第12話 万能型戦士
俺の名は
ソロのダンジョン探索者で、今は『品川ダンジョン』の23層でレベル上げをしているところだ。
「わああああ!死ぬうううううう!」
「いやあああああああ!」
23層は洞窟フィールドだ。
大きな声は結構響く。
今の情っけない声は女の声か?
「近いな…一応行ってみるか」
悲鳴を頼りに向かうと、女子2人が魔物に追われていた。
魔物は『グリーンファッティ』。
太ったワニだ。
推奨討伐レベル22の雑魚で、おまけに23層で最も足の遅い魔物なのだが、追われてる2人も負けないレベルで動きが遅かった。
「おい!助けが要るか!」
「助けてええええええ!」
「お願いしますううう!」
俺は腰からロングソードを引き抜き、全速力で2人に駆け寄った。
そしてそのまま追い抜き、デブワニの正面に立ち塞がった。
「GYAOOOOOOOOO!!」
「オラァッ!」
デブワニの噛みつきを左腕の盾で弾く。
弾いた勢いで側面に回れば、目の前には丸々太った横っ腹。
「内臓ブチ撒けろ!」
振り下ろしたロングソードは硬い鱗にぶつかった。
だが、その程度の防御などレベル27の俺の攻撃力なら何の問題にもならない。
「オオオオオオッ!!!」
「GUGYAAAAA!!?」
鱗ごと腹を裂くとデブワニはひっくり返ってビクンビクンと痙攣した。
そしてすぐに塵となって消えた。
雑魚が。
痩せてから来い。
「おおー!」
「すごーい!」
助けた2人は無事なようで、手を叩いて喜んでいた。
助けた2人はサンとミアと名乗った。
歳は俺より少し下くらいに見える。
2人は配信者であるらしく、確かに後方には撮影用と思しきドローンが飛んでいた。
「あの…今も配信中なんですけど、緊急事態で自撮りモードも間に合わなくて…万堂さんの顔も思いっきり映っちゃってるんですけど…」
「あー、まあ、構わねえけど」
「無許可で映しちゃってすみません」
流行りのダンジョン配信か。
俺も『百鬼夜行』の『品川ダンジョン55層攻略動画』とかは見ているので存在は知っている。
だが、まさか自分が配信に出演するとは思わなかった。
「それより、あんたらはどうして23層に?」
グリーンファッティにも勝てず、軽装なのに動きも遅い。
どう見ても2人とも低レベル探索者だ。
「実は転移罠に飛ばされまして…」
『転移罠』はダンジョン内に存在するワープ装置だ。
現代科学では解明不可能の超技術による代物で、名前の通りトラップの一種とされている。
2人のような低レベル探索者が中層や下層へ飛ばされると危険な目に遭い、最悪の場合は死ぬ。
「5層を探索してる時にあたしがうっかり転移罠を踏んじゃったんです。それで24層に飛ばされちゃって…」
「待て、5層から24層への転移罠っつったか?」
しかしダンジョンの出現から10年が経ち、今では転移罠の場所もほとんど判明している。
最早罠というより、高レベル探索者用のショートカット装置として使われることの方が多いのだが…。
「5層から24層に飛ぶ転移罠なんて初耳だ。未発見の転移罠が上層に?」
「あったんです。24層の青い石の前に飛ばされて、近くには下へ降りる階段もありました」
「あの青い石か!」
24層の青い石は有名だ。
25層行き階段側の道の端に存在する破壊不能オブジェクト。
ネット等でも何かあるんじゃないかと言われていたが、あれが転移先の目印だったのか。
「25層への階段で助けを待っていてもよかったんですが、『透視』を使ったら23層への階段が見えたので、23層までは行こうということになりまして…」
「それで?」
「23層まで来れたんなら22層にも行けそうじゃない?って思ってちょっと顔を出したらさっきのワニに見つかっちゃって…助けてもらわなかったらマジでヤバかったよね…」
「ふぅん、なるほどな」
事情は分かった。
特に悪い奴らでもなさそうだ。
『迷惑系配信者』とかなら捨ておこうかとも思ったが、違うなら見捨てるわけにはいかないだろう。
「仕方ねえ。21層に3層への転移陣があるから、そこまでは送ってやるよ」
「いいの?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
そういうわけで俺達は21層に向けて歩き出した。
「最初は怖そうな人かと思ったけど良い人で良かったね!」
「そうですね」
「…んん?」
仲の良いコンビだなと思ってよく見たら、サンという子の方は中性的な外見をしていた。
女にしては背も高いし、こいつもしかして男か?
