第7話
「どーゆーことか白状してもらおうか」
晶がポテトの先を郁人に向けながら言った。
「・・・何がだよ」
「被告人には弁解の余地はありません。何せ私がこの目でしかと見させてもらいましたからねぇ!おかしいなー郁人には女の影一つすらなかったのに。俺たちの同盟はどうなったんだよ裏切り者ーー!」
若干涙ぐんだ目をしている晶は机に身を乗り出して郁人の鼻腔にポテトを突っ込んだ。郁人は微妙に温かくなる鼻に違和感を覚えなんとか両手で晶の手を押し返す。鼻が少しばかりか塩辛い。
「そんな同盟組んだ覚えないし、そっちが思ってるような関係じゃないから」
「じゃあどう言うことなんだよ!会長のあんな笑顔見たことねぇよ思わず恋しそうだったんだけど!?なぁ、俺たちの親友だろ?隠し事はなしだって」
そう嘆く晶に郁人は夏休みに父親が再婚してその相手の連れ子が綾音だと言うことを話した。
「そんなこと現実世界であるはずがない。分かった、妄想だろ。全て虚言なんだろ。ほとんど家に引きこもってアニメばっか見てたから主人公と自分を置き換えちまったんだろ」
「現実だ。受け止めろ。俺も初めは夢だと思ったからな」
肩を竦め猫背になっている晶の背中を軽く2回叩く。相変わらずの筋肉だ。硬い。
「でももう一ヶ月近く住んでるわけだよな、性欲を弄ばせてる童貞のお前には色々とキツくなかったか?まさか襲ったりしてないだろうな」
するわけねーだろと郁人は晶の頭を叩く。
「まぁでも意外と困ってないんだよな。偶にラフな格好して家の中歩かれると目のやり場に困るくらいか。もう夏も終わりだしこれからは大丈夫だろうけどさ。意外にも気が合うしすぐ打ち解けたよ」
そう説明する郁人の前に座る晶の目は血走っている。今にも血涙が垂れてきそうだ。
「俺はお前が羨ましい。いや、憎い!普通にずるだろこっちが毎日外で汗水垂らしながら練習してる傍に学校のアイドルと家で二人っきりってか?殺すぞ」
「いやいやお義母さんもいたから、それにあっちにも都合はあるしほとんど一緒にいなかったよ」
もちろん嘘である。だが、あまりにも晶が可哀想なので仕方なかった。
「俺にも甘い蜜吸わせてくれよ〜」
「彼女作ればいいじゃん。俺は知ってるぞ、本当は野球のためではなくモテたいがために鍛え上げたその筋肉を。筋肉好きな女子もいるはずなんだけどな」
「真の理由がバレてるのは仕方ないが必死にトレーニングしたのに意味ないんじゃ時間を返してくれよ。それかこの魅力的な筋肉を上回るのほどの難点があゆるのか?」
「性格じゃね、ただの筋肉バカって思われてるんだろ。これじゃ必死こいて鍛えた筋肉までマイナスポイントだな」
郁人はケラケラ笑いながら言った。炭酸が入ったコップを握る晶の手は震え、中の氷が音をたてている。
「まーでもその性格さえ直せば多少なりとモテるようになるんじゃないか?晶の性格は良く言えばブレないけど悪く言えば目の前のことしか見えてない猪突猛進みたいな感じだからさ」
「こんな俺でも好きになったくれる人がいるはずだ。それを信じるしかない」
「あれ?今までは男たるもの自分から行くべしみたいなこと言ってたのにどうしちまったんだ」
「現実を知ったんだ」
郁人は 哀愁漂う顔をする晶にご愁傷ですと手を合わせた。
「一旦、彼女作りのことは忘れたらどうだ?部活も忙しいんだしさ。一軍とはいってもまだスタメンではないんだろ?」
「・・・・・・そうだな。俺より上手い先輩はゴロゴロいるし一旦恋愛は忘れて練習に没頭しようかな」
「流石だ」
「でも俺はお前が許せねーけどな!そこだけは変えられないね」
懊悩で神妙なさっきの顔つきはどこかへ行き、晶は睨みを効かせ言った。
「本当マジで何もないから。マジで邪推しないでもらいたいな」
「本当だな?嘘ついてたら全校生徒で締め上げて十字架に貼り付けるからな」
「やめろそれだけは。そんなことされるくらいなら寧ろ自決する。当然服は着てるよな?」
「全裸に決まってるだろ。社会的に殺すんだよ」
「流石に殺生だって」
声のトーンが本気である。
「ま、マジで大丈夫だから・・・」
郁人は吃りながら言い、手元にあるジュースのストローを咥えコーラを一気飲みする。
「てかこれめっちゃ美味い」
「新作?なんてやつだっけ」
「ダブルエッグチーズアボカドチキンバーガーだな」
「何だそのオールスター集合バーガー。絶対カロリー高いだろ」
「いいんだよ滅多に来れないんだから。そーゆーお前はいつもてりやきバーガーだよな」
晶は 郁人が手に持っているのを見て言う。
「やっぱてりやきバーガーが1番美味いんだよ。特にソースとマヨネーズでバフのかかったレタスが最高」
「飽きねーの?」
「飽きないね、愛してやまない恋人なようなもんだから浮気は厳禁」
晶はふーんとだけ言い、ハンバーガーの包み紙を綺麗に折っている。
(こーゆー所は几帳面なんだよな・・・)
対して郁人はクシャっと丸めた。
そして、同時くらいに二人はポテトを食べ始める。
二人ともハンバーガーを食べた後にしかポテトに手をつけない。確固たる理由があるわけではないが拘りだけはある。
「やっぱり郁人としかハンバーガー食べにこれないな」
「俺も」
「他の人と来るとポテト嫌いなのかって毎回聞かれるんだよな」
「不思議な目で見られるし」
「そーそー。やっぱり俺らが少数派なんだな」
そうやって駄弁っていると二人ともポテトを食べ終わった。
手を拭きゴミを捨て郁人達は店を後にした。
「平日なのに人が多いな」
駅にいる人たちを見て晶が言った。確かにいつもより人はいるが比較的私服の高校生っぽい人が多い。些かまだ夏休み期間なのだろう。既に学校が始まった郁人達にとって羨ましい限りである。
今日は猛暑でこの後何処かへ行くのも憚れたので、ここでお開きとなった。
郁人は電車だが晶は駅から数十分の所に家があるのでいつも駅前で別れる。
晶と別れた郁人は駅の中に入ろうする。
当然と言うべきか駅前には人が蔓延っている。ほとんどの人が一人でいるのは待ち合わせをしているからだろう。
「ギャハハ」
郁人は突然の笑い声に驚き反射的に声の発生源に目を向ける。そこには金髪や茶髪の遠目からでも分かりやすくチャラそうな大学生らしき人がベンチを囲むように数人立っていた。
そこには噴水があり周りを囲むようにベンチが並んでいる。この時間だと子連れが多いのだが今日は一人として見当たらない。何かあったのかと不思議の念に駆られた郁人は彼らを覗き込むように見た。
遠くて顔までははっきりしないが大学生の隙間からから女の人が見える。
「いい年した奴らが寄ってたかってナンパか?」
女の人が困ってるのか背伸びをして見るとそこには見慣れた人がいた。綾音だ。はっきりと見えるわけではなく雰囲気しか分からないがいつも見ている綾音を郁人が間違えるはずがなかった。
(おいおい、嘘だろ)
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