第8章 一流ダンジョン配信者さん
第36話 100万円で装備を買う
「みんな〜こんにちは!新人ダンジョン配信者の〜ミアです!」
〈こんにちはー〉
〈きちゃー!〉
〈うおおおお始まったああああああ〉
〈初見です〉
〈こんな時間の配信珍しいな〉
〈昼活助かる!〉
〈あれ、サンちゃんは?〉
「いまーす。みなさん、こんにちは。今日はカメラ持ち担当のサンです」
私はスマホのカメラを自分の方へ向けた。
「今日はダンジョン探索には行かないので、ドローンではなくスマホで撮影しています」
「みんな聞いて!今日の配信はなんと、お買い物配信だーーー!!!!!イエーーーイ!!!!!」
うわー、美愛さんテンション高えー。
今日は昼からダンジョンの外で『お買い物配信』をする。
この前のスタンピードの結果『品川ダンジョン』は1週間立ち入り禁止。
しかし1週間も配信をしないわけにはいかないので、今週は『品川ダンジョン』の外でできる配信をやっていくことにした。
「ということでやってきました!『品川ダンジョン』近くにあるダンジョングッズ専門店『BUKIYA』さんでーす!」
「概要欄にも書きましたが、本日の動画撮影は店長様の許可の上実施しております」
現在の時刻は昼の12時3分。
ランチタイムのため、店内には私達以外の客の姿は無かった。
〈買い物動画の撮影って許可必要なんか?〉
〈当たり前だろ〉
〈他の客の迷惑になるしな〉
〈カメラ構えて延々と何か喋ってる客とか不審者以外の何者でもないし〉
「なるべく迷惑にならないようランチタイムを狙って来ました。この状況なら多少喋ってても問題はないはず。もちろん大声を出したりするのは控えます」
「そんなことより凄くない!?めっちゃファンタジーじゃん!」
「あの…大声…」
美愛さんは店内の光景に大興奮であった。
壁に掛けられた剣や盾。
マネキン人形には
棚に畳んでおいてある布もダンジョン探索用のマントである。
「…でも確かに、ちょっとワクワクしますね」
「でしょ!」
まるでテーマパークにでも来たみたいだ。
テンション上がるなぁ〜。
「今日は買い物配信ですが、ただ買い物をしてもつまらないと思うので企画を用意してきました。題して…」
「『100万円使い切るまで帰れません』!!」
〈100万!?〉
〈やっばw〉
〈思い切ったねぇ〉
〈まあダンジョングッズって高いしな〉
〈魔法加工した剣なら何千万とかするしな〉
〈何千万マジ!?〉
〈そんな高えんだ…〉
〈100万円とか全然やん〉
「流石にそんなハイエンドクラスの武器は買わねえし買えねえです」
ただ私達のレベルも中堅クラスにはなってきたし、配信者的には一線級と言って差し支えないところまできたので、それなりの装備を整えようという感じだ。
〈1人100万?2人で100万?〉
「もちろん、2人で100万です。1人50万ずつ買う感じですね」
なお全額私が負担する。
美愛さんが50万円も持っているわけがないのだ。
まあ今月の配信収益でペイできるから…。
「あたし、買い物で50万円も使うの初めて!」
「私も初めてです。で、何から見ていきますか?」
「服!」
ということでまず服コーナーへ向かった。
「わ、凄い!思ってたより可愛い服ある!」
「意外ですね。私も冒険者向けの服なんて無地とか無骨なデザインが多いのかと思ってました」
〈ワイも〉
〈私も〉
〈じゃあ俺も〉
〈真っ黄色の服とか絶対目立つだろ〉
〈本当に探索者向けなのか…?〉
〈女向けの服多くね?〉
〈探索者なんて男の方が多いだろうに不思議だな?〉
〈探索者向けでもファッション需要はやっぱ女性の方が多いんだろう〉
「あ、これ可愛い!超ハート付いて…たっか!?これ1着で55,980円!?」
「でも防御力+1付いてますよ。多分良い生地とか使ってるんじゃないですか?」
「うーん、でも56,000円で防御力+1ってどうなの?」
「まあ、悪くはないのでは?全身揃えて防御力+5とかになったら結構なパワーアップになるし」
「でもあたし達って防御力捨ててるよね?」
「それは…まあ…」
いやでも、それを言ったらお終いですよ。
私なんか全回避前提の構築だから、極論を言えば裸でも問題ないっちゃない。
でもそんなわけにはいかないし、防御力はあって困るものでもないから、高価な相場で防御力の底上げをするのも無意味ではない。
…はずだ。
その後も美愛さんは様々な服を物色しては戻し、物色しては戻しを繰り返していた。
「美愛さんは長そうなんで、先に私が試着してきても良いですか?」
「え、もう決めたの!?どれ!?」
「せっかくなので試着してお披露目にします。ちょっとの間スマホ持っててください」
