第25話 そして伝説へ…

階段から54層に顔を出す。

55層と同様、どこかの家の中に出た。

とりあえず家の中に魔物の姿はない。


〈musashi:窓から外を確認してから出るといいですよ。一回魔物と鉢合わせしたことあるんで〉

〈確かに〉

〈解説助かる〉

〈日本一位の解説とか贅沢やなあ〉


武蔵氏の言う通りに外を確認したら家の真ん前にゴーレム系の魔物がいた。


「危な…」


うっかりドアを開けていたら見つかっていたかもしれない。

ゴーレムはしばらく家の前を行ったり来たりしたが、5分ほどでどこかへ去って行った。


〈やっと行ったか…〉

〈やっぱバレてなかったじゃん!〉

〈絶対バレてるから早く出た方が良いとか言ってた奴は反省しろ〉

〈うるせーバーカ死ね!〉

〈死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね〉


「あ、今のうちにブロックしとこ」


〈あ〉

〈消えたw〉

〈ざまあw〉

〈荒らしブロック助かる〉

〈残当〉

〈残念でもなく当然〉

〈ガチで命懸けの配信を荒らすとか何考えてんだ〉

〈何も考えてないぞ〉

〈荒らしに常識なんか期待すんな〉


「よし、スッキリしたところで行きます」




53層への階段はここから西に5分行った先の井戸の中にあるという。


〈musashi:見つけるのが本当に大変だった…〉

〈せやろなぁ…〉

〈草〉

〈知らなかったら普通に通り過ぎるよな〉

〈いつも最前線攻略お疲れ様です〉


「見た感じ魔物の姿は無し。透視はもう少し進んでからにします」


透視の効果時間は1分。

目的地までは徒歩5分の距離。

つまり2分進んでから使えば1度の『透視』で階段を視認できる(はずだ)。


〈魔物を避けるのに使わなくてええんか?〉

〈進めるだけ進むか〉

〈もう助けを待てる所までは来てるんだし慎重にな〉

〈ここまで来て4んだら洒落にならんぞ〉


「分かってる。魔物を見つけたら即透視使うから大丈夫」

「HUM?」

「あ」


〈あ〉

〈あ〉

〈あ〉

〈ボスだ〉

〈魔物だ!〉


「HUUUUUUUUUUUUUUUM!!!」

「透視!バウンド!」


この魔物のことは知っている。

54層の階層主だ。

名前は『ワイトキング』。

推奨討伐レベル64の強力な魔法使いの幽霊。


「THUNDER!!!」

「あぶっ!!?」


ワイトキングの放った雷魔法は、走る私の1歩後ろに落ちた。


(あぶな!?私の全力疾走に追いついた!?秒速66メートルだぞ!?)


ギリギリ当たらなかったが当たっていれば死んでいた。

しかも後ろを振り返ったらもう2発目の魔法が迫っていた。


「バウンド!」


私は2発目の魔法を上空へ跳ねることで回避した。


(あ、やばい、ここからの動きが無い!)


