第37話 エロダンジョン
「えー、本日は『名古屋ダンジョン』、通称『エロダンジョン』に来ています」
〈ええ!?〉
〈何だって!?〉
『名古屋ダンジョン』1層は草原と無数の池のフィールドだった。
流石にエロダンジョンと言うだけあって、1層から既にもう湿っぽい。
〈ここは…あの有名な名古屋ダンジョン!?〉
〈エ/ロいことで有名なあの!?〉
〈救いの天使さんがエ●ダンジョンの餌食に!?〉
〈薄い本で100回くらい見たことある展開だぁ…〉
〈あれ、ミアちゃんは?〉
「置いてきた。理由は配信的に危なそうだから」
〈は?連れてきて?〉
〈無能〉
〈えちえち担当といったらミアちゃんでしょうが!〉
〈ミア:サンさん頑張れー!〉
〈やべ本人おるわ〉
『名古屋ダンジョン』は全20層の軽めのダンジョンだ。
最下層まで攻略済みで、ラスボスでも25レベあれば倒せるため初心者向けダンジョンに分類される。
ただし、出現する魔物がエロ系に偏っているという最悪の欠点を持っているが…。
〈品川ダンジョンは封鎖されてるから仕方ないけど何故名古屋ダンジョンに?〉
〈名古屋ダンジョンってやたら触手モンスターが多いとこだよな?〉
〈ネバネバの溜まった落とし穴とかもあるぞ〉
〈大丈夫?配信に乗せれそう?〉
〈とりあえずパンツは脱いだ〉
「私も全然来るつもりなかったんだけど、昨日ふと『私の足ならエロモンスターもエロトラップも全回避いけるんじゃね?』と思いついたので来てみました」
つまり今回は『エロダンジョンでエッチな目に合わずにどこまで行けるかチャレンジ』という企画である。
〈いや回避するな〉
〈エ●い目にあえ〉
〈服溶けろ〉
〈頑張れエ/ロモンスター!〉
〈負けるなエ/ロモンスター!〉
〈そういえばこの前買った装備じゃないね〉
「今日は旧装備で来ました。買ったばかりの服が溶けたら嫌なんで」
別に服を溶かすつもりはないけど、50万の装備だし一応ね。
「あとUtube的に危なくなったら即配信切るので魔物を応援しても無駄ですよ?」
〈それじゃあ意味ないでしょうが!〉
〈何のためのエ●ダンジョンだと思ってんだ!〉
〈やっぱUtubeはダメ〉
〈時代は2525動画よ〉
〈2525動画でもアウトなんだよなぁ…〉
〈今から配信サイトpornbabに切り替えないか?〉
〈FC3でもいいぞ!〉
「いやでーす」
『名古屋ダンジョン』1層の探索を始めてすぐに魔物と遭遇した。
池からズルりと這い出してきた魔物は『品川ダンジョン』でもよく見たスライムだった。
〈スライムとゴブリンは本当にどこにでもいるなあ〉
〈ゴブリンもいるのか?〉
〈そりゃあいるだろ〉
〈工口ダンジョンにゴブリンがいないわけないだろ!〉
〈スライムも心なし卑猥なフォルムに見える〉
「いや、普通のスライムだろ…せい!」
軽く剣を振るとスライムは爆散して消えた。
やはりただのスライムだ。
その後も何度か魔物と遭遇したが全てスライムだったので、早々に2層へ向かった。
「さて2層は…草地がちょっと減ったかな?」
フィールドの構成は1層とほぼ変わらず。
〈5層刻みで変わるのかな?〉
〈せやで〉
〈ちなみに2層もスライムしか出ない〉
〈ネタバレやめろ〉
「ネタバレ食らったしさっさと3層目指しますか」
と言いながら歩いていたらスライムが出現。
「…何か…伸びたな」
〈チ●コじゃん〉
〈チン●だな…〉
〈ちょっと横に長いだけだろ〉
〈じゃあ先っぽがちょっと太いのは何なんだよ!〉
〈流石エ●ダンジョンやでぇ…〉
1層では丸々としていたスライムだが、2層では横長に伸びて若干大きくなっていた。
…卑猥なフォルムに見えなくもない。
「せい!」
横長の胴体を真っ二つにすると、コメ欄からは悲鳴が上がった。
〈ひぇっ…〉
