第32話 スタンピード

体力が尽きるまで全力で走る。

とにかくワイバーンを振り切らねばならない。


「前に魔物!」

「このまま突っ込む!」


脇道から出てきたのはオーガだったが全速力でスルー。

そのまま安全地帯の階段に飛び込んだ。


「やった!ここまでくれば…」

「GAOOOOOO!!!」


しかし、オーガは階段に入ってきて棍棒を振るった。

予想していた私は『バウンド』で階段を登り切って23層に出た。


「な、何で!?階段は安全なんじゃ…」

「下の魔物が上に来るのがスタンピードなら、そりゃ階段も登りますよね…」


私は美愛さんを更に強く抱いて『バウンド』で跳ねた。

安全地帯が無いとなると体力回復もままならない。

できる限りスキルで跳ねて進むしかない。


「また魔物!」


今度はジャイアントバットが群れを成して現れた。


「前を塞がれた!」

「火弾!火弾!火弾!」

「PIIIIIIIIIIIIII!?」


火弾3連射はジャイアントバットに全弾命中し、前方への道を切り開いた。

そういえばこいつらは強い光に弱かった。


「バウンド!」


急加速して蝙蝠の群れを突破。

その後も『バウンド』で跳ねて進み、魔物が邪魔な時は美愛さんの『火弾』で道をこじ開けた。

そうして魔物を回避しつつ21層まで戻り、転移陣を利用して3層に上がって、そこでようやく一息ついた。




3層にも普段と違う魔物がいたが、上層の魔物だったので特に脅威ではなかった。


「火弾!」

「GUMUUU!?」


この辺の魔物なら火弾1発で十分。

そうして1層まで走っていくと、地上へ上がる階段の前に人だかりができていた。


「うわあ、人でいっぱいだね」

「退避してきた人達で詰まってるんですかね」


何か情報がないかとスマホを取り出してコメント欄を見てみたら、


〈何も見えねえ〉

〈ずーーーっと黒い画面のままや〉

〈何これ?チャンネル主4んだの?〉

〈多分生きてる〉


「あ、配信死んでるわ…」


配信というか撮影用のドローンが死んでいた。

そういえば私の全力疾走には着いてこれないんだった。

未踏域の時とは違って配信画面が完全に暗転しているので、多分ワイバーンか何かにドローンを破壊されてしまったようだ。


〈サン:暗転してて申し訳ありません。ドローンを破壊されたようです。私とミアさんは無事です。今1層階段前まで戻ってきました。配信はこのまま終了します〉

〈お、サンちゃんからコメントきた!〉

〈生きてて良かった!〉

〈ドローン…良い奴だったよ…〉

〈配信終了把握〉


「これでよし…でも、何の情報も拾えなかったな。Xwitter見るか」


Xwitterでは『スタンピード』『品川ダンジョン』がトレンド1位と2位になっていた。


「うーん、ダメだ。品川ダンジョン公式アカウントもスタンピード発生から更新が無い」

「あ、誰か来た!」


顔を上げたら階段の辺りでざわめきが起こっていた。

どうやら上から管理センターの職員が降りてきたようだ。


「早く出してくれ!」

「もうそこまで魔物が来てるんだぞ!」

「申し訳ありません。先に私共の話を聞いていただけますでしょうか。現在本ダンジョンでは魔物の暴走が起こっています。この事態に対処するべく有志の探索者を募っています。レベル10以上の探索者が対象です。これは強制ではありませんが、何卒お力をお貸しいただきたく…」




階段前で再びざわめきが広がる。


「どうする?」

「どうしましょうね…」


レベル的には私達も対象だが、今日は既に3層分の探索を終えた後だ。

ここまで急いで上がってきて体力も切れかけだし…。


「俺は10レベ以下だ!さっさと帰らせてくれ!」

「俺もだ!」

「協力してもいいけど、具体的に何をしたらいいんだ?」

「そもそも原因は分かっているのか?」

「原因は未だ分かっていません。が、『百鬼夜行』の武蔵氏から56層、55層では異常の発生は無いと連絡がありました」

「おお!」

「『百鬼夜行』がいるのか!」


今日は百鬼夜行も『品川ダンジョン』攻略を進めていたようだ。

運が良かったな。

スタンピードの原因が54層より浅い層にあるなら最悪『百鬼夜行』が何とかしてくれる。


(あとは上がってきた魔物の討伐と、逃げ遅れた探索者の救助か…)


