第42話 27層攻略

26層ボスを倒したので私達は27層へと向かった。

階段のある中腹付近を目指して山道を登っていく。


「GUOOOOOOO!!」

「ナックルベアーだ!」

「26層でも強い魔物です!気をつけて!」


『ナックルベアー』は完全二足歩行のデカい熊だ。

攻撃は両の拳によるパンチのみ。

ボクシングに目覚めた黒熊をイメージしてもらえれば大体そんな感じだ。


「じゃあ行ってきます」

「バフいる?」

「一閃使うので大丈夫です」

「オッケー、がんばー!」

「やっぱり1人で行くんだ…」


強いと言っても階層主でもない魔物なら1人で十分だ。

推奨討伐レベルも29とかそんなとこだろう。


「バウンド!」


ナックルベアーは既にこちらに気付いていた。

回り込むのも面倒だったので正面から突撃した。


「GUO!?」


100メートルほどの距離を1秒半で詰めるとナックルベアーは驚いたような声を上げた。


「一閃!」


そして即座に『一閃』で斬りつけた。

右腕から左腕まで斜めに深い傷が入り、一瞬後に両腕と上半身が地面に落ちた。


「終わりました」

「はっや!?」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:30

体 力:30

攻撃力:40

防御力:10

素早さ:120【MAX】

魔 力:16/19

 運 :24

S P :0

スキル:バウンド、透視、衝撃緩和、隠密、一閃、天恵

ーーーーーーーーーーーーーー




「2人とも強過ぎじゃない!?」

「本当に30レベですか?」

「実は40レベくらいだったりして〜?」

「本当に30レベだよ?」

「お三方は万能型、私達は特化型。さっきはその差が出ただけでしょう」


私も美愛さんも防御力をほとんど捨てているので、その分攻撃性能は高めになっている。

だから同レベルまでの魔物なら大体1人で完封できる。


〈じゃあ特化型の方が強いってこと?〉

〈万能型って弱いの?〉

〈でもダンジョン攻略サイトだと万能型推奨って言われてるけど〉

〈世界一位とか日本一位とかも万能型だし〉


「特化型は強みと弱みがはっきりしているので、相性の悪い相手には逆に完封されると思います」

「例えば?」

「広範囲に攻撃をばら撒かれた場合、避けきれなくて美愛さんは死にます」

「あたしだけ!?」


私は多分避けれるし…。


「それと、万能型を推奨してるのはスキル取得がランダムだからだと思うんですよね」


スキルはダンジョン探索者の強力な武器。

使いこなせば戦闘や探索が相当やりやすくなる。

だが、中には特定の条件下でしか発動しないスキルも存在する。

例えば『カウンター』。

これは『相手から食らった攻撃を倍にして返す』というスキルだが、私と美愛さんには使えない。

防御力にSPを振ってないので一撃食らったら死ぬからだ。


「そんな感じで、特化型だと使えないスキルが出てくる可能性があって、だから攻略サイトは万能型を推奨してるのかと」