〈タマヒュン動画〉
〈ちょっと縮んだわ…〉
〈何が?〉
〈ナニが〉
ドロップも魔石で、特に言うこともない。
「企画的にアレかと思って何も調べてこなかったんですけど、2層って階層主とかいますか?」
〈いないぞ〉
〈ボスは3層からやな〉
じゃあ本当に3層行って良さそうだなあ。
ということで3層。
…に来たのだが、3層の魔物もボスも全部スライムだった。
「これは…チンコですね…」
〈おいw〉
〈ガッツリ言ったぞw〉
〈まあ、チ●コだな…〉
〈何で横長のまま巨大化してんだよ…〉
3層の階層主は横長のまま巨大化したスライムだった。
ワンチャンこいつの見た目のせいで配信停止に追い込まれかねなかったので、一撃でチョッキンして先に進んだ。
その後4層、5層と降りて行ったが、結局魔物はスライムしか出てこなかった。
なお4層の主は『ピンクスライム』、5層の主は『ダークスライム』だった。
あのさぁ…。
6層はフィールドも変わって、森の中の沼になった。
沼は浅いが、泥水で汚れるのが嫌だったので、陸地や倒木の上を選んで進んだ。
「流石にスライム以外も出るようになったか」
見上げる先には無数の触手がウネウネと踊っている。
名前もそのまんま『
〈これも薄い本でよく見る奴〉
〈触手が細いせいかキモいっぴねえ…〉
〈ジャイアントフラワーってまだ可愛げがある方だったんだなあ〉
〈本体は沼の中か?〉
〈気を付けろ、触られると服が溶けるぞ〉
〈じゃあ頑張れ触手くん!!!〉
〈キモいとか言ってすんませんした!〉
〈触手先輩マジリスペクトっす!〉
「私を応援しろ、私を!」
触手の根本を辿っていくと沼の中に本体と思しき影が見えた。
「…これさ、沼の中に入りたくないからスルーしていいか?」
〈ダメ〉
〈ダメです〉
〈さっさと沼に入ってドロドロになれ〉
〈服溶けろ〉
〈頑張れ触手くん!!!〉
襲い来る触手を何本か斬り飛ばしたが、決定的なダメージにはならないようだった。
仕方がないので意を決して沼に入り、本体を直接斬り飛ばした。
多少汚れはしたが、沼に入っただけで服が溶けるようなことはなかった。
〈使えねえダンジョンだ…〉
〈それでもエ/ロダンジョンか?〉
〈もっとやる気出せ〉
〈やはりミアちゃんがいないとダメか…〉
〈ここまでパンチラすら無いってどういうことだよ!〉
「パンチラする予定なんか元々無いんだよなあ…」
ただ確かに、少々退屈な配信になっているかもしれない。
如何せん魔物とのレベル差があり過ぎる。
さっさと7層へ行こう。
「透視!」
『透視』を使って魔物を避けて一気に7層へ…行こうと思ったところで1回ジャンプ。
「危なっ!今落とし穴っぽいものが見えました」
〈おい避けるな〉
〈透視は禁止カードだろ!〉
〈こっちはヌルヌルの落とし穴を見に来てんすよ!〉
〈ヌルヌルのサンちゃんが見れると聞いて来たのに!〉
〈何が起こるか分からないし魔力は温存した方がいいんじゃないかな!?〉
「MAX20層で敵も25レベまでなら魔力温存する必要なくない?」
全員ワイバーン以下だし、エロダンジョン故に柔らかい魔物ばっかりだから、『一閃』撃つ分の魔力を残す必要すら感じないんだよね。
さて8層。
『透視』が残っているうちに先へ進む。
10秒ほどで『透視』の効果は切れたが、沼の中に1つトラップらしきものを見つけた。
転移陣のようだった。
どんな場所に飛ばされるのか分かったもんじゃないのでスルー安定。
「リスナー、階段のある場所だけ教えて」
〈右〉
〈右〉
〈右〉
〈右〉
(満場一致で右か…これはまた何かあるな…)
リスナーへの信用が皆無だったため、逆に先の展開が読めた。
道端のスライムを消し飛ばしつつ右へ向かうと、ほどなく9層行きの階段が見えてきた。
ガコン!