空中では『バウンド』も使えず、素早さ120も活きない。

今魔法を撃たれたら回避する手段がない。


「FIRE!!!」

「うわっっっつい!!」


ワイトキングの火魔法は寸でのところで外れて空へ昇った。

外れた理由は多分運が良かっただけ…いや、強いて言えば、全力疾走状態で3秒ほど進んでいたので200メートルくらい距離があったのが助けになっていたかもしれない。

とにかく魔法は外れ、私は前方の家の屋根に着地した。

そしてワイトキングから身を隠すため、すぐに家の裏手へと降りた。


「他に魔物は…いる!?」


『透視』で見たら路地裏の先にも魔物がいて、音を聞き付けたのかこちらへ向かって来ようとしていた。

というか『透視』で見える範囲にいる魔物は全てこちらへ集まってきている。


「もう、走るしかない!バウンド!!」


『バウンド』からの全力ダッシュにより1秒で路地裏を脱出。

大きめの通りに出て、続けて全力ダッシュ。

魔物共は続々と近寄って来ているが、近寄られる前に全員抜き去るしかないので、もう知ったこっちゃない。


「見えた!」


200メートル先に53層への階段を発見。

付近に魔物はいるが、あの階段は井戸の底にあるのでこのまま走って行ってダイブすれば安地に辿り着ける。


「GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

「UKIKIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!」

「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOOLEM!!!」

「ひいいいいい!!!」


路地から顔を出した魔狼の鼻先を掠め、屋根の上から糞を投げてきた巨大猿を避けて、金ピカのゴーレムの目前で急カーブを敢行すると、枯れた井戸に辿り着いた。


「うおわああああああ!!!」


思いっきり井戸に飛び込むと壁に身体を打ちつけた。

が、『衝撃緩和』のおかげでダメージは無い。

枯れ井戸の底に着地すると、すぐ目の前に壁の中へと続く階段があった。




「し、死ぬかと思った…」


安地である階層移動階段で休憩を取る。

まだ心臓がバクバクと鳴っていた。

これまでも魔物に追われたことはあったが『透視』状態で魔物に囲まれたのは初めての経験。

なまじ見えてしまうからこそ恐怖感は一入ひとしおだった。


〈だから慎重に行けとあれほど〉

〈もうお前そこから動くな〉

〈ガチでダメかと思ったぞ〉

〈生きてて良かった〉

〈RTAとしては良いタイムでたなw〉


なにワロてんねん…。


〈まだ透視使えるよな?52層行っちゃう?〉

〈52層行きの階段は遠かった希ガス〉

〈52層行き階段はクッソ遠いぞ〉

〈マップ見たらエリアの端から端だった〉

〈流石にここまでか〉


私としても怖い思いをしたばかりなので、正直遠慮したいところだった。

ただ、唯一懸念があるとすれば、


「喉乾いた…」


腹も減ったが、全力ダッシュの後は水の方が欲しかった。


〈古代都市って水道とか無い?〉

〈知らん〉

〈無いんじゃね?〉

〈井戸も枯れてたしな…〉

〈地下だしねえ〉


どうやら水の調達も難しそうだ。

食料も無いだろう。


「…行くなら51層のショトカまで行く。行かないならここで明日の午後の救助を待つ」


〈行くの!?〉

〈自力で帰ってこい〉

〈無茶言うな〉

〈今度こそ4ぬぞ〉

〈52層階段まで直線距離でも1キロはあるぞ〉

〈全力ダッシュで15秒やん〉

〈そう聞くと行けそうな気するな〉

〈障害物あるんだから無意味な計算だよ〉

〈建物を飛び越えればワンチャン〉

〈今度こそ魔法撃たれて終わるぞ〉


1キロか…。

遠いな…。

実際には建物と魔物を避けて進むから倍の距離になるだろう。

仮に52層階段へ辿り着けても、そこから更に51層行き階段探しと51層ショトカ探しの道のりがある。


「無理だ…」


諦めよう。

もう十分頑張ったよ…私。

こうして私のソロ深層探索は幕を閉じたのだった…。













「うおおおおお52層行き階段だああああ!!!」


〈うおおおおおお!!!〉

〈ナイスゥ!〉

〈やるやんけ!〉

〈っぱ透視よ!〉


えー、現在私は52層への階段を1人で登っています。

ソロ探索をやめたと言ったな。

あれは嘘だ。


「えー、このまま51層目指します!」


〈やはり行くのか!〉

〈当然だよなあ!〉

〈まだ透視1回残ってるもんなあ!〉

〈GOGOGOGOGO!〉


52層を透視1回で踏破できたのは大きい。

30分以上かかったが、おかげで最後の魔力も回復した。

やはり透視があるのと無いのでは全然違うからな。


〈51層階段は南に向かって徒歩10分〉

〈800mくらいか〉

〈さっきと変わらなくね?〉

〈道なりに進んでの10分だからさっきの半分以下や〉

〈ああそっか〉


例によって家の中に出たので、窓から外の様子を確認。


「家の前の確認、ヨシ!細道に出るから初手透視でいきます」


〈頑張れ!〉

〈あともうちょいや!〉

〈伝説になって帰ってこい〉

〈チャンネル登録しました!応援してます!〉


『透視』を使うと細道の先に魔物が見えた。

仕方がないので家の裏手から別ルートで向かう。


「また魔物か」


魔物のいない道を選んだが、200メートル先にまた魔物が見えてきた。

もう1本脇道に逸れて進む。

すぐに大通りに出れそうだが、やはり先の方にデカいトカゲ型の魔物が見えた。

これは大回りするしかなさそうか…。


(透視はあと15秒ほどで切れる。少しでも先に、少しでも安全なルートで…)