「あんたら、もしかしてカップルか?」
「えー!カップルに見えちゃいますー?」
「違います。この子他に彼氏いるんで」
「ああ、そうなのか」
「否定早くない!?」
「実際そうじゃないですか」
「そうだけどさぁ!」
「…」
2人とも結構な声量で喋っている。
注意してもいいが…別にしなくてもいいか…。
(配信者にはこのくらいの声量が必要なのかもしれねえしな。よく知らんけど)
この辺はフィールドが狭いからか魔物の数も少なめだ。
確かに声は響いているが、もし魔物を寄せてしまっても俺が対処すればいいだけの話。
「そういえばサンさんは付き合ってる人いるの?」
「いませんけど」
「えー!何で!?こんなに綺麗な顔してるのに!」
「世の中顔が全てではないということです」
「じゃあ、万堂さんは彼女いますか?」
「ちょっ、何聞いてんですか!」
「…いねえけど」
「あ、そうなんだ、結構イケメンなのに」
「…」
「すみません、この子ちょっとバカで!」
「バカは酷くない!?」
「ちょっとネジが緩くて!」
「ネジ?何で急にネジの話?」
「ね?」
別に…気にしてないが…。
実際俺はモテない。
愛想は悪いし人相も悪いから、女にもモテないし人間全般にモテない。
ガキの頃は育ちの悪さが容姿に出ているとよく言われたもんだ。
(あ、結局男かどうか分かんねえままだ…まあ、いいか)
男でも女でもカップルでも何でも、助けなきゃいけないことに変わりはない。
3人で22層への階段を目指す間、一度だけ魔物と遭遇した。
『ジャイアントバット』という魔物で、名前の通りのデカい蝙蝠だ。
薄暗い洞窟内だと黒い身体が見えにくく、撃ってくる超音波攻撃もダルいが、まあ雑魚だ。
「PIIIIIIIIIIIIIIII!!」
岩陰からの突進攻撃を盾で受けて弾き返すと、ジャイアントバットは超音波を撃つ体勢になった。
「下がってろ!」
2人を俺の後ろに下がらせ、その辺の石ころを拾った。
『石飛礫』による遠距離攻撃のためだ。
しかし俺が石を投げるより先に、俺の横を炎の玉が飛んでいった。
「火弾!火弾!火弾!」
「PIIIIIIIIIIIIIIII!?」
炎の球は3発とも命中した。
暗がりに潜む蝙蝠に炎の明かりは強烈だったようだ。
あまりダメージは入ってなさそうだが、超音波攻撃を阻止しただけでもデカい。
(今のはミアって子の方がやったのか?中々やるな…)
初心者探索者では役に立たないだろうとステータス確認もしていなかったが、魔法が使えるなら話は別だ。
(後で能力のすり合わせをする必要があるな)
俺はそう思いながら、隙を見せたジャイアントバットを仕留めに向かった。
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名 前:万堂 堅也
レベル:27
体 力:48
攻撃力:48
防御力:47
素早さ:47
魔 力:15/25
運 :10
S P :0
スキル:剣術、シールドバッシュ、土盾、石飛礫、アースブレード
●装備
・ロングソード:攻撃力+5
・ラウンドシールド:防御力+3
・胸当て:防御力+2
・肩当て:防御力+1
・籠手:防御力+1
・上等な服:防御力+1
・上等なズボン:防御力+1
・脛当て:防御力+1
・大蛇のヘルム:防御力+4
・頑丈なブーツ:素早さ+1
・ボストンバッグ:チョコ、水、中級ポーション、短剣、タオル
年齢:21歳
性別:男
髪型:無造作短髪
髪色:黒色
身長:180cm
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