「ほら来た!」
今度のトラップは踏むと水が噴き出すというものだった。
どうせまた『服だけを溶かす水』とかそんな感じだろう。
水が触れる前に『バウンド』で跳ねて避難した。
「こういうタイプの罠なら踏んでから回避余裕ですね」
〈惜しい!〉
〈もうちょっとだったのに!〉
〈どうして罠を回避するんだ!〉
〈罠仕掛けた人の気持ちも考えなよ!〉
〈トレーニングのために両足に50kgの重りを付けて進みませんか?〉
「よーし、9層行くぞー」
9層は『透視』を使わずに進むことにする。
(使うとブーイングがうるさいからな…)
この辺りまで来ると罠の数も増えてくるようで、9層に降りてすぐに落とし穴トラップを踏んだ。
「バウンド!」
落下しながら壁を叩いて反対の壁に跳び、
「バウンド!」
もう1回壁を蹴って落とし穴から脱出した。
覗いてみると、落とし穴の中は白くて濁った液体で満ちていた。
「スンスン…くっさ!海産物みたいな臭いがします」
〈イカ臭か〉
〈くっさぁ♡〉
〈何故嗅いだし〉
〈臭いと何故か嗅ぎたくなるよね〉
「あ、ゴブリンだ」
落とし穴で騒いでいたら木の裏からゴブリンが現れた。
〈本当にゴブリンもいて草〉
〈でもクソ雑魚のゴブリンじゃなあ〉
〈雑魚だけどここの魔物は全員水魔法使うぞ〉
〈ええ…?〉
〈何で???〉
〈そら濡れ透けにするためよ〉
コメントが言うように、ゴブリンは水魔法を放ってきた。
それを避けて反撃に出ようと思ったら、ゴブリンは沼の中へ飛び込み泥を巻き上げて姿を隠した。
「水魔法が使えるなら水中でも活動できるってことか…なるほどね」
感心していたら沼の中から水の弾が飛んできた。
私は咄嗟に跳び上がり、
「あ、やば」
300メートル先の木の上に着地した。
うっかり跳び過ぎた。
ゴブリンが潜んでいた沼は遥か彼方…。
「…このまま先行っちゃっていいかな?」
〈ええ…〉
〈ゴブリン…〉
〈戦う気満々で沼に飛び込んだゴブリン置いて行くってマジ?〉
〈嘘でしょ?〉
〈ゴブリンに同情したの生まれて初めてだよ〉
〈まあ…ゴブリンだしええか…〉
(すまんゴブリン…私、君を置いて先に行くよ)
その後、トラップを2つ越えたところで階層主と遭遇した。
「オークか、久々に見たな」
このオークも水魔法を撃ってきたが、所詮は9層ボス。
「バウンド!」
「BUMOOOO!!?」
沼に潜られても面倒なので、速攻で首を落として倒した。
10層に降りると沼しか無かった。
ここまでは土の地面や倒木など沼に浸からずに済むルートが多少はあったのだが、完全に無くなっていた。
しかも沼も深くなっていて、進もうと思ったら腰まで泥沼に浸からなければいけないようだった。
「透視!」
沼に浸からないルートを探そうと『透視』を使ったら、先に11層行きの階段が見つかった。
ここから2時の方角、180メートルくらい先。
背の高い水草の向こう側に、1箇所だけ水没していない場所があるようだった。
「バウンド!」
私はスキルを使って11層行き階段まで一気に跳んだ。
180メートル先なら3秒浮けば辿り着く計算。
「ちょっと行き過ぎた!バウンド!」
水面にバウンドを打って位置調整をして階段に着地した。
〈そんな行き方あり?〉
〈実は水魔法使える奴はみんな似たようなことやってる〉
11層は洞窟だった。
洞窟内も相変わらず水辺が多く、少し進むとデカいナメクジのような魔物がいた。
「せいっ!」
「PIIIIIII!!?」
〈よわ〉
〈流石にレベル差があり過ぎる〉
〈やはり魔物には期待できんな〉
〈頑張れエロ/トラップ!〉
〈負けるなエロ/トラップ!〉
(トラップも『透視』使えば全回避余裕なんだけど…まあ、リスナーが可哀想だし使わないでおこうか)
ガコン!
「っと!」
また水が噴き出るトラップを踏んだが、今回も回避は余裕だった。
「ちょっと芸がないんじゃないか?」
そう思った瞬間、床が発光した。
よく見れば水が噴き出るトラップの下に転移陣があった。
「は?」
そして、気が付いたら出口の無い洞窟の中に転移していた。
〈掛かった!!!〉
〈きたーーーー!!!〉
〈うおおおおお!!!〉
〈やったー!!!〉
〈液体噴射で油断させてからの転移罠とはやりおる!〉
〈隙を生じぬ二段構えってこと!?〉
…前から思っていたが、私は転移罠と相性が良くない。
踏んだ瞬間に発動するから回避も間に合わないし、やたら踏むし…。
「ギリギリでドローンの回収は間に合ったから、配信は問題ない…けど、本当に何なんだここ?」
少し待ってみたが何も起こらない。
そこそこ広めの空間だが、出口は無く、壁も床も天井も全て岩に閉ざされている。
どうしたら出られるのだろうか。
まさか脱出不可能なんてことはないはずだが…。
〈これはまさか!〉
〈あの有名なS●Xしないと出られない部屋では!?〉
…マジで?
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