第48話 金属スライム

左の箱からぶっ壊れ杖が出てきた時点で嫌な予感はあった。

あったけどさぁ…。

本当に世界を破壊しかねない石が出てくるとは思わんやん?


「…これ、見なかったことにできませんかね」

「配信してんだから無理だろ」

「なら、配信するべきじゃなかったのでは…?」

「そうだな…」

「え、配信終了ってこと!?ここで!?」


実際そうした方がいいのでは…?

コメント欄では続行コールが起きているが、知ったことではない。

だってまだ4層だぞ?

このダンジョンが何層あるのか知らないが、賢者の石は4層で出していい代物でないのは間違いない。


「あ、同接20万人突破したって」

「そうですか…」

「あとUtubeめっちゃ重いらしい」

「何ででしょうね…」


…同接20万人の生配信があるからか。

そっか…(自己解決)。




同接20万人って何だよと思ったらコメント欄が海外コメで埋まっていた。

Xwitterでも『3ch』が世界トレンド1位らしい。


(まあ、世界がぶっ壊れる可能性がワンチャンどころかスリーチャンスくらいある配信だからなあ…)


はははー。

1周回って他人事みたいな気分になってきた。

探索再開。

配信も続行。

もうこうなったら行くところまで行こう。

5層行きの階段も既に見つけてあるので、私達は迷いなく先に進んだ。


「階段発見」

「他の宝箱無かったねー」

「この階層はもう十分だ…」

「本当にそう…」


そのまま階段を降りて、5層。

例によって洞窟フィールドだったので、例によって『透視』を発動した。


「透視!…あれ?宝箱が無い…?」


宝箱どころか魔物の姿も無い。

階段も見当たらない。

何だこの階層は?


「本当に何も無いのか?」

「本当に何も…いや!今何か動いた!」


『透視』で上がった視力で更に目を凝らしたら、洞窟の天井に張り付いて蠢いている魔物を発見した。


「そんなに大きくない…よく見たら他にも何体か…あ、透視切れた」

「どんな魔物だ?」

「よく分かりません。天井と同化して見えるくらい薄っぺらい魔物でした」

「よく分からねえな…?」


正体不明だが、ここまでの流れからすると魔物のレベルは25のはずだ。

私達のレベルは35付近なのでまだ余裕はある。


「とりあえず、行ってみますか」

「はいはい!攻撃担当あたしがやりたい!魔法の杖の試し撃ちしたい!」

「ええ?魔力温存しようってさっき話したばっかりですよ?」

「1回だけ!1回だけでいいから!」

「…どうします?」

「構わねえけど…元気だな…あんただけ…」

「ぃやったー!!」


今だけ美愛さんの能天気さが羨ましくなった私と万堂さんだった。




「この辺のはずなんですが…」


5層を進んで魔物のいた辺りまで来たが、怪しい姿はどこにも見えなかった。


「本当にこの辺?」

「うーん…」


我ながら自信が無い。

もう1回透視を使う選択肢もあるけど、魔力はなるべく温存したいんだよな…。


「あ!今何か動いた!」

「え、どこですか?」

「そっちの曲がり角の影の中!」


美愛さんは『暗視』スキルを持っているため、暗い場所でも問題なく物が見える。


「撃つよ!火弾!」


『火弾』は10メートルほど先の曲がり角に飛んでいった。

すると、『火弾』に反応して動く小さな影があった。


「うおっ!?」

「きゃっ!?」


『影』はもの凄いスピードで私達の方へ向かってきた。

私は2人の前に出て、短剣を抜いて『影』を迎え撃った。

『影』と短剣が衝突し、鈍い金属音が鳴る。


「はっ!!」


剣を振り抜くと、『影』は跳ねるように飛んで天井に張り付いた。

手応えは無かった。


「サンさん大丈夫!?」

「問題ありません」

「何だあれは…スライムか?」


天井に引っ付いているのは銀色のスライムだった。

金属音がしていたし、金属系のスライムか?

