第18話 大怪獣バトル
「…とりあえず探索してみます。まだここが深層と決まったわけじゃ…うわ、視聴者数が1000人近くなってる」
【現在の視聴者数:964人】
ついさっきまで800人くらいだったのに…と思っていたらまた10人くらい増えた。
まだ増えていく途中のようだ。
どうやら私はバズりつつあるらしい。
どうしよう。
何か喋った方がいいか?
「目視できる範囲に魔物はいません。ダンジョンなので魔物0ってことはないと思うんですが…」
〈無理に喋らんくていいって!〉
〈透視した?〉
〈初見です、人類未踏域と聞いて〉
〈深層ならアイテム回収してきてほしいです。その辺の石ころでもいいので〉
「透視はしてない。あと1回しか使えないので。石ころは…拾った方がいい?」
コメントに従って地面に転がる石に手を伸ばす。
そして気付く。
「あれ、薄く光ってる…?」
よく見れば石ころが微弱な光を発していた。
これがここの光源の正体か。
ダンジョンには『光苔』なる発光植物があると聞くが、これはその石バージョンらしい。
「あっつ!?」
〈大丈夫か!?〉
〈馬鹿!デカい声出すな!〉
石は熱を持っていた。
焼け焦げるほどではないが、人肌よりは熱い。
少なくとも40℃以上はあった。
〈発光してんだから熱くらいあるだろ〉
そういうことは先に言ってくれ。
こんなの回避不可能だろ…って転移罠踏んだ時も思ったな。
何か今日はずっとこんな感じだな…。
〈今なんか地響きみたいな音聞こえた?〉
そんなコメントを見かけて耳を澄ます。
ズシン、ズシン。
確かに音がする。
音は段々とこちらへ近付いてくる。
〈ほら見ろ声出すから!〉
〈逃げて!〉
辺りを見回す。
だが、隠れられそうな場所は無かった。
私は後退してトンネルへと戻った。
トンネルは一本道だが、カーブしているので視線を切ることはできる。
トンネル内の壁に背を付けて息を殺した。
〈うわ、何だあれ!?〉
〈オークか?〉
〈金色のオーク?〉
一瞬、コメント欄が何を言っているのか理解できなかった。
(あ、ドローン回収してない)
ドローンは魔物を映していた。
魔物は1体だけで、金色のオークだった。
ドローンに積載しているカメラを通じて、金色のオークと目があった。
そしてドローンは設定の通り、連携している私のスマホに向かってノロノロと飛んできた。
〈バレてね?〉
〈ドローン丸見えだろこれ〉
〈隠れる時はドローン回収しろってあれほど…〉
〈あんなオーク見たことない〉
〈やったなこれ〉
〈強そう〉
〈あれキングオークじゃないっけ?〉
〈この前マックスとバトってたやつじゃん〉
〈キング級モンスターかよ終わったな〉
〈マックスって誰だよ〉
〈世界一位〉
〈dddが映像上げてたやつな〉
〈俺も見たわそれ〉
〈つまり、ここはアメリカってこと!?〉
〈品川だよ〉
フヨフヨと飛んできたドローンを掴んで懐に抱える。
しかし、今更遅い。
足音はどんどん近付いてくる。
(逃げないと!でもこのトンネルは一本道、向こうに行っても巨大海月が…)
やらかした、どうしよう!?
どんどん近付いてくる足音にパニックになった私は、地面に倒れた。
〈何だ!?〉
〈何今の揺れ〉
〈これ地面か?〉
〈カメラの位置低くなったな〉
〈まさか倒れた?〉
〈サン起きろ!!〉
〈え、まさか死んだふり?〉
そのまさかである。
〈え?魔物に死んだふりってきくの?〉
〈効くわけないだろ〉
〈熊じゃないんだから…〉
〈熊にも効かないぞ〉
〈おいおいおい死んだわアイツ〉
〈終わった…〉
〈グロ期待〉
死んだふりは熊にも効かないらしい。
それは私も聞いたことがあった。
確かゆっくり後退するのが良いんだったか。
では、何故今死んだふりをしたのか?
何でだろうな…。
混乱していたから、としか言いようがなかった。
「BUMO」
頭上でオークの声がした。
心臓の鼓動がうるさくて、オークにも聞こえてるんじゃないかと思った。
「BUMO」
「っ!??」
オークは私の身体を掴んで持ち上げた。
左手で胴を鷲掴みにされる。
このまま握り潰されるのか?
口まで持ち上げてバリバリ食われるのか?
しかし、そんな心配は杞憂に終わり、オークは私を抱えたまま歩き出した。
(何何何何!?何が起こってるんだ!?)
オークは洞窟内をのしのしと歩いていく。
何が起きているのか?
どこに向かっているのか?
私には何も分からなかった。
下向きに抱えられているため、視界には地面しか映っていない。
(でもまさか顔を動かすわけにもいかないし…)
せめて情報を残そうと抱えていたドローンの向きを少し変えて、カメラが周囲の状況を映せるようにした。
〈映像変わった!〉
〈これまだ生きてるよな?〉
〈お持ち帰りされてね?〉
〈グヘヘ展開きたー!〉
〈ふざけてるやつ頭おかしいだろ〉
〈視聴者数1500人突破!〉
〈洞窟の壁しか映らんな〉
〈結局深層ってことでいいの?〉
〈キングオークいるなら深層確定だろ〉
〈何か光ってね?〉
〈水か?〉
〈湖?〉
〈地底湖か〉
数分経った頃に水音が聞こえてきた。
視界の隅にも水溜りが映るようになった。
ジャバジャバジャバジャバ!
〈滝じゃん〉
〈ひっろいな深層〉
〈未到域の貴重映像が見れると聞いて来ました〉
〈何でダンジョンの深層に滝があるんだ?〉
〈ダンジョンだからだろ〉
〈しかしどこまで行くんだ?〉
〈グヘヘする前に身体洗おうとしてんじゃねw〉
〈オークにそんな衛生観念ないだろ〉
オークの足元に水が満ちてきた。
まだ道の上を歩いているが、幅1メートルもない細い道だ。
細道の両サイドは完全な水溜り(湖?)になっている。
(滝の音が大きくなってきた)
どうやら近くには滝壺があるようだ。
〈何だあれ!〉
〈何かブクブクしてる?〉
〈!?〉
〈うわ〉
〈何か出てきた!〉
「SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
唐突に湖が膨れ上がり、湖中から新たな魔物が飛び出てきた。
〈竜だ!〉
〈長え!〉
〈なんだこいつ!?〉
〈魚じゃね?〉
〈巨大なリュウグウノツカイみたいだ〉
〈深層の未確認魔物きたー!!〉
下を向いてる私には魔物の胴体しか見えない。
だが、明らかにデカい。
蛇のように縦に長い胴体だが、横幅も1m以上ありそうだった。
体表は鱗に覆われていて、水に濡れテカテカと光っている。
「SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
魔物2体が叫び声を上げた。
鼓膜がぶっ壊れそうだった。
〈うるせええええ〉
〈怖ええええええ〉
〈何これ魔物同士で喧嘩してんの!?〉
〈縄張りバトルじゃん!〉
〈やれー!〉
〈巨大魚VSキングオーク!〉
〈深層ヤバすぎる〉
〈カメラもっと上向けないか?〉
〈無茶言うな〉
〈大怪獣バトルや!〉
「SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
湖の魔物が叫び、レーザーのような水魔法を撃ってきた。
キングオークは私を掴んだまま跳躍した。
(ひぇっ!)
一瞬で地面が遥か遠くになる。
キングオークは一度のジャンプで『魚のような蛇のような化け物』の顔付近まで飛び上がった。
「BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」
そして右の拳でぶん殴った。
その一撃で『魚のような蛇のような化け物』の顔面は爆散した。
〈うおおおおおお!?〉
〈ワンパンだ!〉
〈グーパンで顔吹き飛んでてワロタぁ!〉
〈グッロ〉
〈まさかの魚のグロシーン〉
〈首掴んで引き倒した!〉
〈容赦ねえ…〉
〈オーバーキルすぎる〉
〈もうやめて!魚の体力はもう0よ!〉
〈いや強すぎだろ〉
〈当たり前だろ?キングオークっつったら世界一位のパーティーを半壊させた化け物だぞ?〉
〈コイツの推奨討伐レベル『不明』だからな〉
〈これに勝った世界一位が1番やばいだろ〉
オークは魚蛇を倒した反動で細道へと着地。
付き合わされた私は速過ぎる動きに頭がクラクラしていた。
魚蛇の死体は数秒後にドロップアイテムに変わった。
ドロップアイテムは魚蛇の腹の肉(3mくらいある)だった。
オークはその肉も拾って担いで、また歩き出した。
目的地は滝壺。
そのそばに建っている一軒のあばら屋だった。
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