第43話 スキルガチャ失敗

先行する3人の後ろを私となーみんさんがついていく。


「大丈夫かな…」

「まあ、最悪美愛さんが火弾30連射くらいすればどうにかなると思います」

「30連射…とんでもないですね…」


実際とんでもない。

魔力100に『魔力回復』も付いていると、『相手が死ぬまで火弾を撃てば相手は死にます』みたいな頭の悪い戦闘が可能になってしまうのだ。


「やっぱり私も特化させた方が良いのかな…」

「何か悩みでも?」

「…最近、2人の足手纏いになってる気がして」


そう言うと、なーみんさんは自身のステータスウィンドウを開いた。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:なーみん@モーニング☆スター

レベル:32

体 力:56

攻撃力:57

防御力:57

素早さ:56

魔 力:20

 運 :10

S P :0

スキル:剣術、身体強化、拳術、水の拳、縛法

ーーーーーーーーーーーーーー


「…特に問題ない万能型のステータスだと思いますけど?」

「スキルが…」

「スキル?」

「…剣術、拳術、縛法っていう、全然関係ないスキルを引いてしまったんです」

「あー」


言われてみればスキルに統一性は無かった。

ぱっと見では近接系でまとまっているようにも見えるが、


「剣術は剣を持っていないとダメ。拳術は両方の拳を握っていないとダメ。縛法は縄を操る能力ですが、これも手を使うので同時には使えないんです」

「なるほど…」


これは所謂いわゆる『スキルガチャ失敗』というやつか。




「剣と縄なら一緒に使えませんか?」

「使えますけど、そもそも縛法が補助技でそれほど強くないんです」


なーみんさんは腰のベルトに提げていたロープを手に持った。


「縛法!」


スキルを発動すると、ロープは勝手に動いて私の腕に絡まった。


「おおー」

「解除!」


もう1度掛け声を入れると、ロープは解けて地面に落ちた。


「へー、結構色々使えそうな能力ですけど、ダメなんですか?」


声だけで任意の対象を縛れるのなら、腕も使わないし問題はないのでは?


「効果範囲がとても狭いんです。縛れるのはロープから30センチの距離にあるものだけで」

「30センチ…」


私は小学生時代に使っていた30センチ定規を思い浮かべた。

それは、ちょっと短いな…。


「結局手に持って投げるしかないし、大きい魔物や力の強い魔物は縛ったところで簡単に振り切られてしまいます」

「下層までくるとデカい魔物ばかりですからね」

「はい…」


思い返すと、なーみんさんは今日も刀しか使っていなかった。

使えるスキルが『剣術』と『身体強化』しかないとなると、力不足を感じても仕方ないのかもしれない。


「でも、スキルが噛み合ってないなら尚更特化は厳しいのでは?」

「やっぱりそうですよね…」


なーみんさんはため息をついて肩を落とした。




「あ、魔物だ!」


後衛3人娘は『ホワイトゴリラ』という魔物を見つけて戦いに向かった。

ドローンも3人を追いかけて行った。


「まあ、そんなに焦らなくていいのでは?そのうち新しいスキルも覚えるだろうし」


スキルは大体5レベ毎に1つ覚える。

サヤサヤさんは32レベなので、もう6つ目のスキルを覚えてもいい頃だ。

それで何か都合の良いスキルを覚えれば悩みも解消されるかもしれない。


「…例えば?」

「何かこう…背中から腕が生えてくるスキルとか」

「そんなスキルが?」

「すみません…テキトーなこと言いました」


『多腕』みたいな感じで意外と普通にありそうな気もするが、あったとしてもアイドルが背中から腕を生やすのはまずいか…。


「…6つ目のスキルなんですけど」

「え、はい」

「…実はもう覚えているんです」

「あれ、そうなんですか。でもステータスには無かったような?」

「普段は非表示にして見えないようにしていて…」


ステータス画面は結構簡単に弄れる。

例えば私も本名は伏せて『サン』にしているし、性別も非公開にしている。


「どんなスキルなのか聞いても?」

「…悪臭です」

「それは…アイドル的にもまずいし、女の子的にもまずいですね…」

「はい…」


『悪臭』は身体から強烈な臭いを放出して、敵を近付けなくするスキルらしい。

使い道はあるのかもしれないが、女の子に使わせるには酷な能力だ。

なーみんさんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、目には若干涙が溜まっていた。

可哀想…。

何とかしてあげなきゃ…。




バゴーン!