スマホを美愛さんにパスし、私は試着室に入った。
「…今このカーテンを開けたら、謎だったサンさんの性別が明らかに…」
「マジでやめてください」
普通にセクハラだよ。
「着替えました。どうですか?」
「えー!めっちゃ良い!!」
赤のVネックシャツに、動きやすさ重視の黒色カーゴパンツ、その上から膝まであるスプリングコート(深緑色)を羽織っている。
「下はもう少し変えたいかな?スウェットとかも見るか、細目のカーゴパンツでも探すか…」
「結構首元出すんだね…ちょっとセクシーな感じする」
「首元キツいの苦手なんですよね」
〈鎖骨エッッッッッ〉
〈赤インナー派手じゃない?と思ったけど上に黒緑のコートならそんなに目立たんな〉
〈かっこいい…好き…〉
〈その服女物じゃね?〉
〈つまりサンちゃんは女の子で確定?〉
〈最近はレディース着る男子もいるよ〉
〈似合えば何でもええやろ〉
なお3点全てに防御力+1が付いていて、合計金額は11万円ほどだった。
美愛さんは服選びに悩みまくり、一向に決まる気配がなかった。
「何でダンジョン探索用の服がこんなに可愛いのばっかりなの!?(嬉しい悲鳴)」
「まあどれも良い値段してますからねえ」
「1着に決めるなんて無理だよぉ!(超笑顔)」
「先に他のもの見にいきますか?予算余ったら2着買ってもいいし」
「え、本当!?じゃあそうする!」
で、次に向かったのは靴売り場だ。
「私的には靴が1番大事かなと思ってて」
「めっちゃ歩くもんね、ダンジョン」
「しかも私は前線で走り回るんで、靴が痛みやすいんですよね…」
今までは安いスニーカーで済ませていたが、素早さ120になってから既に3足目に突入している。
高速移動に耐えうる頑丈な靴は是非とも入手しておきたいところだった。
「うわー!靴も可愛いのいっぱいある!」
何の気無しに手にした編み上げブーツ。
値札を見ると79,800円だった。
「ガチ高級ブーツじゃん…うわー悩むー!」
「美愛さんそろそろ何か決めないと、動画の尺的に…」
「分かってるけど!でもこの辺の高級ブーツに合わせるならシック系でまとめるしかなくない?さっき良いなと思ってたピンクのカーディガン合わせんの無理じゃない?どうしたらいい!?」
「まあ…頑張ってもろて…」
「何か雑!サンさんも一緒に考えてよ!」
確かに美愛さん1人に任せていたら日が暮れても決まらないだろう。
仕方がないので手伝うことにした。
「美愛さんは美人なんだから何でも似合いますよ」
「今そういうお世辞いいから!」
〈こわ〉
〈褒めたのに…〉
〈相当ピリついてて草〉
〈ダンジョン攻略より真剣そう〉
〈服選ぶの楽しいからしょうがないね?〉
「お世辞じゃないですよ」
「本当?本当にそう思ってる?」
「思ってます」
「……そっか」
〈おお、宥めたぞ〉
〈チョロい〉
〈やるな〉
〈女の扱い上手くね?〉
〈私もこんなこと言ってくれる彼氏が欲しかった…〉
〈あれ、これカップルチャンネル?〉
〈イチャイチャしやがって…〉
〈【定期】ミアちゃんには他に彼氏がいます〉
〈え!?そうなん!?〉
〈これ見たら彼氏くん嫉妬しない?大丈夫そ?〉
〈彼氏くんの脳はもうボロボロよ〉
「じゃあサンさんはどれがあたしに似合うと思う?」
「あ、靴じゃなくて服でいいですか?さっき気になった服があって…」
私達は服コーナーに戻った。
「これです」
「え!何これ、ケープ?マント?」
私が勧めたのは長めのケープ。
マントコートって感じのやつだ。
「魔法使いならローブとかマントかなと思って」
「可愛いけど、これ着て外歩くの恥ずくない?ちょっとコスプレ感ない?」
「ダンジョン内で着る分にはいいのでは?」
ダンジョン内は剣と魔法のファンタジーだ。
何ならマントの方が馴染むだろう。
「あー、その考え方はありかも!うわ、しかもピンク色もあるじゃん!」
「マントコートのファンタジー感なら高級ブーツにも合うんじゃないですか?」
「えー、どうしよう、これに決めた方がいい!?」
「こっちにはファー付きの物もありますね」
「ファーも良い〜!けど、流石に暑くない?」
「確かに」
ダンジョン内の天候は一定。
砂漠等の特殊フィールドでなければ気温は20℃前後だ。
あまり極端に厚着にすると使いにくい。
「でもファー可愛い〜」
「お好きなように」
「う〜…ピンクと黒ならどっちが良いと思う?」
「美愛さん色白で金髪だし、白マントで白統一とかでも良くないですか?」
「え、全身真っ白はちょっと…レベル高過ぎない?」
「白系の同系色でまとめる感じなら何とかなりません?」
「あー、それは何とかなるかも!」
ベージュやら何やらで彩度低めの白系まとめなんてむしろ無難でよくある部類だろう。
