第2話
「……あぁ、よく寝たーー」
郁人は背伸びをしながら欠伸をした。時刻は9時弱。カーテンの隙間から差す光がまぶしい。これだけで今日は気持ちのいいくらい天気がいいのだとわかる。
「夏休みなのにこんな早く起きないといけないなんて……。今日は仕方ないけど明日からはゆっくり寝よっと」
つい最近まで学校があったが休日は昼過ぎにしか起きない郁人にとっては酷であった。それも次の日が休みだと夜中まで配信をしてるおかげで寝るのが遅いからである。
(来るのは昼前だっけか。まだ時間はあるしゆっくり準備すればいいか)
そう思いながら顔を洗うために階段を下り、洗面台に向かうとまだ眠気がとれておらずだらしのない自分と目があった。
(我ながらひどい顔すぎるだろ。こんな顔で会ったら第一印象最悪だ。白い目で見られるに決まってる。一応これから継母となってくれるんだし、父さんにも迷惑かけたくないからな)
蛇口をひねり流れ出る水を顔にかける。
「っつ…」
夏とはいっても朝に冷水は普通に冷たい。しかめっ面になるもタオルで水気を取るとだんだんと暖かくなっていく。
顔を洗ったあと鳴っているお腹を満たすべく、朝食をたべるためにリビングへと郁人は向かった。
「おは……」
リビングにいる父に向っていいながらドアを開けると郁人は唖然とした。
「………あ」
父がおはようと返すが、郁人には全く届いていない。なぜなら、リビングに居るはずのない人が二人もいるからだ。
(終わった。てか、親父ほんとにイカれてるだろ息子を殺す気か?)
「父さん。昼前に来るんじゃなかったっけ?」
「九時だから昼間だな!」
(はぁ…)
「あら、
おっとりとした雰囲気で柔らかい笑顔を浮かべながら紗良は言う。ゆったりとしたスカートを着ているが見るからにスタイルがいいのがわかる。郁人は思わず見とれてしまった。
(こんな人よくつかまえれたな)
紗良が自己紹介を終えると紗良の隣にいる女の人が口を開ける。
「はじめまして、私は小雀綾音よ。私と同じ学校に通ってるとは聞いているから知っているとは思うけど一応。これからよろしく」
終わった。本当に終わった。郁人は心の中で何回もこの言葉を反芻する。まず、この時間に二人が家にいるのが誤算だ。それにこんな顔でと思っていたのが見事にフラグ回収をしたのである。多感な時期の郁人にとって恥ずかしい事この上ない。
だがまだ百歩譲って紗良だけだったらよかったのである。あの雰囲気からしてこんなことは些細なことだとあまり気にしなさそうであるからだ。しかし、もう一人がだめだ。どんなけ譲ってもだめである。まずまず、郁人には相手に連れ子がいるだなんて聞いてもいない。太閤に確認しなかったのも悪いがこればかしは許せない。
今、郁人の前にいるのは文武両道、容姿端麗、学校で一番人気のあるスクールカースト最上位に君臨するあの生徒会長である。
綾音は艶のある横髪を一束とり指でくるくるとしながら郁人をじっと見つめている。それも相まってか郁人はすこぶる居心地が悪い。今にでもこの部屋から逃げ出して自分の部屋に戻りゲームをして現実逃避したいくらいだ。
普通の人であればこの状況を嬉しがるだろう。なにせ、美人親子が家族になるからである。クラスいや学校の生徒に会長と姉弟になりました。これから一つ屋根の下で過ごします。なんて言った暁には体育館の裏に呼び出され集団リンチにあうのは避けられないだろう。
郁人は嬉しさ半分、驚き半分。いや、恥ずかしさ九割であと二つがそれぞれ五分ずつだ。
「あっ……よろしくお願いします」
郁人は顔を耳まで真っ赤にしてたじたじと返す。
郁人はこの状態を作り出した張本人の太閤をキリッと睨むが彼は幸せそうに笑顔を浮かべている。
(あとで覚悟しとけよ)
(それにしても本当に綺麗だな)
綾音は当然というべきか本当に綺麗である。今までこんな至近距離で見ることなんてなかったが毛穴の一つもない。
郁人の視線に気が付いたのか綾音がどうしたのかと首をかしげてきた。郁人は思わず顔をそむけた。綾音が一瞬だけ顔をむっとしたのは気のせいだろうか。
そうこうして晴れて?同居生活を送ることになったのである。
一通り挨拶を終え、郁人は着替えるといい自分の部屋に戻っていった。
『今日の配信はないです。探さないでください』
そう呟いた。
(ちょっと心の整理ができるまで配信はやめておこうかな)
郁人は心の中で『みんなごめん!』と叫んだ。尤もほんとうは声を大にしてこの行き場のない気持ちを叫びたいがリビングには二人(三人?いいや二人だよ)がいるのでなんとか踏みとどまれた。
(これから一緒に住むんだよな、信じられねぇ。でもこれ色々大変だよな。今までほとんど父さんと二人きりで過ごしてきたからわざとじゃないにしろ変なことしたらどうしよう)
これは本格的に殺されかけんな。そう思い近くのゲーセンへと逃げるために玄関まで向かう。
「私も連れてってよ」
リビングのドアを開けて顔を出した綾音が少し俯きながら郁人に向かって言う。
「…っつ。……いやです!」
郁人は綾音が口にした思わぬ事に驚いた。少しだけ誘いに乗ろうかと迷ったが郁人は思わず強い口調でそう応えたのである。
そうして郁人は靴をはき、そそくさと出ていった。
「あああぁぁぁあああああ!!!」
家から数歩のところで抑えられなかった感情が爆発して乾ききったアスファルトに向かって郁人は叫んだ。
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