特化構築にして不便を感じることがあんまりなかったから、多分そういうことだと思っている。


「なるほど…」

「つまり、スキルが噛み合えば特化型の方が強いってこと〜?」

「そこまでは言ってませんが、攻略サイトの情報が絶対正しいわけでもないと思います。まあ、人それぞれですよね」


〈無難な回答に落ち着いたな〉

〈でも実際そうだよね〉

〈スキルガチャに成功する自信があれば特化しても良いってことか…〉

〈そこで運が必要になるんだな〉


「そうですね、私も美愛さんも運良くスキルが噛み合ったので何とかなってるところはあります」

「流石運24…」

「運24は伊達じゃないってことか…」

「私も運に振ったら…」


運上げについては…自己責任でお願いします。

もし深層転移陣を踏んでも責任は取れませんので…。




さて27層。

山の裾野に出た私達は今後の方針を話し合った。


「とりあえず、レベル上げしない?」

「そうだね〜」

「ここのボスの推奨討伐レベルは32でしたからね」

「今度は5人で戦ってみようよ!」

「それなら前衛はサンさんと私、真ん中にサヤサヤ、後衛にフーちゃんとミアさんでいいですか?」

「ミアちゃんがいるなら私は前でも良いかもね〜」


なーみんさんとサヤサヤさんの案を採用して、前衛3人後衛2人の陣形で27層を登っていく。

そのうち『山大百足』という魔物に遭遇した。


「あ、虫無理だから後衛に下がっていい〜?」

「サヤサヤ…」

「ダメです」

「うえ〜」

「…もう火弾撃っていい?」

「どうぞ」


美愛さんの『火弾』3連打は山大百足に大ダメージを与えた。

本当は牽制目的だったのだが、どうもこいつは火魔法が弱点らしい。

百足が仰け反ったところに前衛3人衆が接近。

まず私が背後から一撃。

後ろに注意が移ったところへ、なーみんさんとサヤサヤさんが長物でぶった斬ってフィニッシュだ。


「私の出番、なかった…」

「あ、レベル上がった〜」

「あたしも!」

「私もです」

「うっそぉー!?」

「なんか楽勝だったし、みんなレベル上がったし、もうボス戦に行っちゃいますか?」

「行っちゃおう!」

「待って、私だけまだレベルアップしてないんだけど!?」




27層のボスは『岩石魔人』だ。

推奨討伐レベルは31。

ゴーレムみたいな魔物だが、移動時には丸くなって一塊の岩石のようになる。

防御特化だが、山の斜面を利用した転がりは相当なスピードになる。

轢かれれば大ダメージだ。


「できればゴーレム形態のところを不意打ちで倒したいですね」

「でも移動型のボスでしょ?」

「透視で探します。透視!」


『透視』を使って周囲を見渡す。

しかし半径200メートル以内には岩石魔人はいなかった。


「近くにいなかったので、ちょっと1人で索敵してきます」

「いってらっしゃーい」

「サンさん便利だな〜」


実際山フィールドは『透視』も『バウンド』も刺さりまくるから私の得意ステージ感がある。


(転がり攻撃は上から来られるのが1番厄介だから上に向かおう)