「というか、マントなんて羽織るだけなんだから、全部試着すれば良いのでは?」
「それだ!!!!」
試着した結果、黒よりは白かピンク。
更にブーツを履くならシックに寄せて白だろうと決まった。
「白ならファー!」
「インナー薄くして調整しますか」
「スカート可愛い!」
「パンチラしそうなんで止めましょう」
「じゃあショートパンツ!」
「足剥き出しは転んだ時血塗れになりますよ?」
「厚手のタイツ履いとくから大丈夫!」
白マントコート、白シャツ、グレーのショートパンツ、グレーのタイツ、白レースアップブーツで合計20万円のお買い上げ。
ちなみに私は10万もした黒のコンバットブーツを買った。
爪先に鉄が埋め込んであって、蹴りの威力も上がりそうな代物だ。
これで私は服と合わせて21万円の買い物になった。
「で、こっからが本題ですよ」
思ったより服に時間を取られたが、私も美愛さんも防御力捨て気味なんだから服の防御力+1なんてオマケもいいところ。
本題はここから。
そう、武器だ。
「1層からずっとゴブリンダガーで来ましたけど、流石にそろそろ買い替えの時期」
「長く使った愛着とか無いの?」
「無い」
〈無かった〉
〈断言で草〉
〈所詮ゴブリンダガーやし…〉
〈いうて使用期間も1ヶ月くらいだし…〉
〈お疲れゴブリンダガー〉
〈ゴブリンダガー…いいやつだったよ…〉
ゴブリンダガーは今後は予備武器としてリュックの中で頑張ってもらう。
「うわー、やっぱ剣高いねー」
武器コーナーに行ってショーケースの中の剣を見たら1,000万円だった。
〈買えねえじゃん〉
〈流石にもうちょい安いのもあるだろ〉
〈ショーケース入ってるし多分店で1番高い武器だろ〉
〈短剣なら奥の棚や〉
「あ、この辺じゃない?ほら、20万の短剣!」
「いいですね。でも残金29万なので、もうちょい上でもいいかな」
この後バッグと防具を見に行く予定だが、バッグは別に安くて良いし、防具は無くても構わない。
〈ナイフって20万もすんのか〉
〈んなわけ〉
〈ダンジョン用の特別製だろ〉
〈攻撃力にバフ付くんやろな〉
〈ゴブリンダガーで+3だっけ?〉
「サンさん、何かご要望はありますかー?」
「両刃剣が良いなと思ってます。ゴブリンダガーは片刃で、取り回しが不便な時があったから」
「両刃…両刃…これ?」
・ダンジョン鉱の両刃短剣…攻撃力+5。25万円。
〈攻撃力+5か、ええな〉
〈ゴブリンダガーから2アップか…どうなん?〉
〈25万で+5ならええんちゃう〉
〈25万で+5なら1,000万の剣ってどんだけ凄いんだ?〉
〈俺の長剣50万で+6だから1,000万でもそんなに上がらんと思うで〉
短剣の刃渡りは30センチ少々で、ゴブリンダガーとほぼ変わらない。
つまり今まで通りの感覚で振るえるということだ。
「よし、これにしよう」
これで私は合計46万円。
あとはリュックも新調して終わりかな。
〈魔法の杖とかあんのかな〉
〈あるけどくっそ高いぞ〉
『魔法の杖』は1番安くても1,000万円くらいする。
強力な魔物からドロップした魔石を加工して杖の先に嵌め、魔法発動時にバフを乗せるアイテムだ。
だが、高価な魔石を使う上に、特殊な加工技術が必要になるのでクッソ高い。
「一応見てきたけど、やっぱり1,000万円からだったー」
「1,000万は…下層まで潜れるようになればギリ手出せるようになりますかね…」
「来月配信の収益が入ってくれば買えたりしない?」
「流石に1,000万は超えないですねえ…」
というか月収4桁万円ってヒ●キンとかの域だろ。
無理無理。
その後バッグとベルトを買ったところで、私は50万ちょいでフィニッシュとなった。
美愛さんは大容量のウェストポーチ(3万円)を購入し、再び服を選びに戻っていった。
「残りは27万円。多少超えるのは仕方ないとして55,000円の服を5着買える計算。くぅ…この中からたったの5着!」
〈女物の品揃えが良い理由〉
〈誰だってそうなる。私だってそうなる〉
〈これは長引きそうだな〉
〈2時間コースってとこか…〉
「美愛さん。ぼちぼちランチタイムも終わって、他のお客様も増えてきたので、あと30分以内で残り27万使い切る感じでお願いします」
「30分!?」
「私は待ってる間、カメラ持って店の中回ってます。とりあえず向こうの帽子コーナーにでも…」
「帽子コーナー!?」
そして30分後。
美愛さんは27万円をきっちり使い切り、大量の袋を抱えながら満面の笑みを浮かべて帰っていった。
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