首を振って魔物の位置を確認しながら駆け足で進んでいく。


「効果切れた。こっからは無言になります」


〈おけ〉

〈了解です〉

〈頑張れ!〉

〈半分くらい行ったか?〉

〈結構回り道したから3分の1くらいじゃね〉


階段をこの目で見ることはできなかった。

ただ『透視』のおかげで自分の現在地と200メートル以内の魔物の位置は把握できている。


(一本隣の大きめの通りがほぼ真南に向かっていた。あの道を指針に進む)


細い路地裏を抜けて交差点。

魔物はいない。

そのまま直進する。

50メートルほど行ったところで速度を落とし、T字路の右を見る。

ケンタウロスのような魔物が見えた。


(本当なら右の道に出たいんだけど、やっぱあのケンタウロスが邪魔だな…左に行くしかないか)


左へ進み、またすぐに右折して進路を南に戻す。


(透視で見れたのはこの辺りまで。つまり200メートルは進んだ。階段までは残り200メートル弱…)


最悪見つかっても全力ダッシュで3秒の距離だ。

51層階段は家の中にあるので、井戸の時のように飛び込むわけにはいかないが…。


「KEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」

「げっ!?」


気付いたら屋根の上に魔物がいた。

52層の階層主『ガーゴイル』だ。

くそっ、石像と見間違えた!


「KEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」

「バウンド!」


石の翼を広げて突っ込んできたガーゴイルを全力疾走で避ける。

右の通りに出ると、歩いていたケンタウロスとも目が合った。


「くっそおおおおお!!!」

「HIHIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIN!!!」


時速240キロで走りながら辺りの家を確認する。

この中のどれかに階層階段がある家が一軒だけある。


(ダメだ!違いなんか分かんない!)


3秒走った。

この辺のはずなのだが、目印になるようなものは何も無い。


(どうしよう!?)


その時、一軒の家の扉が開いた。


「こっちだ!!」

「バウンド!!」


私はスキルによる急速方向転換で右後方の家の開かれた扉に飛び込んだ。


「階段は暖炉の中だ!」

「暖炉の中!そんなとこよく見つけましたね!?」

「いやマジで見つからんかったわ畜生め!」


私達は2人同時に暖炉の中の51層行き階段へ突っ込んでいった。




「いやあ〜、もしかして今結構ヤバくなかった?」

「超ヤバかったです。どれが階段のある家か分からなかったし、1回魔物を撒いてから戻らないとダメかと思ってました…」

「とりあえずお疲れ。水持ってきたけどいる?」

「ありがとうございます!いただきます!」


渡されたペットボトルを遠慮なく開栓して水分補給。

あー、生き返る…。


「あ!助けに来てもらって言うのアレなんですけど、一応配信してるので自己紹介してもらって良いですか?」

「あーそっかそっか。生配信だもんな。俺達動画勢だから気付かなかったわ。えー、みなさんどうも初めまして。『百鬼夜行』ってパーティーでリーダーをやってます、武蔵小次郎と申します!」


〈うおおおおおおおお!!!〉

〈武蔵いいいいいい!!!〉

〈武蔵最強!武蔵最強!〉

〈やっぱりお前がNo.1だ!〉

〈よく間に合わせた!〉

〈30分前までコメント欄にいたのにな笑〉

〈52層までならソロでも行けるってマジだったんだなあ…〉

〈冷静に考えるとヤバくない?〉

〈冷静に考えなくてもヤバい〉

〈とりあえずこれでもう安心か〉

〈まだ51層攻略が残ってるけどな〉

〈なあに日本一のボディーガードが付いてるんだし大丈夫大丈夫〉



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