考えているうちに謎のスライムはまた動き出した。

高速で天井から壁、壁から地面へと移動していく。


(私は追えてる。けど、美愛さんと万堂さんには無理そうだ)


こいつは私が対処するしかないらしい。

高速で突進してきた謎スライムに短剣を合わせてスキルを発動。


炎刃えんば!」


魔力を1消費して刀身に炎を纏わせる。

相手が金属なら焼き切れるんじゃないかと思ったのだが、謎スライムはまた後方に跳ね返っただけだった。


「サンさん!」

「大丈夫!硬いしスピードもあるけど、攻撃力は大したことありません。万堂さんは美愛さんを!」

「任せろ」


私が撃ち漏らした時に備えて美愛さんを下がらせ、防御力の高い万堂さんに守ってもらう。


「来いよスライム!スピード勝負だ!」


挑発が効いたわけでもあるまいが、謎スライムは私に向かって飛び交ってきた。

三度短剣と謎スライムが衝突。


「バウンド!」


また跳ね返るように壁へ戻った謎スライムを、今度は私から近付いて攻撃した。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」


謎スライムは速いし硬いが、攻撃力は低くて小さい。

速さと大きさで上回る私がガン詰めしたら、逃げることもできずサンドバッグになった。

何度斬りつけてもダメージの入る様子はなかったが、そのうちの1発が急所にでも当たったのか、謎スライムは突然灰になって消えた。




「あ、レベル上がった!」

「あたしも上がってる!」


金属スライムを倒したらレベルが上がった。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:37(+2)

体 力:50

攻撃力:50

防御力:10

素早さ:120【MAX】

魔 力:8/29

 運 :24

S P :13(+13)

スキル:バウンド、透視、衝撃緩和、隠密、一閃、天恵、炎刃

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:美愛

レベル:37(+2)

体 力:45

攻撃力:60

防御力:20

素早さ:30

魔 力:39/120【MAX】

 運 :10

S P :12(+12)

スキル:火弾、連射、魔力回復、チアー、大炎上、暗視、火犬

ーーーーーーーーーーーーー


「あれ?何か2レベも上がりました」

「本当だ!ラッキー!」

「格上の魔物だったのか?」

「どうでしょう?美愛さん、鑑定で何か見えました?」

「えっと、魔物の名前は『メタルスライム』で、レベルは25だったよ」


〈あれ?じゃあ何で2レベアップしたんだ?〉

〈元々レベルアップ間近だったとか?〉

〈それでも格下倒して2レベアップにはならんだろ〉

〈経験値効率がめちゃめちゃ高い魔物なのか?〉

〈そんな魔物いんの?〉

〈聞いたことないけど、それ以外に説明の付けようがないな〉




何かの間違いかもしれないので、もう1度私の『透視』で探し、美愛さんの『暗視』で見つけて戦ってみた。


「美愛さんが先制、私が捕まえるので、今度は万堂さんも攻撃に加わってみてください」

「ああ」

「分かった!」


メタルスライムは暗がりを好むらしく、美愛さんが陰になっている場所へ『火弾』を撃ったら泡食ったように飛び出してきた。


「オラオラオラオラオラ!!」

「ハアァッ!」


私がメタルスライムを押さえつけ、万堂さんがロングソードを振り下ろす。


〈やったか!?〉

〈いやダメだ!〉

〈全然ピンピンしてる!〉

〈お前らが「やったか!?」とか言うから…〉

〈硬過ぎんだろ〉

〈急所以外ダメージ無効とか持ってんのかな?〉


万堂さんの魔法剣でもダメとなると、本当にクリティカルヒット以外は効かない魔物なのかもしれない。

結局また私がサンドバッグにしてメタルスライムを倒した。

レベルは全員2ずつ上がった。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:39(+2)

体 力:52(+2)

攻撃力:70(+10)

防御力:10

素早さ:120【MAX】

魔 力:8/30

 運 :24

S P :0(-12)

スキル:バウンド、透視、衝撃緩和、隠密、一閃、天恵、炎刃

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:美愛

レベル:39(+2)

体 力:49(+2)

攻撃力:70

防御力:20

素早さ:40(+10)

魔 力:39/120【MAX】

 運 :10

S P :0(-12)

スキル:火弾、連射、魔力回復、チアー、大炎上、暗視、火犬

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:万堂 堅也

レベル:38(+2)

体 力:65(+3)

攻撃力:65(+3)

防御力:65(+3)

素早さ:65(+3)

魔 力:5/32(+2)

 運 :10

S P :0(-14)