という爆発音がして目をやれば、天高く火柱が上っていた。

あれは美愛さんの新スキル『大炎上』だ。

どうやら魔物を倒し終えたらしい。


「どうだったー!」

「すごかったー」

「何か棒読みじゃない?」


ごめん、正直全然見てなかったわ。


「次は2人の番だけど、2人でいけそう?」

「まあ、やってみましょう」


今度は私となーみんさんが先頭に立ち、魔物を探し始めた。


「基本的に私は囮をやるので、隙ができたらなーみんさんがトドメを刺してください」

「はい」

「あと、できれば拳術の方を使ってほしいんですけど」


私は右手でグーを作って見せた。

どっちも『ケンジュツ』だから紛らわしい。


「どうしてですか?」

「拳術はまだ見たことないので。見てみたら、何か名案が浮かぶかもしれませんよ」

「…うん」

「2人だけで何の話?」

「何か距離縮まってな〜い?」

「やめてください。Xwitterが炎上しますよ、私の」

「あ、魔物いたよ!」


現れた魔物は『ブラックゴリラ』だ。

ホワイトゴリラと対をなす存在で、性能もホワイトゴリラと変わらない魔物。

白黒ゴリラが2体揃うと特殊な合体技を放ってくるが、今は1体だけなので普通にゴリラである。


「じゃあ手筈通りに」


まず私が先行して黒ゴリラの後ろへ回る。

で、『バウンド』による急加速で不意打ち。


「UHOOO!!?」

「バウンド!バウンド!バウンド!」


跳ね回りながら浅い傷を増やしていく。

『一閃』を使わず『チアー』も無しだと、中々致命傷を与えることはできない。

それでもダメージは入る。

そのうち黒ゴリラの注意が完全に私の方へ向いた。


「はあああっ!!」

「UHOO!!?」


その隙を逃さず、接近していたサヤサヤさんが『水の拳』で殴りかかった。

完全に不意を突かれて背中をブン殴られた黒ゴリラは、逆海老反りになって吹き飛んでいった。


「ナイスパンチ!」


側から見ても良いダメージが入った。

だが黒ゴリラにはまだ息があり、近くの木を支えにして起き上がろうとしていた。

私は『バウンド』で近付いて、黒ゴリラの首を刈ってトドメを刺した。




「ナイスです」

「なーみんさんも良いパンチでした」


『拳術』を見るのは初めてだったが、予想よりも攻撃力は高かった。

何なら『剣術』よりも強いのではないだろうか?

『拳術』なら専用技の『水の拳』も使えるわけだし。


「でも、また倒し切れませんでした…」

「ダメージとしては十分でしたけど…?」


なーみんさんは暗い顔をして言った。


「倒し切れないと反撃を受けます。反撃を受けると怪我をして、怪我をすると治療代がかかります。ポーションは弱でも1本3万円です」


そういえば、山ゴブリン戦でもなーみんさんは軽傷を負っていた。

あの時は『剣術』を使っていたが…。

それに、そもそも前衛の近接職はどうしても怪我が多くなるポジションだ。


「なるほど…何となく分かってきました」


サヤサヤさんは槍使いでリーチが長く、魔法も使える中距離担当。

弓使いのフーちゃんさんは長距離戦闘を得意としている。

2人はあまり怪我を負わないのだろう。


(サヤサヤさんの露出が多いのも怪我をしない自信があるからだろう)


