第47話 マジックバッグ

〈容量300Lっていうと風呂くらいか?〉

〈結構入るな〉

〈無限に入るわけじゃないか〉

〈流石にね〉


「この小さい袋の中にお風呂が入るってこと?どゆこと?」

「美愛さんに分かるように言うと、ヤバいってことです」

「そっか!」


〈おいw〉

〈説明放棄すんなw〉

〈実際マジックバッグはヤバい〉

〈言うほどか?ただ沢山入るだけだろ?〉

〈いやヤバいだろ。風呂サイズの物が小さい袋に収まるって運送費相当ケチれるぞ〉

〈もっと他に良い例無かったんか?〉

〈密輸はやりやすそう〉

〈機関銃入れてお手軽ハイジャックとか?〉

〈税関通さないで海外のお土産いっぱい持って帰れるんじゃね?〉

〈全部犯罪じゃねえか!〉


「冒険者的にはレアドロップアイテムを全部これに突っ込めたら楽できそう」


思い返すのはオーク肉だ。

リュックに入らずタオルで包んで抱えて帰った覚えがある。

『モーニング☆スター』とのコラボの時も岩石盾を運ぶのに苦労していたし、とにかく便利なのは間違いない。


〈確か1回オークションに出されて10億円くらいで落札されたはず〉


「10億!?」

「この小汚ねえ袋が10億…!?」

「やっばぁ…」


〈あれは確か深層産でもっと容量大きかった気がするけど〉

〈どのみちヤバい〉

〈もうヤバいしか言えなくなってきたな〉

〈現在の収支+1,000,600,000円〉

〈桁飛び過ぎてて草〉

〈60万とかもう誤差やん〉




10億円ショックでしばらく動けなかったが、何とか正気を取り戻して探索を再開した。


「あ、階段発見」

「どうする?降りる?」

「人食い宝箱を狩り続けるだけでも相当稼げそうだが…」

「…行きましょう」


私達は金を稼ぎに来たんじゃない。

ダンジョンを探索しに来たのだ。


「さて2層」

「フィールド変化はなしか」

「変わんないねー」

「さっきの魔力ポーション私が飲んでもいいですか?このダンジョンやばそうなので『透視』使いたいです」


2人の許可を得て魔力ポーションを飲む。

魔力10回復の効果があり、魔力は半分くらいまで回復した。


「透視!」


半径200メートルが透けて見えて、チラホラ魔物の姿も捉えた。


「どうだ?」

「魔物が何体かいますが多分全部人食い宝箱です。階段は200メートル以内には無さそうです」

「じゃあ、人食い宝箱狩りに行こう!!」


〈ミアちゃんやる気満々で草〉

〈そりゃそう〉

〈レアドロ確定ダンジョンとか楽しいに決まってる〉

〈誰だってそうなる。俺だってそうなる〉

〈雑魚モンスターから10億円のドロップがあるんだもんなあ〉




私達はウッキウキで人食い宝箱を狩りに向かった。

3体倒した結果、ドロップしたアイテムは以下の通り。


●軍手…防御力+0

●ナプキン…女の子用

●牛の骨…犬の餌


「ゴミばっかだな…」

「レアアイテム確定じゃないじゃん!?」

「一応魔石ではない…けどゴミですね…」


どうやらここは魔石が出ない代わりに色々な物がランダムドロップするダンジョンらしい。


「最初の3つは運が良かっただけってこと?」

「そうらしいですね。犬の餌がドロップするなら大したダンジョンじゃないのかも…」

「運24でもハズレ引くんだな」

「そりゃそうですよ。言っても普通の人より運が14高いだけですからね?」


〈いや相当だろ〉

〈普通の人の2.5倍だろ〉

〈3段階上昇なんだよなあ〉

〈そう聞くと運24ってヤバいな〉

〈結論、サンちゃんはヤバい〉


話しているうちに3層行きの階段を見つけた。

降りた先もまた洞窟で、フィールド変化無し。


「透視!」


一応『透視』で見てみたが、上2層と違いはない。

やはり階段は見えず、宝箱型の魔物が何体かいる。


「ん?」

「どうしたの?」

「何か普通の宝箱がありました」

「え、本物の宝箱ってこと!?」

「中身は?」

「何だろ…小瓶っぽい物が入ってます」

「小瓶…ポーションか?」

「上級ポーションとかかな?」

「あ、透視切れた」




とりあえず行ってみようということになって、200メートル先の本物の宝箱を目指した。


「火弾!」


道中の人食い宝箱も倒したが、敵のレベルも15まで上がっていた。


「わ、オーガ肉だって!これ当たり?」

「いや、確か不味いって聞いたぞ」


〈オークと違って筋肉質だからな〉

〈検索したら硬くて筋張ってて不味くて安い。オーク肉よりはヘルシーって出た〉

〈じゃあまたハズレか〉

〈軍手よりはマシだけど〉

〈4連敗じゃん〉


とりあえずマジックバッグにしまっておく。


「ところで、美愛さんの残り魔力はどんなもんですか?」

「えーとね、36!」

「得体が知れねえダンジョンだから魔力は温存した方がいいかもな」


次の戦闘からは攻撃担当を万堂さんにチェンジ。

話しているうちに本物の宝箱に辿り着いた。


「あたしが開けたい!」

「万堂さんお願いします」

「分かった」

「何で!?」


万堂さんが1番防御力高いから。

