第15話 再会②
座り心地のいい馬車の中。
目の前には人形のように顔が整ったカレンとリフィア。
そして、おめかしをしてより一層美しさを際出させている二人に言う。
「なんか……連行されてる気分だ」
緊張しないように目を逸らしながら。
無論、甲冑のおかげでそれはバレない。なんとも便利なアイテムだと改めて感じていれば、カレンがスラスラと反論してくる。
「とかなんとか言って、こうなることは予想してたくせに。
「お礼させていただけることを含め、こちらの面目を立てていただきありがとうございます。捜索に関わった者がなんの成果を上げられないというのは、当家の格が下がることにも繋がりまして」
「……ま、まあそうだろうな」
リフィアの返事に利口ぶってみるも、そんなことは全く知らなかった男である。
面目を立てるような行動を取っていたことすら知らなかった男である。
そもそも捜索の圧に負け、ごく自然に叩き出されただけの男である。
「あの、気分を害されたりはしておりませんか? 大変お忙しい中、たくさんの気回しまでしていただいてますので……」
「いや……」
「案外心が広いものね、あなたって」
「一言余計だぞ」
狙ってやっているのかはわからないが、いいタイミングで口を挟んできて、上手にクッション役を務めているカレン。
気配り役は姉のリフィアに全任しているようで、もしかしたらお互いがどのように立ち回るか話し合っていたのかもしれない。
「ね、ねえ。今のうちに一つ聞いておきたいことがあるんだけど……」
なんて思ったら、急に改まるカレンがいる。
「気味悪いぞ。カレンがそうやって
「し、失礼ねっ! ならこの態度で言ってあげるわよ! ふんっだ」
「はは、それで頼む」
丁寧に態度になればなるだけ『公爵家』の文字が頭によぎるのだ。
接しづらくならないためにも、素を出してもらう。
「それで、聞きたい内容って?」
「……えっと、た、単刀直入に言うわね」
「どうぞ」
「あ、あたし達を助けてくれた時のことだけど……あなた使ってくれたでしょ? 幻の万能薬をたくさん」
「ん」
「だからその……貴重なアイテムを一つどころか三つも使ったわけだから……(組織から)怒られたりしたんじゃないの? そんな理由でゴタゴタしてたから、街に顔を出せなかったんじゃないの?」
おずおずと、どこか恐ろしいものを確認するように上目遣いで見てくるカレン。
『ならこの態度で言ってあげる! ふんっだ』なんて言っていた数十秒前の強気はどこへ行ったのか……。
ツッコミを入れたくなるが、話を脱線しないように答える。
「いや、別に(そもそも怒られるってなんだ……?)」
自前と言っても過言ではないアイテムを使っただけの男である。
怒られる理由がわからないのは当然のこと。
——だが、姉妹はこう捉えるのだ。
『取り繕って庇ってくれている』
『罪悪感を感じさせないようにしてくれている』と。
帝都直属の暗躍組織、ヴェルタールに所属している可能性が高いこと。そして、口数少ないシンプルな言い方だっただけに、勘違いしてしまうのだ。
「あ、あなたは本当にそれでいいの……? 一人で抱えきって……。ちゃんと言ってくれたら、なにか協力ができることがあるかもしれないじゃない」
「カレンの言う通り、お気を遣わずで結構なので、事のあらましだけでもおっしゃっていただけたらと……」
「…………」
男はもう何度思っただろうか。『なんでこんなにも話についていけないのだろうか』と。
ただ、それを正直に言えるような空気はない。
それとなく話を合わせながら、『大丈夫だ』と伝えるのがベストだと判断する。
「……ま、まあその、怒られたにしても、後悔するような選択はなにもしてないしなぁ、俺。薬のおかげで足がちゃんと治ってるなら、それで
「「っ!」」
なぜか二人同時に驚いている。
「てか、俺のことを気にするより、今までできなかったこととか、我慢してたことを思う存分楽しんでくれた方が嬉しいんだぞ? こっちの問題は俺が解決するんだしさ」
「「……」」
次に感動しているように姉妹で目を合わせている。なぜか。
「なにか……変なこと言ったか?(そりゃ言ったよなぁ……。内容理解してないんだから。『なに言ってんだコイツ』って驚くよなぁ……)」
「べ、別に変なことは言ってないわよ」
「(言ってないんかい)」
「漆黒様には本当に感謝のしようもありません……」
なにか刺さる言葉があったのか、リフィアからは壮大な感謝の気持ちが伝わってくる。
その心当たりがなく、追及されたら痛い目を見ることがわかっているからこそ、男はすぐに話題を変えるのだ。
「あ、そうそう。これずっと言うタイミング窺ってたんだけど……俺から二人に一つお願いがあって」
「あなたがお願いって珍しいわね」
「どのようなお願いでしょうか?」
どんな要求をされるのかと真剣な表情を見せる姉妹に伝える。
「俺が二人のお父さんと……公爵の父君と対面した時、失礼な態度を取って怒らせてしまったら、間に入ってほしいんだ。それさえしてくれたら、薬の対価はいらないから」
「それ本気で言っているの!?」
「本気だって。俺はただの一般人だぞ? 貴族に目をつけられたら潰されるんだよ」
あの万能薬の価値は十分わかっている。対価は惜しくもある男だが、命を保障してもらう以上に優先することはない。
「「……」」
この時、姉妹は以心伝心していた。
『立場隠すためとは言っても、雑よね?』
『誤魔化し方でしょう……?』と。
顔に書いてもいる二人だが、それを気にする余裕は男にはない。
「そんなわけだから——」
「わかったわ。いくら無礼な態度を見せたとしても、お父様は怒らないと思うけど」
「私も承知しました」
「助かる」
そうして公爵の姉と妹を味方につけることができた。これ以上の心強い味方は絶対にいないはずだ。
「ね、一応聞いておくんだけど……その甲冑はずっと着けたままなの?」
「あ、ああ……。確かに脱がないと失礼……かぁ。最低限の礼儀っていうか……」
とっっっても好ましくないことを突然言われる。
「勘違いしないで。別にそんな意味で言ってるわけじゃなないから。ただ勝手が悪いなら……って」
「個人的には、お顔を拝見させていただきたくも……」
「え?」
「姉様、それは失礼でしょ」
「ご、ごめんなさい。ほんの冗談ですから」
手をパタパタさせながらそんなことを言うリフィアだが——ふとした時に熱のある視線を男に向けていた。
カレンから聞いていた通りの人物で、聞いていたよりも素敵なところを会話の中でたくさん知ることができて……。
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