第3話 奇跡の報告

 二人が泣き止んだその後のこと。


「え? お前らアルディア街から連れ去られたのか……。ここから二街以上も離れてるってなると、結構な時間がかかりそうだな……」

「その文句はあなたのお仲間に言ってちょうだいよ。悪いのは全部アイツらなんだから」

「(もう)仲間じゃないからな」

 天井から朝日が差すこの場所は、ツリーハウスの中。

 地図を見ながら赤髪の少女、カレンに言い返す男である。


「てか、誰かワープ使えないのか? あの瞬間移動する魔法」

「あの魔法が使えるのなら、とっくの昔に使って逃げてるわよ」

「……そりゃそうだわな」

 完璧な正論である。


(やり込んでたゲームキャラになってたら、ワープも使えてたっぽいんだけどなぁ)

 男は調べ終わっていた。自身の能力値ステイタスを。

 その結果、トレジャーハンターで例えるならCランク程度。平均よりも少し高いだけというのは、いかにもモブの悪役らしい数値だろう。


「ワープを使える人は、過去に一人しかいないってお話ですよ」

「ああ……。まあ幻の魔法だしな」

 そこで間に入ってくるのは、盲目だった白髪の少女。ニーナ。

 日の光を見たのも久しぶりなのだろう。チラチラと天井を見上げながら、補足を入れてくれる。


「それよりお前の目は大丈夫か?」

「今はしっかりと……。本当にありがとうございます」

「お前の足は?」

「も、もう平気よ……。感謝してるわ」

「はいよ」

「——って、さっき自己紹介したでしょ。『お前』って言うのはやめて。あたしにはカレン・ディオール・アルディって名前があるのだから」

「はいはいカレンね」

「わたしはニーナ・クアリエ・アンサージです」

「はいはいニーナね」

 長すぎて覚えられない。


「で、未だにベッドで寝てるのがレミィだっけ?」

「ええ。レミィ・トラリア・アルブレラよ」

「了解」

 フルネームで教えてくれたところ悪いが、レミィで覚える男である。


「まあ、問題はこれからだよな……。それぞれの病気が治ったところで故郷に帰れなければ意味がない」

「もし、悪者アイツ達に見つかっても、あなたが守ってくれるのでしょ? 諜報員スパイってことは、それなりに腕が立つんでしょうし」

「その保証はできないな」

「はあ?」

「どんなに強かろうが、絶対はない」

「ッ」

「っ」

 その言葉に、体を硬直させるカレンとニーナ。

『怖気』の感情が伝わってくるが、一番の怖気を感じているのはこの男である。

 もしもの時は戦わなければならないのだから。ゲーム世界とは違って、命をかけた戦いを。

 こればかりは『ゲームの知識』で勝てない部分である。


「そんなわけで、戦闘をしないように立ち回る。全員が生き残れるようにな」

「い、いかにも諜報員スパイらしい考えね……」

「ですが、それが最善ですね……」

「命は一個しかないからな」

 話はすぐに固まる。


「それで、あなたになにか作戦はあるの?」

「あくまで予想だが、お前達を攫った敵はウェーハ街付近で見張ってるだろう。ここから一番近い街だし、俺がその街からの合流だったし、アルディア街に戻るために馬車を利用することを見越して」

「もう諦めたりは……」

「そう簡単に諦めるようなヤツが人攫いなんてしないんじゃないか? 多分」

 悪人にとって最悪な結果は、街に入られて助けを呼ばれることだろう。

 最悪にならないための対策を取ってくるのが普通だ。


「だから少し遠回りをする。ウェーハ街じゃなくて、この村を経由する。通常よりも高くつくが、馬車は出してもらえる(ことは知ってる)」

 ゲームの知識が早速生かされる。


「ね、ねえ。あたし達は手持ちが……」

「金はある。最悪全財産使ってもいい」

 悪人から盗んだ金が。盗むという悪事を働いてしまったが、この時ばかりは奪ってよかったと思えた。


「あの、どうしてあなたはわたし達のことをそこまで助けてくれるのですか……? 本当に貴重な万能薬まで使って……」

「え?」

「本当は諜報員だって教えるのもいけないはず……ですよね」

「あ、ああー……」

 諜報員スパイというのは真っ赤な嘘だが、ニーナから言われて気づく。助けることに本気になっていると。

 もちろん善意で行っていることだが、突っ込まれるとどこか恥ずかしくなる。


「……まあ、親御さんに感謝するんだな。上からの指示が届いてなければ、こんなことはしない」

 頬を掻きながら照れ隠しをする男は、視線を彷徨わせることで目が合う。

 ベッドで横になったまま、目を開けてこちらを見ている金髪の少女と。


「お、お前……起きたなら起きたって言わないか」

「……起きたぞ」

「うん、もう遅いな」

 とりあえず回復した様子を見て安心する男は、まだ気づかない。


『まあ、親御さんに感謝するんだな。上からの指示が届いてなければ、こんなことはしない』

 照れ隠しに言ったこの言葉が、後日とんでもない誤解を生んでしまうことを。



 * * * *



 そして、数日後。

「おい! 我が娘はまだ見つからないのか! カレンの情報はどこにも出ていないのか!」

「た、大変申し訳ございません。アンサージ家、アルブレラ家と共同でお探ししているのですが、未だ目撃情報がどこにもなく……」

「あれほどの褒賞金を出していると言うのに、一体どう言うことなのだ……」

 広々とした敷地に立つ豪華絢爛な屋敷。

 その屋敷内で、頭を抱え項垂れるディゴート公爵がいた。


「ディゴート公爵……。大変言葉にしづらいのですが、これだけ見つからないとなると……」

「ふ、ふざけたことを抜かすなッ! いいか、必ず探しだせ!」

 怒号が響く一室。

 その部屋の大きなドアが勢いよく開けられる。


「だ、旦那様! 失礼を大変申し訳ありません! ただ今、カレン様がお見えになられたとの連絡が門番から入りました!」

「な、なんだとッ!? それは真か!?」

 報告を聞いた途端、テーブルをドンと叩いて立ち上がる公爵。


「間違いありません! ニーナ様、レミィ様もご一緒にいられるとのことです!」

「ぜ、全員が無事なのか……。これは奇跡だ……!」

「ご報告によれば、漆黒の装備を着けた者が救出に成功されたようです」

「装備? それはトレジャーハンターか!?」

「素性はまだ……。そして、耳を疑う内容がもう一つ——」







「——カレン様はお一人で歩けており、ニーナ様も目がお見えになれており、レミィ様もご健康になれている、と……」

「ハ、ハア!?」

 そんな公爵の声が、屋敷全体に響いていた。

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