罠は無いはずだけど、用心に越したことはない。


「開けるぞ。罠は…無いな」

「やっぱり小瓶だ」

「鑑定結果は…エリクサーだって!」


●エリクサー…全ての傷、欠損、病気を治す




私達は4層へ降りる階段で小休止を挟んだ。


「やばいな…」

「やばいですね…」

「ちなみにエリクサーって市場に出たことあるの?」


〈ない〉

〈ないはず〉

〈金額は未知数ってことか…〉

〈でも欲しい人はいくらでも出すだろ〉

〈万能薬だもんな…〉

〈競売にかけたら難病の人が競り合って凄い額になりそう〉

〈悪魔かお前〉


「1番ヤバいのは宝箱に入ってたことだ」

「あ、そうか…」

「え?どゆこと?」


〈あ、一点物かもしれないのか〉

〈あー〉

〈また価値が上がってしまう…〉

〈てか他にも開けてない宝箱あんじゃね?〉

〈1層、2層にもある可能性はあるな…〉


「本物の宝箱探しに上戻るか?」

「帰りでよくないですか?」

「それもそうか…」

「何か2人とも疲れてない?」

「出てくる物が物過ぎてちょっとね…」


鑑定眼鏡くらいならラッキーで済むけど、マジックバッグやエリクサーとなると文字通り桁が違う。

全部配信しているので、私達が10億相当の物品を持っていることは知れ渡っている。

今後はまた知らない親戚が金を集りに大勢やってくるんだろうなぁ…。


「…行くか」

「…そうですね」


さりとて帰る気にもなれず、私達はまた探索に戻った。




「うわ」


例によって『透視』を使ったらまた本物の宝箱が見えてしまった。


「今度は何だ?」

「赤い宝石みたいな物が見えます」

「え、宝石!見たい!」


見習いたいそのポジティブさ。


「階段も見つけたけど、宝箱とは反対方向です」

「先に宝箱だな」

「ですね」

「赤い宝石って何かな?ルビー?」

「ルビーの原石ならいくらくらいですかね。数万円とか?」

「そんな安いの!?」


〈物による〉

〈高くても100万とかじゃない?〉

〈ジュエリーショップで見た感じそんなもんよな〉

〈1番高いルビーだと50億らしい〉

〈わお〉

〈舐めててすんませんでした!〉


道中には人食い宝箱も無く、その他の魔物と遭遇することもなかった。

このダンジョンには人食い宝箱しかいないのだろうか?


「着きました」

「え、2つ並んでるんだけど、どっち?」

「どっちか片方が当たりです。さあどっち!?」

「テンション壊れてない?」

「疲れてんだろう…そっとしておいてやれ」


正解は……み………ひ………ひだ……右です!!!


「先に左の偽物倒す?」

「そうだな」

「ここまでの流れからして敵は20レベだと思いますから、一応気をつけて」

「ああ」


戦闘担当の万堂さんが左の宝箱に近付いて行き、


「フンッ!!」

「GIGIGIIIIIIIIIIII!?」


大上段からロングソードを振り下ろして人食い宝箱を真っ二つにした。


〈容赦ねえ…〉

〈魔物にかける慈悲など無い〉

〈開けなければ必ず先制攻撃できるって雑魚くね?〉

〈今は透視あるから迷いなくぶった斬れてるだけだろ〉

〈透視なかったら開けて確認するしかないもんな〉


「何か出たぞ。杖?」

「あー!!!魔法の杖だー!!!」


●知恵の木の杖…魔力+15


「つっよ」

「いいなー!これあたしが貰っちゃダメ!?マジックバッグとかは2人にあげるから!」

「まあ、俺は使い道ないし構わねえけど…」

「やったー!杖だー!」

「いいんですか?これ多分億いきますけど…」


〈そんなにするの!?〉

〈魔法の杖は高いぞ〉

〈魔力+1の杖が1,000万円だ〉

〈ボリ過ぎだろ…〉

〈魔力ってまだまだ未知のエネルギーだからね。魔力に影響する魔法の杖も人造できてないんよ〉

〈あードロップ限定アイテムなのか魔法の杖〉

〈しかもこれ魔力+15だからな〉


ステータス+15の武器は伝説武器レジェンダリーウェポンと呼ばれている。

世界最強探索者・マックス氏が持っている剣が攻撃力+15で、世界最強の剣だ。




「っていうか本番はこれからなんですけど…」

「そうだった!」


念願の魔法の杖を手に入れてウキウキだった美愛さんも、私の一言で正気に戻った。

魔法の杖はただのランダムドロップアイテム。

前座に過ぎないのだ。

前座で億か…。


「何か、開けんの怖くなってきましたね」


〈はよ開けろ〉


「開けまーす。…うん、やっぱり赤い石ですね」

「鑑定は?」

「えっとね、賢者の石だって!」


●賢者の石…水を酒に、石を黄金に変えることができる


「…(黙って遠い目をする私)」

「…(しゃがみ込んで俯く万堂さん)」

「え!石を黄金にってやばくない!?あれ、2人とも大丈夫!?」


〈これは…〉

〈世界がひっくり返るで…〉

〈黄金の価値大暴落やん〉

〈壊れるなぁ…〉

〈世界が?〉

〈世界が〉



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