それから5分ほどで地上行き階段前の混雑は解消された。

私達はダンジョン内に残った。

疲れてはいるが、終わりの見えている仕事なら頑張れないこともない。


「美愛さんは残っていていいんですか?」

「非常事態だし、手伝えることがあるなら手伝わなきゃ!」

「そうですね…ん?あれは」


混雑が解消されたことで見知った顔に気が付いた。


「あ、万堂さんだー!」

「こんばんは」

「ああ、あんたらか」

「万堂さんも探索していたんですね」

「まあな、26層にいた」


26層には1層行きのショートカット階段がある。

そのおかげで早いうちに帰って来れたらしい。




「この後はレベルや役割で何班かに分かれて動くことになる」

「詳しいですね」

「早めに上がってたからな。色々聞いてたんだよ」


ほどなくして万堂さんの言う通り3班に分かれるように指示があった。


「あたし達は中層かな?」

「美愛さんは上層の方がいいかも…」

「え、何で!?」

「魔力特化で素早さがそれほど高くないので」


スタンピード中は遭遇する魔物の数も多くなる。

近寄られたら負けな魔法使いにとっては厳しい環境だ。


「固定砲台として地上階段前ここに留まった方がいいと思います」

「それならサンは俺と下層に来てくれ」

「え、でも私は未だレベル27ですよ?」


『品川ダンジョン』の下層は26層以降のことだ。

ワイバーンのいる25層よりも更に先の層。

要求レベル30以上の階層だ。


「分かってる。が、下層に行けそうな人材が不足してるらしい。言ってる俺も31レベでギリギリだ」


スタンピード中ということを考えると万堂さんでも中層を担当するのがベスト。

しかし下層まで行ける高レベル探索者が少ないため、どうしても下層に行ってくれと頼まれたらしい。


「26〜30層は山フィールドだ。高低差の大きいフィールドだから、あんたの跳ねるスキルと透視は役に立つ」

「あの私、もう魔力が空なんですけど…」

「受付で魔力回復ポーションを貰えばいい。緊急事態だから金は取られねえはずだ」


万堂さんの言う通り、受付で事情を話したら魔力回復ポーションを貰えた。

ついでに『STAFF』と書かれた腕章も渡された。

救助隊の目印だそうだ。

そしてポーションと腕章を貰った以上、もう下層に行かないわけにはいかなくなった。


「じゃあ行ってきます」

「2人とも頑張って!」

「美愛さんもお気をつけて!」




26層は山フィールド。

本来なら草木の生い茂る綺麗な山なのだが、スタンピードの影響か山崩れが起きていてめちゃくちゃになっていた。


「酷いですね…」

「俺がいた時はこうはなってなかったが…透視頼めるか」

「分かりました。透視!」


魔力回復ポーション弱を飲んで魔力が全回復した私は『透視』を使った。

山裾から見上げて要救助者を探す。

山崩れが起きた部分を集中的に見ると複数の人影が土砂の下敷きになっていた。


「あそこに2人。あ、向こうにも数人!結構いるな…」


多分1層行きのショトカを求めて上がってきた人達が大勢巻き込まれたのだろう。


「手前の2人から行くぞ」

「待って!向こうに魔物に追われてる人がいます!」

「どこだ!?」

「こっちです!バウンド!」

「いや着いていけねえけど!?」


万堂さんを置いて先に行く。

300メートルほど先、山崩れから免れた緑の濃い部分。

2人組の探索者が人型の魔物に追われていた。


「バウンド!」

「GIGIIII!?」


加速して跳躍しそのまま魔物へライダーキック。


「ひえっ!?」

「な、何だぁ!?」

「救助に来ました!ここは私が引きつけるので逃げてください!」

「救助か!あ、ありがとう!」

「助かった!」


2人が逃げようとすると『老人の化け物』みたいな魔物が怒った様子で走ってきた。


「バウンド!」


しかし私が高速移動で背後を取ると、流石にこちらを警戒して足を止めた。

その間に要救助者の2人は無事逃げ切ることができた。


「さて…」


ここからどうしよう…。

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