第35話 救いの天使・サン

その後も救助を続行したが、0時を過ぎた頃に一旦戻ってくるよう指示があった。

ダンジョン管理センター受付まで戻ると、そこには探索者達の他に機動隊らしき人達が詰めていた。


「先ほど武蔵氏から、スタンピードの原因と思しき51層の魔物を複数体討伐した、との連絡がありました。上がってきた魔物もみなさまのご協力である程度は討伐できたかと思います。よって、本日の救助作業は以上で終了といたします」

「待ってくれ。まだ助けられていない人がいるはずだ」

「それはその通りですが、みなさまも疲労が溜まっているご様子。無理して二次被害が発生しては本末転倒です」


後のことは集まった機動隊に任せるように、とのことだった。

『国の準備が整ったから探索者は用済みね』みたいな感じがして若干納得いかない部分もあったが、実際疲れていたから文句も言えなかった。


「なお、本日ご協力いただいた分の報酬は後日改めてご案内させていただきます」

「…はぁ」


それで私達探索者は解散となった。




翌日。

昼過ぎに品川ダンジョン管理センターへ行ってみると、ダンジョンは立ち入り禁止になっていた。

入り口には黄色いテープが巻かれ、警察官が2人見張りとして立っていた。


「一般の方は立ち入り禁止です」

「私、探索者なんですけど」

「探索者も一般人です」


そう言われては返す言葉も無かった。


(スタンピードでダンジョン内はめちゃくちゃ。人を入れるわけにはいかないのは分かる。問題は立ち入り禁止がどれくらいの間続くかだなあ…)


ダンジョン内部はどれだけ荒れても数日で元に戻るらしいので、そのうち解禁されるとは思うけど。

詳しくは公式の発表を待つしかないか。




「あの…もしかしてサンさんですか?」


ダンジョンの前でボサッとしていたら男子学生らしき2人組に話しかけられた。


「…いえ、人違いです」

「いやいやいや、絶対サンさんですよね?」

「俺、昨日の配信見てました!」


OMGオーマイガー、何故バレたし。

一応身バレを防ぐために帽子とメガネで変装してきたのだが。

…帽子とメガネの怪しい奴がダンジョンの前でボサッとしていたら目立つか…(自己解決)。


(昨日の配信というと多分3chの方の配信じゃなく、被害状況撮影用ドローンで撮られていた方の配信かな…)


私と万堂さんコンビは救助人数ぶっちぎりの1位。

そのためか知らないが、中継映像に抜かれまくっていたらしい。


「サインとか貰えますか」

「サイン無いので…」

「『救いの天使サン』って書いてもらえれば大丈夫です!」


嫌です。

『救いの天使』はマスコミが勝手に付けた異名だか、恥ずかしいからマジで勘弁してほしい。


「そもそも紙もペンも無いので…」

「そこのコンビニで買ってきます!」

「あ、急用を思い出したので、これで…」


サインなんか書けない私は急いでその場から逃げ出した。

今後変装をする時はマスクも付けてこようと心に誓った。




『品川ダンジョン』が封鎖されたということは、私はやることが何も無くなってしまったということだ。

学校にも行っていないので、簡潔に言えばニートだ。

夏だし夏休みということにしてもいいが、配信者的には長く配信をしないのはまずいだろう。


「多分1週間もあれば『品川ダンジョン』の封鎖は解かれると思うけど…」


家に帰ってベッドに寝っ転がりながら思案にふける。


「中継映像に抜かれまくったからか、チャンネル登録者数は更に伸びたんだよなあ…」


【現在のチャンネル登録者数:50万人】

【Xwitterのフォロワー数:40万人】


正直もう十分以上に有名になった。

収益化も通ったし、中層にも行けるようになったから金銭的にはかなり余裕がある。

中層の魔石を売るだけでも生活できる分は稼げるので、何なら配信者を引退しても良いくらいだ。

でもせっかくバズったし配信も楽しいので、まだ当分引退する気はない。

当面の目標はチャンネル登録者数100万人だ。


「ゲーム実況でもするか?普通に雑談でもいいけど、特に話すこと無いんだよな」


しばらく考えたが特に名案も浮かばないので、私はXwitterを開いた。


「まーたメッセージが大量に届いている…」


探索者どうぎょうしゃからのパーティー勧誘

・配信者からのコラボの申し出

・企業からの案件の依頼

・アンチからの誹謗中傷

・知り合いを名乗る謎の人からのメッセージetc…


一応全部目を通すが、返信することはほとんどない。


「ん?これは…」


しかし、今日は目に留まったメッセージがあった。


【初めてメールいたします。175プロダクションでプロデューサーをしております、中田と申します。昨日は弊社アイドルダンジョン探索者の『モーニング☆スター』を救助いただき誠にありがとうございました。メンバー3人共無事快方に向かっており、できれば直接会ってお礼が言いたいと申しております。つきましてはサン様のご都合の良い時間に弊社事務所まで御足労願えませんでしょうか。助けていただいたのにお呼び出しする形になってしまい申し訳ございません。可能であればコラボのお話などもさせていただきたく思っております。何卒よろしくお願い申し上げます】


「『モーニング☆スター』っていうと…鈍器にトゲが生えてる武器のアレか?」


検索してみたら鈍器とは似ても似つかない女性アイドルグループが出てきた。

というか、メッセージにも『アイドルダンジョン探索者』って書いてあるわ…。


「あ、この娘達かぁ」


昨日土砂の下から救助した中の3人だ。

救助者の中で女性はこの3人だけだったから割と記憶に残っている。


「全員女性の探索者パーティーで、Utubeのチャンネル登録者数は100万人超えか…」


結構な人気配信者だ。

それに26層で救助したということは全員30レベは超えているのだろう。


「ガチで探索者やってるタイプのアイドルか…何か凄いな」


DMダイレクトメッセージを要約すると、礼が言いたいから事務所に来い、ついでにコラボの相談もしたい、か。


(コラボか…やってもいいけど、やんなくてもいいんだよな…)


うーん、保留!

もしコラボするにしても『品川ダンジョン』が解放されてからの話になるので、とりあえずメッセージは消さずに放置しておくことにした。




他に気になるメッセージは特に無かった。

名案も相変わらず浮かばず。

こうなったら最後の手段だ。


"品川ダンジョンの封鎖によりニートになりました。ダンジョン封鎖中でもできる配信の案があればください"


Xwitterに上記の文章を投げて、しばらく放置。

30分くらいして見てみたら沢山のリプが来ていた。


「やっぱりフォロワーが多いと良いね!全部フォロワーがやってくれるから!」


リプライの内容は玉石混交。

石8割って感じだったが、中には使えそうなネタも転がっていた。


「あー、お買い物配信はありだな。装備の新調がしたいってずっと言ってたのに未だしてないからな」


RINEで美愛さんにも確認を取ると『絶対やろう!!!!!』という力強い返信があった。


「あと使えそうなのは他のダンジョンの攻略か。名古屋ダンジョン押しが多いな…。エロダンジョンだからか…」


『名古屋ダンジョン』は全20層の浅めのダンジョンだ。

特徴は全階層に水場があり、常に湿気っているところ。

そして出てくる魔物は卑猥な魔物が多く、卑猥なトラップも多い。

ついたあだ名が『エロダンジョン』だ。


「絶対行かないわ」

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