『バウンド』で道を無視して山を登っていくと、中腹付近にゴーレムっぽい魔物を発見した。

あれかな?あれだな。

帰りも『バウンド』で跳び降りて戻った。

往復10秒くらいで済んだ。


「いました。ここから上に400メートルくらい登ったところです」

「おかえりー」

「結構遠いね〜」

「次の階段ってどこだっけ?」

「頂上辺り」

「うげ〜」


〈じゃあ山登りするしかないね〉

〈下層はこれがあるからキツい〉

〈しかも帰りもこの移動するのか〉

〈帰りはサンちゃんが全員抱えて飛び降りればいいんじゃね?〉

〈なるほど?〉

〈いやいや無理無理〉


岩石魔人の元へ向かう間に『双頭の蛇』という魔物と遭遇した。

これもあっさり倒して、フーちゃんさんも無事にレベルが上がった。


「いました」


そして私達は27層ボスの岩石魔人を視界に収めた。




岩石魔人はまだこちらに気が付いていないようだ。


「火弾撃っちゃう?」

「いや、岩石形態になると面倒なので、こっそり近付いて先制大ダメージを狙いましょう」

「頑張って〜」

「サンさんお願いします」

「ファイトー!」


うんまあ、私だよな。

私は『隠密』で気配を消し、岩石魔人の死角から接近。

真後ろまで来たが、未だ気付かれていないようなので、思いっきり振りかぶって『一閃』を発動した。


「一閃!」

「UGOGOGOOO!!?」


不意打ちの『一閃』だったが両断はできなかった。

胴体を半分裂くのが精一杯か。

流石にゴーレム系は硬い。


「バウンド!」

「火弾!」

「ブレイクアロー!」


私が跳ねて後退した瞬間、後衛2人の攻撃が入れ替わりで飛んでいった。

『火弾』は頭部に、矢は胸部に当たって岩石男は後ろに倒れた。

そこへなーみんさんとサヤサヤさん、そして『バウンド』で戻ってきた私が突っ込んだ。


「魔装!雷神斬り!」

「はあっ!」

「一閃!」

「UGOOOOOOOOOO!!」


弱点の腹部をめった斬りにされた岩石男は爆散して消えていった。


「あ、レアドロップだ!」


・岩石盾…防御力+7


「わー!レアドロップ久々かも!」

「防御力+7は強いですね」

「盾か〜。あれ?誰か盾使いいたっけ?」

「「「「…」」」」


せっかくのレアドロップだったが盾の使い手はいなかった。

売却するか…。


「せっかくのレアドロップなのに〜」

「ちょっと勿体無い気するね」

「まあ、魔石よりは高いから…」

「防御力+7なら100万くらいで売れそうかな?」

「100万円!良いじゃん!」


5等分しても1人20万円。

悪くない収入だ。


「っていうか、誰が持っていくの?この大きい盾」

「「「「…」」」」


公正なジャンケンの結果、フーちゃんさんが持つことになった。


「重いよおー!」




それから30分ほどかけて山を登った。


「思ったんだけどさ、山登りキツくない?」


遠くに見えている階段に向かいながら、美愛さんが泣き言をこぼした。


「分かる〜!」

「でも下層はこんなんばっかりらしいよ?」

「31層からは雪フィールドでしたっけ?」

「36層は沼、41層は海、46層からは火山ですね。海や火山に比べたらまだマシな方かな」

「うげ〜」


〈下層はフィールドが1番の敵まである〉

〈海は水魔法持ちか漁師が仲間にいないと無理だろってレベルらしいし〉

〈うちはなーみんが水魔法使えるから大丈夫か〉

〈まだ全然先の話だけどね〉


「私達は水魔法使えないから41層無理そうですね」

「え、じゃあどうするの?水魔法使い仲間にする?」

「もしくは46層に転移して海フィールドすっ飛ばすかですね…」


しかし5層も飛ばしたら今度は魔物とのレベル差問題が発生するだろう。

それも特化型なら何とかなるだろうか?


「じゃあさ、41層行く時はまたパーティー組もうよ!」

「それ良い!」

「遠慮しておきます」

「「何でよ!!」」

「何度もコラボってなると私のXwitterが炎上するかもしれないから…」

「炎上にビビり過ぎじゃな〜い?」

「むしろ皆さんがビビらな過ぎでしょ。見てくださいよコメント欄を」


〈たまにコラボするのは良いけどパーティーメンバー増えるっていうのはちょっとね…〉

〈俺はモーニング☆スターの3人がわいわいしてんのが好きなんだ〉

〈コラボも良いけど3人だけの配信が無くなるのは悲しいかも〉

〈サンちゃんもミアちゃんも可愛いけどね〉


「ほら」

「え〜ダメか〜」

「ダメなんだ…」

「ダメなんです」


民意は我にあり。

オタクやファンっていうのは繊細な生き物なんです。




28層行きの階段で一時休憩。


「疲れたー!」

「チョコ要ります?」

「いる〜!」

「用意良いですね」

「前に深層で遭難しかけたことがあってぇ…」


〈草〉

〈あの時は大変だったもんなw〉

〈55層の踏破理由「お腹が空いたから」だったからねw〉

〈それマジ?〉


「流石に今日はこの階層までですかね?」

「帰りの時間を考えるとね〜」

「30層は無理かー」


少し休んで28層に出た。

また、全員で戦うと余裕過ぎたので2チームに分かれることにした。


「「「「「グーとパーで分かれましょ!」」」」」

「お、3、2に分かれた!」

「あたしと風子ちゃんとサヤちゃんだね!」

「大丈夫ですか?全員後衛寄りの編成になりましたけど…」

「サヤサヤ前衛頑張って!」

「ファイト!」

「うえ〜でもそうなるよね〜」


公正なグーパーの結果、28層の初戦は美愛さん・フーちゃんさん・サヤサヤさんが戦うことになった。

3人とも頑張れ〜。

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