自分だけが怪我をする。

それが自分のスキルの噛み合わせの悪さのせいだったら、負い目を感じてしまうというのも理解できる話だった。


「防具をもっと厚くすれば?」

「試しましたが、ダメでした。少しくらい防御力を上げても怪我はするし、あまりに重い装備は素早さを下げるから、どうしても被弾が増えて、結局…」

「うーん、八方塞がりですね…」

「そうなんです…」

「おーい!2人ともー!何の話してんのー?」


話し込んでいるとフーちゃんさんが駆け寄ってきた。


「さっき3人で相談したんだけど、そろそろ帰り始めないといけないから最後に全員で階層主を倒しに行かない?」

「28層の階層主って何でしたっけ?」

山姥やまんば!」




なーみんさんの悩みは当然フーちゃんさんもサヤサヤさんも知っているだろう。

配信者だから、リスナー達から意見を募ったこともあったかもしれない。

それでも解決していないということは…。


〈山姥は推奨討伐レベル33です〉

〈画像検索したら超怖い鬼ババアだった〉

〈包丁振り回すムキムキのお婆さん怖い…〉

〈足が速くて攻撃力も高いけど高齢なので体力と防御力は低めらしい〉


「魔物に高齢とかあるの?」

「さあ〜?」

「あ、いた」


山姥は50メートルほど先の山道を1人でウロウロしていた。


「まだこっちには気付いてないっぽいね」

「じゃあ打ち合わせの通りに…」

「待ってください」


そこで私が待ったをかけた。


「どうかした〜?」

「山姥戦は『モーニング☆スター』の3人でやってもらえませんか?」

「え、何で?」

「前衛なーみんさん、中衛サヤサヤさん、後衛フーちゃんさんでお願いします。サヤサヤさんは後ろ寄りに構えて、フーちゃんさんのサポートメインで」

「それは…」

「なーみんの負担重くない?相手は格上のボスだよ?」


私は自分の短剣を抜き、なーみんさんに手渡した。


「どうして短剣を…?」

「剣術と拳術と縛法を全部使うためです」

「短剣でも、握っていたら拳術は使えませんよ?」

「分かっています。短剣は縛法で足にでも結んでおいてください」


長刀では、足に結んだ時邪魔になるだろうから。




『剣術』は剣の扱いが上手くなる。

具体的には攻撃力と素早さが+3される。

そして発動条件は『剣を握っていること』ではなく『剣を装備していること』だ。

剣にも腕に装着するタイプの剣とか、口に咥えて三刀流とか色々あるから、別に握っていなくてもいいらしい。

ソースはWakipedia。


『拳術』は両の拳を握っている時に体力と攻撃力と素早さが+3される。


『身体強化』は体力と攻撃力と防御力と素早さが+3される。


『水の拳』は攻撃力が+5される。


全て発動したバフの合計は以下の通り。


ーーーーーーーーーーーーー

体力+6

攻撃力+14

防御力+3

素早さ+9

ーーーーーーーーーーーーー


合計30以上のバフだ。

これならかなり強くなるのではないか?


「サンさん…実はこれもやったことがあるんです」

「あら」

「長剣を腕に縛って…」

「結果は?」

「ダメでした。結局、防御力は上がりませんから」

「じゃあ盾も付けましょう」

「え?」


色んな人の意見を聞いて、それでも解決しなかったのは、単に必要なピースが欠けていたからではないか?


「フーちゃんさん、岩石盾を貸してください」


岩石盾を腕に縛れば防御力+7。

合計39のバフになる。


「でも重いよ、この盾」

「重い物持ったら素早さ下がっちゃうよ〜?」

「それでは結局被弾が増えるんじゃ…」

「そのためのバフだと考えてはどうですか?」


重い盾を持つと素早さは下がる。

ならば下がる分の素早さを先に上げておけばいい。


「むしろもっと防具を増やしてもいいかも。バフで相殺できる範囲でゴテゴテに。例えば、全身を金属鎧で覆うとか」


怪我をしないために必要なのは、やはり防御力だろう。

肝心の防御力がバフで上がらないなら、バフを生贄に外付けで防御力を上げればいい。

逆に考えるんだ。

『剣術』も『拳術』も『身体強化』も、防御力のためなら全部捨てちゃってもいいさと考えるんだ。




なーみんさんはバフを盛りまくった状態で山姥の前に立った。


「HAAAAAN?」

「い、いきます!」

「HAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


山姥は絶叫し、包丁を振り上げて、なーみんさん目掛けて全力で走ってきた。

物凄いスピードだ。


「雷撃!」

「ブレイクアロー!」

「HAAAAAN!?」


しかし、なーみんさんは囮役。

本命は脇の茂みに身を隠していたフーちゃんさんとサヤサヤさんだ。

2人からの遠距離挟撃攻撃を、山姥は身を翻してギリギリで回避した。


「今だ!!」

「なーみん!!」


回避行動を取った山姥は、なーみんさんの接近に反応が遅れた。


「はあああっ!」


そして、なーみんさんの右ストレートが山姥の腹に突き刺さった。


「AAA!!?」


山姥の口から胃液のようなものが吹き出した。

が、未だ倒し切れてはいない。

山姥は右手の包丁を振り上げた。


「HAAAAAAAA!!!」

「ふっ!!」


しかし、なーみんさんは反撃を読んでいた。

苦し紛れの包丁攻撃をいともあっさりと盾で弾き飛ばす。


「はあああああああああああああっっっ!!!」

「HAGAAAAAA!!?」


右拳が引かれ、腰溜めになり、そこから再度放たれた渾身のストレートパンチは今度こそ山姥の身体を爆散させた。


「ナイスー!!」

「なーみん、凄〜い!!」

「本当に凄くない!?格上のボスだよ!?」




それから私達は山道を戻り、26層にある1層行き階段の前で配信を終えた。


「サンさん、今日はありがとうございました」

「え?私、何かしましたっけ?」


結局、私の『バフ盛り盛り案』は既に他の誰かが考えていたものだった。

その時は上手くいかず、今回は上手くいったのは、たまたま手持ちに強力な盾があったからだ。

要するに、また運が良かっただけである。


「それでも…諦めた案をもう一度試そうと思えたのはサンさんのおかげです」


なーみんさんはそう言って、スッキリした顔で微笑んだ。


「…まあ、お役に立てたなら何よりです」

「あのさ、ちょっと仲良過ぎじゃない?」


なーみんさんと話して込んだいたら、機嫌の悪そうな美愛さんがジトーっとした目で割り込んできた。

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