敵を嘲笑う声が聞こえた。対戦相手へのリスペクトは皆無である。
「ソラさん強すぎww」 「やっぱりこの人フィジやべー」 「モクもたからてないのに全員倒してんじゃん」
彼女は「ソラ」という名前で活動をしている郁人と同じストリーマーだ。ソラは女の子でありながらも男のような口調とフィジカルでゴリ押していくプレーで人気を博している。
郁人はソラとよく一緒にゲームをしている。元々郁人とソラは幼稚園からの幼馴染であり、一回郁人が配信を終えたあとソラが始めたいゲームがあると一緒にゲームをしていた時にリスナーとしては面白いが配信者としては犯してはならない失態である配信を切り忘れておりソラの声がモロに配信に載ってしまった。だが、リスナーには意外にも好評でトレンドにも載るくらいだった。
成り行きではあるが郁人のリスナーの後押しもありソラは配信をし始めすぐ人気者となった。今では郁人とチャンネル登録者数はそこまで変わらない。
2人が今やっているゲームは5v5のタクティカルシューティングゲームだ。防衛側と攻撃側に分かれて攻撃側は防衛側の守るサイトに爆弾を設置し爆破させるか防衛側を全員倒し防衛側は爆弾を解除するか設置される前に攻撃側を全員倒すかすれば1ラウンド獲得できる。これを攻守交代をしながら繰り返し先に13ラウンド獲得した方が勝利である。
このゲームは古のゲームと違いキャラクターベースでありそれぞれのキャラクターによって固有のアビリティがある。ソラはデュエリストと呼ばれる敵陣営に切り込んでいく攻撃型のキャラクターを好んで使っている。本人曰く脳死凸して相手を薙ぎ倒すのが快感らしい。
「何でそれで勝てるんだよ・・・」
『私、最強だから』
吐息の混じった音圧がすごい声だ。マイクを食べてるのかというぐらい近くで喋っている。リスナーにはこのソラのマイク芸は好評である。
「やめろそれむずむずする。ノイキャンつけろって前も言ったろ。というかなんでみんなはそんなに興奮してるんだよ」
「キター伝統芸」 「もう一回やってくれ!」 「ソラちゃんボイス販売しないかなー」
同じようなコメントがたくさん流れている。
「それと死体撃ちしすぎだろそれにキルするたんびにスプレーするのきしょすぎ」
『フミもやってみなよ気持ちーよ」
「いや遠慮するわ」
『チッ・・・』
「あっ舌打ちしたな。みなさんこいつ死体撃ち断ったら舌打ちしましたよー。いやーノイキャン入ってたら聞こえなかったなぁ」
『あーうるさいうるさい!もう次のラウンドはじまるって』
「あーあY氏サイテー」 「俺たちのソラちゃんをイジメんなよ」
コメントではこう言われているが郁人とソラはいつもこんな感じである。煽り合いをしても互いに不快にならずに済んでいる。これも長年築いてきた信頼と友情のおかげだろう。
2人とも同じ界隈の配信者にコラボを頼まれることが多々あるが互いに相性が良すぎるせいで結局2人でやるのに落ち着いてしまう。
2人きりで配信する頻度が多くそれに加えてやり取りも親密なので一部のリスナーには2人は付き合ってるんじゃないかと噂されるほどだ。それに2人は合わせてワイソラとよばれ、リスナーの中にはワイソラ厄介オタクが数少なくいる。
『あー、何でこんなにサイトに人いるんだよ』
ソラはさっきと同様1人で突っ込んでいき対策してきた相手に倒された。
「今日は一段と不機嫌だな」
『全部フミのせいだけどな』
「それはマジでごめんや」
それも今日の配信は昨日やる予定だったものだ。昨日は綾音とのフィットネスで疲れて寝落ちしてしまったので郁人はソラとの約束を破ったのだ。
朝起きたらソラからの怒涛のメッセージと電話が来ていた。その数合わせて200件。これはまずいと思い郁人は華麗な既読スルーを決めたが1時頃にソラから怒りの電話が来て渋々配信をつけソラとゲームをしている。
許してもらう代わりに今日は日を跨ぐまで一緒にゲームをすることになった。プレイするゲームも今日は全部ソラが決めることにもなっている。最近、ソラがよくやっているゲームはこれとバトルロワイヤルだ。郁人も大概だがソラは郁人以上にゲームセンスがありどのゲームもすぐにプロ並みに上手くなる。このゲームも元は郁人がやっておりソラに教えたものである。
「うおぉー」 「うますぎだろ」 「ゲームIQたっか」
そんなこんなしている間に郁人が1v5を制した。
『やるじゃん』
「ソラみたいな神がかったエイムは持ってないけどこのゲームの理解度は高いからね。褒めてくれてもいいんだぞ」
『別にフミだからそれくらいやれるってわかってるし』
「ツンデレかよ・・・」
『べ、別にデレてなんかないって。なんでフミなんかにデレないといけないんだよ』
「かわいい」 「ツンデレ可愛い」 「お嫁にしたい」「ワイソラてぇてぇ」
「こればかりはわかる。可愛いよな。しかも不意にくるのがまたいい」
郁人が言うと共感のコメントが素早く流れた。
ソラはそんな郁人とリスナーに戸惑っている。ソラがリスナーに弁明をしている間にラウンドは始まってしまった。
『あーもうみんな始まっちゃったじゃん、ほんとにキライ!郁人は大っ嫌い!』
「あはは」
『何で楽しそうなの。Mなの?』
「ソラー、エイムはブレブレだぞーもしかして手震えてる?」
『うっさい!震えてなんかないし!』
ソラはそう言ってアビリティを何も入れずトコトコとサイト中に入っていった。当然の如くソラは倒された。
『ドンッ!!』
甲高い音が郁人の鼓膜を叩く。ソラのフラストレーションが氾濫し台パンを引き起こしたのだろう。
『もう!一旦休憩十分後再開!』
ソラはそう言うとゲームを放置してマイクをミュートにしどこかへ行ってしまった。
「俺らが悪かったな。みんなもあんまりいじめてあげよっか」
「そうだな」 「かわいくてやっちまった」 「可愛かったなぁ」
「それじゃあ俺も一旦トイレ行ってくるわ」
郁人はヘッドホンを外して部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます