第4章 未踏域

第16話 猫耳で視聴者を釣る

猫耳でリスナーを釣るなんて自分でもあざといことやってんなとは思う。


(でも今だけ、今回だけは数字が欲しい)


何故なら、もうすぐチャンネル登録者数が500人に到達するからだ。

500人になったらどうなる?

収益化申請が通るようになるのだ!


【Utubeの収益化条件】

・チャンネル登録者数500人以上

・自身の動画の総視聴時間3000時間以上


被視聴時間の方はとっくにクリア済み。

あとは登録者数だけだった。

収益化申請が通れば広告を付けるのと投げ銭機能が解放される。

一言にまとめれば、収入が増えるのだ。


(金は大事だ。この前だってポーションがもう1本あれば、万堂さんを完治させて安全に地上へ戻れたかもしれない)


やはりポーションは常備しておくべきだろう。

できれば中級ポーションがほしい。

あと装備もそろそろ何とかしたい。

未だに初心者装備だからな。

金はいくらあってもいい。

そのための収益化で、そのための猫耳だ。

プライドなんか犬にでも食わせておけ。




猫耳を付けたままダンジョンを潜っていく。

とりあえず5層からのスタートだが、オーガ戦でレベルが上がったので6層にもいけるはずだ。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:10(+2)

体 力:21(+1)

攻撃力:25(+5)

防御力:10

素早さ:30(+5)

魔 力:3/3 (+2)

 運 :24

S P :0

スキル:バウンド、透視

ーーーーーーーーーーーーーー


もう防御力は捨てた。

理由は6層の主が『グリーンウルフ』だからだ。

推奨討伐レベル10のグリーンウルフは素早いことで有名。

私は防御力が10なので、素早さで負けたら死の危険がある。

よって、今まで通りの素早さ重視の構築を続行。

素早さに振る分を防御力に回すことも考えたが、やはり今から防御力を上げても中途半端になるだろうと思ってやめにした。


「お、ダンジョンウルフだ」


5層を歩いていると通常モンスターであるダンジョンウルフが現れた。


「肩慣らしに丁度いいな」


6層のボス狼の前に5層狼と戦って、現在の自分の性能を確かめようと思う。

今日は「可愛いからパス」とか言ってる暇は無い。


「バウンド!」

「GYAU!?」


私のスピードにダンジョンウルフは全くついてこれなかった。

1度目の攻撃で深手を負わせ、2度目の攻撃で倒せた。

完勝。


〈つえー〉

〈もう5層は余裕だなあ〉

〈ミア:ナイスー!〉

〈レベル的にも6層行っていいからな〉

〈さっさと6層行こうぜ〉


「よし、行くか6層!」




6層ボスのグリーンウルフは移動型の魔物だ。

6層の森の中でランダムにエンカウントする。

一応巣穴もあるので、そこで張っていれば帰ってきたところを叩くこともできるが、待ち伏せは地味過ぎるから配信的にNG。


「そんな時のための透視ですよ!」


レベルアップで魔力3になった私は、1日に使える『透視』の回数も3回になった。

もしもの時に備えて2回くらいは残しておきたいが、1回は雑に使ってもいいだろう。


「む、200メートル以内には見当たらないか。効果が切れるまでにできるだけ移動して探します」


『透視』で魔物の位置は分かるので、全回避しながらグリーンウルフを探す。

30秒ほど全力疾走したら北西方向に緑色の狼を見つけた。


「いたけど…これ普通に巣穴で寝てますね…」


〈あー〉

〈巣穴かよw〉

〈透視無駄になったな〉

〈最初に巣穴を探しに行けって話よな〉

〈スヤァ…〉

〈狼君さぁ…君移動型ボスの自覚ある?〉


「起きて移動されると面倒なのでさっさと巣穴まで倒しにいきます」


移動中に突撃猪ワイルドボアを見つけたが華麗にスルー。

6層の力試しに戦ってもよかったが、少し行った先にボスが控えているのでやめておいた。


「いました」


隆起した地面が丘のようになっている場所にグリーンウルフの巣穴はあった。

丘の真ん中のぽっかり空いた穴の中でグリーンウルフが眠っている。


「穴の中にいると攻撃しにくいな…」


〈一応家やしな〉

〈家って身を守るためのものだったんだなあ〉

〈当然だけど忘れがちなことに気付かせてくれる良配信〉

〈ミアちゃんがいたら穴に向かって火の球撃てるのに…〉

〈ミア:ファイトー!〉

〈ミアちゃん宿題進んでる?〉


寝ているところを不意打ちするつもりだったが難しそうだ。

諦めて普通に戦うことにする。

とりあえず起きてもらうために大声を上げた。


「ニャー!」


〈可愛い〉

〈可愛い〉

〈可愛い〉

〈あざとい〉

〈命が助かりました!〉


大声を聞いてグリーンウルフが起き出してきた。

5層のダンジョンウルフよりも一回り大きい。

化け狼だ。

まだ20メートルほど離れているので間合いの外だが、多少の距離は持ち前の素早さで一瞬で詰めてくるだろう。


「まあ、私の方が速いんですけどね!」


〈素早さ以外は向こうのが上だろ〉

〈調子に乗るな〉

〈今日はミアちゃんもいないんだからな〉

〈また転移罠踏むぞ〉


今日もコメントが辛口だぜ!




グリーンウルフとの戦いは死闘を極めた。

速さに勝る私が攻撃を当てるが、攻撃力が足りていないようでグリーンウルフは全然倒れなかった。

10分近くチマチマ攻撃を当てて、失血で動きが鈍ったところに頸部への急所攻撃を決めてようやく倒した。


「しんどかった…」


〈ナイスー!〉

〈GG!〉

〈乙〉

〈結構危なかったな〉

〈いうて無傷やん?〉


無傷なのは私が過剰に避けまくったからだ。

もっと迅速に倒す方法があったような気もしたが、防御力10が怖過ぎてチキンな戦法を取ってしまった。


(いかんな。せっかくのボス戦が地味な感じになってしまったかもしれない)


しかし6層にはグリーンウルフ以上の強敵は存在しない。

ではどうするか?


「そうだ、7層に行こう!」


〈マジ!?〉

〈7層うおおおおお!!!〉

〈ちょっと急ぎ過ぎじゃないか?〉

〈ボス倒したしもう6層でやることないもんな〉

〈よく分からんけど面白そうだから行こうぜw〉




7層のボスは『サンダーバード』。

飛んでる上に雷の遠距離攻撃を持つ厄介な鳥で、推奨討伐レベルは12。


「今の私ではレベルが足りないので、サンダーバード戦は回避の方向でいきます」


〈マジで来ちゃったよ7層〉

〈無茶するなあ〉

〈お前つい数日前に酷い目にあったの忘れたんか?〉

〈サンダーバードも移動型のボスだぞ〉


「分かってる。でも素早さ30あるし、逃げるだけなら何とでもなるはずさ!」


比較的安全な6層探索でもいいんだけど、今はとにかくインパクト重視。

6層全スキップで7層だ!

思い通り、視聴者数も良い感じに伸びてきている。

現在のリアルタイム視聴者数は311人。

チャンネル登録者数は498人だ。

もうちょい!


〈7層も森か〉

〈若干木が薄くなったか?〉

〈森と林の中間くらいに戻ったな〉

〈ちょいハゲか〉


「一個相談があるんですけど、透視使った方がいい?」


〈いいぞ〉

〈ダメ〉

〈まだ2回もあるし使おう〉

〈また未発見の転移罠踏むかもよ?〉

〈そんなポンポン未発見の転移罠出てきてたまるか〉

〈もう温存する必要ないぞ〉


コメント欄では使え派と万一に備えて残しとけ派が半々くらいだった。

うーん、まあ使っていいか。

今日は既に1時間くらい潜っていて、あとは7層を軽く探索して終わりるつもり。

そうそう危険な目には遭わないだろう。


「ということで透視!」


今回『透視』で探すのは危険な魔物だ。

まずは階層主であるサンダーバード。

あとは一般魔物でも群れを形成している場合は避けようと思う。

『透視』を使うとすぐにサンダーバードを見つけた。

100メートルほど向こうから、こちらへ真っ直ぐに突っ込んでくる。


〈うお、サンダーバードだ!〉

〈あやっば〉

〈超こっち見てる〉

〈バレテーラ〉

〈階段に逃げ込め!〉



「KIIIII!」


階段に避難した私は顔を出してサンダーバードの様子を伺った。


「あいつ、全然離れていかないんだけど…」


サンダーバードは完全に私をロックオンした状態で木に止まっていた。


〈諦めて6層に戻ろう〉


「えー!せっかく7層まで来たのに!」


しかしそれしかないか…。

チラッとチャンネル登録者数を確認すると499人だった。

くっ、あと1人…!


(ここで逃げて500人までいけるのだろうか?…否!)


ここで逃げたら配信者じゃあねえよなあ!?


「ふー…みなさん、私は今から全力疾走でサンダーバードの横ぶち抜いてきます!」


〈マジで!?〉

〈行くのか!?〉

〈やめとけやめとけ!〉

〈ミア:危なくない!?〉


「大丈夫。素早さは勝ってるからいけるはず」


サンダーバードは飛行能力と遠距離魔法攻撃を搭載した厄介な魔物だが、その分素早さはグリーンウルフにも劣る。

私の計算では逃げ切れる確率100%!


「右の方が魔物少なめだったので右に行きます」


いつものように小ジャンプから『バウンド』を発動。

開幕全力疾走でサンダーバードを置き去りにする。


「KIIIIIIIIIIIIIII!!」


サンダーバードは空を飛んで追ってくるがいつまで着いてこられ…うわ、魔法撃ってきやがった!?


「KIIIIIIIIIIIIIII!!」


危うく雷魔法の直撃を受けるところだった。

しかも予想より全然普通に着いてくる。


(しまった!高所にいる分、索敵範囲が広い!しかもこの森ちょいハゲだから木に紛れて行方をくらますこともできない!)


簡単に撒けると思っていたのに誤算だった。

あと後方から追ってくるドローンが目印になってしまうのも誤算だった。


「バウンド!バウンド!バウンド!」


『バウンド』混じりのダッシュで体力消費を軽減しながら走る。

しかし撒けなければそのうち体力が尽きて、最後には捕まってしまう。


〈ちょっとまずくね?〉

〈あ、ダンジョンの果てだ〉


遠くの空に半透明の結界が見えた。

あれがダンジョン内の行動限界地点だ。

まずいな、あそこまで行ったら追い詰められてしまうぞ。


(何か無いか?隠れられそうな場所とか…)


そう思っていると、少し先に大きなうろを持つ大樹を見つけた。

ラッキー!

あそこに隠れれば頭上からは確認できまい。


(そうだ、先にドローンを回収しないと)


私は大樹の元まで走ると、一度樹を背にして待機。

少しして飛んできたドローンを回収してから洞の中に飛び込んだ。

そして洞の中の転移罠を踏んだ。




「…は?」


眩い光が消えると、私は木の洞ではなく洞窟にいた。


「え…?」


〈どこここ?〉

〈転移?〉

〈転移罠?〉

〈おいまたかよ!〉

〈また洞窟じゃねーか!〉

〈また24層かよ!〉

〈ミア:大丈夫!?〉


嘘…でしょ…?

恐る恐るコメント欄をチラ見すると、そちらでもメタクソに言われていた。

また転移罠かよ!


(いやでもさあ、あんな所の転移罠なんか分からんて…)


発見済みの転移罠の位置は事前に調べておいたが、あんな所にも転移罠があるなんてどの攻略サイトにも書かれていなかった。

つまり…、


〈また未発見の転移罠見つけたのか?〉

〈3日ぶり2回目じゃん〉

〈君、未発見の転移罠見つけるの上手いねえ!〉

〈どう見ても洞窟フィールドだしまた21〜25層のどっかだな〉


「…泣いていいか?」


まーた低レベルで地上まで戻れるかチャレンジすんの?

もういいよ、この前やったじゃん…。

しかも『透視』2回使ったからまた1回しか残ってないし…。


「ていうか、ここどこ?」


前来た時は24層の青い石の近くだったけど、今回は目印っぽい物は何も無い。

何か前に来た時と印象も違うし、24層ではないのか?


〈何か天井高くね?〉

〈洞窟フィールドって狭いんじゃなかったっけ?〉

〈普通に広くね?〉


言われてみれば確かに広い。

岩の壁と天井に囲まれているが、やたら開けた空間に出てしまった。


「何か…水の匂いがする…」


湿気も感じる。

近くに湧水でもあるのかもしれない。


〈24層には水場は無いぞ〉

〈じゃあ23層?〉

〈aaaa1234:洞窟フィールドは21〜25層だが、どこにも水場なんかないぞ〉

〈気のせいじゃね?〉


気のせい?

まあ、水の気配に関しては私の肌感だ。

みんなが気のせいと言うならそうなんだろう。


「…とにかく人を探そう。私じゃ20層クラスの敵には勝てないから」


辺りを見回す。

右には視界を遮るほどの大岩があり、左手には壁が見えている。

私は右に向かうことにした。

理由はそちらから水の匂いがした気がしたからだ。

なお、『透視』は1回しか残っていないため魔物が現れるまで温存する。


「この岩の先に誰か…っ!?」


大岩から出した顔をすぐに引っ込めた。

岩の先にはやはり水場があった。

しかし、そんなことはどうでもよかった。


「PUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON」


人の姿は無かった。

代わりに、見たこともない魔物の姿があった。

その魔物の姿を言葉で表すなら、家くらい大きな、宙を浮く海月クラゲだった。

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