【KAC20234】真夜中に出会ったのは

香アレ子

第1話

 眠れない……

 布団に入って4時間が経過したところで、寝るのを諦めて起き出した。

 ふとアイスが食べたくなって、寝巻きがわりのスウェットにブルゾンを羽織って部屋を出た。

 人通りのない住宅街の道を進む。家の明かりは無くとも、街灯の灯りで歩くのには困らない。

「なぁ……」

 猫が鳴いた。見回すと、少し先の街灯に強く照らされた場所に猫がいた。

 腹側は白く、背中は黒っぽいサバトラ柄と言うのだろうか。口元の白い部分にサバトラ柄が飛地のように丸くブチになっているのが、猫を愛嬌のある顔立ちにしている。

 丸々としたフォルムは、人間に飼われているのではと思わせる。首輪はない。

 猫は一鳴きしてからスッと立ち上がると、そのまま音もなく暗がりに消えた。

「……迷子ってわけでもなさそうだな」

 気を取り直して歩き出した。住宅街で住みやすいのは良いのだが、商店までは遠い。コンビニも近くの幹線道路沿いまで行かないといけない。15分程度の道のりで、まさに真夜中の散歩コースだ。

「なっ……」

 さっきより短い猫の声。そう思ってキョロキョロ見回すと、民家の塀の上に猫が座っている。また白サバ……と思って、その口元にあのブチがあることに気づく。

 同じ猫なのだろうか。もう少し近くで見ようと数歩前に出ると、猫はくるりと後ろを向き、塀の向こうへ消えた。

 同じ猫だったような……。首を傾げつつ、コンビニへ向かって歩き出した。

 あと少しでコンビニという場所、十字路を曲がった先に、街頭に照らされた猫がいた。やはり鼻のところに丸いブチがある。

 逃げられるかと思ったが、意外にも猫は動かなかった。しゃがみ込んで脚に体を擦り付けてくる猫の背中を撫でる。可愛い。

 すぐ先に幹線道路があり、コンビニの明かりも見える。猫のご飯でも買ってきたら食べるだろうか?

 そんなことを考えながら撫でていると、ドンガシャン、バリバリ、という派手な音が聞こえた。猫が慌てて逃げる体勢だ。だっと離れてこちらを伺っている。

 タイミングが悪いなと角まで出てコンビニの方を見ると、車が上下逆さまになってコンビニに突っ込んでいた。

 雑誌コーナー、コンビニに行くとまず立ち寄る場所だ。

 この猫が居なかったら、今頃あそこに居たんじゃないだろうか?

 猫を振り返る。

 「なぁ〜ん」

 一鳴きすると、猫は夜の闇へと消えた。

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