スキル:剣術、シールドバッシュ、土盾、石飛礫、アースブレード、闘志、加重

ーーーーーーーーーーーーーー




階段を見つけたので6層に降りると、人食い宝箱が復活していた。


「メタルスライムもいますね」

「今までの全部乗せか」

「フィールドは洞窟のままだね?」

「階段は見える範囲には無し、本物宝箱も無しです」


〈ここまでの流れ通りなら出現する魔物は30レベか〉

〈結構レベル上がってきたな〉

〈大丈夫そ?〉

〈メタスラ狩ってレベル上がったし余裕余裕〉

〈問題は配信が時々止まることだけや〉

〈同接60万人超えはもうしゃーない〉

〈サイトが落ちないだけUtubeはようやっとる〉


「宝箱狩るか、メタスラ狩るか、どうします?」

「宝箱はハズレあるしメタスラでいいんじゃねえか?」

「え、あたし宝箱行きたいと思ってた…」

「なら、宝箱にするか」

「そうですね」

「良いの?やったー!」


〈2人ともミアちゃんに甘過ぎじゃない?〉

〈ミアちゃん可愛いからね仕方ないね〉

〈ミアちゃんがいなきゃ2人ともパーティーなってないしな〉

〈ミアちゃん最強説きたか〉


人食い宝箱も30レベになっていたが、『透視』で正体が分かっているので万堂さんの先制攻撃1発で灰になって消えた。


●歯ブラシ…毛質固め


うん、ゴミ!


「次の宝箱は少し先です」

「あ!メタルスライムいたよ!」

「ついでに狩るか」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:40(+1)

体 力:55(+3)

攻撃力:70

防御力:10

素早さ:120【MAX】

魔 力:11/33(+3)

 運 :24

S P :0(-6)

スキル:バウンド、透視、衝撃緩和、隠密、一閃、天恵、炎刃、魔人斬り

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:美愛

レベル:40(+1)

体 力:50(+1)

攻撃力:70

防御力:25(+5)

素早さ:40

魔 力:39/120【MAX】

 運 :10

S P :0(-6)

スキル:火弾、連射、魔力回復、チアー、大炎上、暗視、火犬、ファイヤーアーマー

ーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:万堂 堅也

レベル:40(+2)

体 力:67(+2)

攻撃力:67(+2)

防御力:68(+3)

素早さ:67(+2)

魔 力:8/35(+3)

 運 :10

S P :0(-12)

スキル:剣術、シールドバッシュ、土盾、石飛礫、アースブレード、闘志、加重、ヒール

ーーーーーーーーーーーーーー


〈流石に1レベしか上がらんか〉

〈万堂さんだけ2レベ上がったから全員一緒になったな〉

〈うわ、魔人斬りじゃんww〉

〈魔人斬りって何?〉

〈クリティカル率50%、失敗率50%の運ゲー技〉

〈メタスラ狩りには有用か?普通にタコ殴りにすればいいから要らんか…〉

〈【悲報】ミアちゃんついにハズレを引く〉

〈防御系かあ…〉

〈素の防御力が25じゃなあ〉

〈魔力もカンストしたし流石に防御も上げていくべきか〉

〈万堂さんのヒールが1番当たりだな〉

〈回復スキルマジで羨ましい〉

〈万堂さんの万能化が止まんねえな〉




次の人食い宝箱も万堂さんがぶった斬った。


●海の怪物の盾…防御力+15


「万堂さんいります?」

「いいのか?」

「もちろん!あたしはさっき杖貰ったし。あ、じゃあマジックバッグはサンさんの物にしたらいいんじゃない?」


こうして盾は万堂さん、マジックバッグは私の物になった。

万堂さんが元々使っていた盾はマジックバッグの中にしまった。

結構重たい盾だったが、マジックバッグに入れてもバッグの重量は変わらなかった。

どれだけ物を詰めても重さの変わらないバッグとか最高かよ。

万堂さんは盾を貰ってもクールなままだったが、心なし機嫌が良さそうに見えた。


「次の宝箱は?」

「透視で見えたのはこの辺までだったので、もう1回透視使います。透視!」


『透視』を使うと50メートルほど先に階段が見えた。

しかも、階段の先には扉があった。

あれは『品川ダンジョン』の25層と同じ扉。

ボス部屋だ。


『ワンワン!』


〈!?〉

〈何だ!?〉

〈犬の鳴き声!?〉

〈何でダンジョンで犬の鳴き声が?〉


「あ、私のスマホです。ご飯行った時に消音解除してそのままでした」

「今の着信音!?」

「どんなセンスしてんだお前…」


配信中に誰だよと思ったら、いつかの病院で会ったダンジョン庁の田中氏だった。



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