義姉が俺にだけ小悪魔で限界突破

第1話

「わぁ、今日も会長は綺麗だな……」 

「私もあんな人になれたらなぁ……」

 

  俺の通う洸麗こうれん高校には唯一無二の生徒会長がいる。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、文武両道で清廉潔白、誰もがついてゆくカリスマ性も備わっている。まさに完璧美女である。


「先輩マジでやめてくださいよ!いい加減にしないと怒りますよ」

「いーじゃんいーじゃん、ふみくんだって満更でもないんでしょ!てか家ではお姉ちゃんって呼んでっていってるじゃんか」


 頬をぷくっと膨らませジト目でこっちを見ながら手足をバタバタさせているのはまごうことなき赤ち、、、うちの生徒会長である。

 俺、三笘みとま郁人ふみとには義姉がいる。そう、誰もが羨む絶対的な生徒会長小雀こがら綾音あやねだ。


 郁人がまだ小学生の頃、郁人の母は事故で亡くなった。それからずっと父と二人で暮らしていたが高校一年の夏、郁人の父と綾音の母が再婚をして二人は義姉弟となったのだ。


 洸麗高校に入学してすぐに一年生の間で綾音は話題になっていた。それも入学式で綾音が生徒会長として壇に立った瞬間、ほとんどの一年が綾音に心が奪われた。端正な顔立ち、凛とした姿、腰まで伸びる黒い髪は遠目からでもわかるくらい艶があり枝毛は一本すらも見えない。


 郁人は心が奪わられるとまではいかなかったが、綺麗な人だなと思っていた。だが、あまりにも天上人すぎて関わることもないだろう、そう考えていた。


 綾音が義姉になる前に関わったのはたった一回しかない。


「先輩ありがとうございます」


 それは球技大会のことだ。洸麗高校では毎年春に新しいクラスの親睦を深めるために球技大会がある。男子はバスケ、女子はバレーと決められている。


「さっきはナイスシュートだったね」


 そう言いながら綾音は拾ったボールを郁人に渡した。


「次もっとすごいの決めるんで見ててくださいよ」


 郁人は綾音に急に褒められ思わずカッコつけて言ってしまった。柄にもないことを言い郁人は顔を赤らめながらそそくさとコートへ戻っていった。


(やっべー初対面なのにあんなこと口走っちまった)


 以降綾音と関わることは当然なかった。


 高校が夏休みに入って三週間が経ち長期休暇も残り一週間となったある日、郁人は父に「父さん今度再婚するんだ」と唐突に伝えられた。父は度々、郁人を家に一人残し外食しに行っていた。郁人はなんとなく女の人かなとは思っていたのでやっとかと思い素直に祝福した。


「明日からこの家に引っ越してくるからよろしくな」


 郁人は思わず飲んでいたコーラを噴いた。


「ゴホッゴホッ、全然今度じゃないじゃん。そーゆーのってもっと早く知らせるべきなんじゃないの?俺ってほんとに息子か?」


 郁人がそういうと父はあははと顔を引き攣りながら笑った。

 郁人は呆れてため息をつきながらも明日のために家の片付けを始めた。


(あれは、バレないようにした方がいいのかな)


 その夜、郁人は椅子に座りパソコンをつけた。電源ボタンを押すとファンが光り回る。いかにもこれはゲーミングパソコンである。郁人は学校ではあまり目立たないがネットではそれなりに人気がある。『waiチャンネル』として動画配信サイトでゲーム配信をしている。


 今日も前々から進めているRPGゲームをしながら配信している。


「そーいえば、親が再婚して明日から家に来るんだよな。て、おかしくないか?急に言われるし息子なのに相手様にも会ったことないとか、思春期男子舐めんなよ。生活が急変して対応出来ず引きこもりになるかもしれんぞ。まあ、そーなった時は一日中配信するからいいけど?そらに、お前らも嬉しいでしょ」


 郁人は冗談っぽく笑いながらマイクに向かって話す。


『Y氏、可愛い連れ子姉妹に惚れられてハーレム生活始まるわ』

『いや、イケメン連れ子に可愛い妹が寝取られるんだろ』

『もしかして再婚相手を父親からY氏が略奪??』


 数多のコメントが飛び交う。みんな言いたい放題だ。Y氏とはwai氏。つまり郁人のことである。リスナーの間ではこの名称が浸透している。


「なんだよそのラノベみたいな展開。現実じゃ絶対ないし連れ子いたらそれこそ流石に事前に合わせるだろ。それに妹居ないし。てか、お前らNTR好きすぎ、生憎そんな趣味持ち合わせてないから」


 郁人は苦笑しながらなんでもかんでも言ってくるリスナーに呆れた口調で言う。


「そういえば明日何時に来るんだ。ちょっと親父に聞いてくるから待ってて……」


「おいふざけんな、昼前には来るらしいんだけど。まじでクソ親父か?もう寝ないといけないからごめんけど今日はこれでおしまいな、また明日配信するから」


 息を荒げながらそういい郁人は配信をとじた。


「ふぅ……」


 リビングから自分の部屋まで速攻で戻ったきたちめ上がった呼吸を落ち着けるとベッドの中に入る。


(ラノベの主人公じゃあるまいし大した事は起きないだろうけど…)


 少しだけ淡い期待を抱きながら郁人は眠りについた。

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