第9話 脳破壊女

あたしの名前は江口美愛。

サラリーマンの父と専業主婦の母から生まれた普通の女子高生。

だけど何故か魔法の才能があった。




ダンジョン全盛期の現代日本では高校入学直後に全員ステータスチェックを受ける。

そこで『火弾』のスキルがあると判明したあたしは驚くほどモテた。


「ミアちゃん俺らとパーティー組まねえ?」


連日色んな人からパーティー勧誘を受けた。

元々ダンジョンには興味無かったんだけど、チヤホヤされるのが気分良くて段々やる気になっていった。

悩んだ末、同じクラスのタカくんとパーティーを組むことにした。

週末とかに2人でダンジョン探索をするようになり、当然すぐに彼氏彼女の関係になった。

そうするとダンジョン探索のために一緒になったはずなのにダンジョンとは全然関係ない遊びの時間が増えた。

そうして迎えた初めての夏休み。


「お金がない!」


バイトもせずに遊び回っていたあたし達は金欠だった。

週末のダンジョン探索も1層でスライムばっかり倒していたので大して稼げず。

これじゃあせっかくの夏休みなのにどこにも遊びに行けない。

どうしよう!?


「本格的にダンジョンに潜ろう!」

「そうしよう!」


あたし達は遊ぶ金欲しさでダンジョン探索を進めていった。

そんな軽い気持ちでダンジョンに潜ったのが悪かったんだと思う。

適正レベル以下でボスモンスターに挑んだあたし達は惨敗した。

あたしなんか捕まって危うく死んでしまうところだった。






「えー、こんばんは。新人ダンジョン配信者のサンです」

「ミアです!」


〈はじまた!〉

〈こんばんはー〉

〈あれ?知らない子がいる〉

〈今日はコラボ回ですか?〉

〈もしかして一昨日の子?〉


配信を始めたら一斉にコメントが流れ始めた。

へー、配信ってこんな感じになるんだー!

サンさんは弱小配信者って言ってたけど、コメントはひっきりなしに流れてきた。


「えー、まあ、コラボ回っていうか…夏休みの間は美愛さんとコラボする感じになりました」

「よろしくお願いしまーす!」

「じゃあ理由説明をどうぞ」

「えっ、また説明すんの?えーっと、理由は彼氏と別れたからです!」


〈?〉

〈ちょっとよく分かんない〉

〈そんなコラボ理由ある?〉

〈詳細プリーズ〉


「本当は彼氏とダンジョンでお金稼いで、そのお金で遊びに行こうって話してたの。でも別れちゃったから、お金も無いしお金を稼ぐ方法も無くなっちゃったんだよね」

「装備全ロスしたからむしろマイナスらしいです」

「そうなの!お金が無くて遊びにも行けなくて、でも今からバイト探すのもダルいし?友達誘ってみたけどレベル差あって無理って言われて、サンさんの配信見てみたらレベル一緒だったから丁度いいじゃん!って思ってパーティー組んだ!」

「何かそんな感じです」


〈なるほどね?〉

〈要約すると、金が無いと〉

〈ミア?ちゃんの事情は分かったけどサンちゃんはそれでいいんか?〉


「うん…まあ…夏休み限定なら…」


〈渋面で草〉

〈渋々やんけ〉

〈さては流されたな〉

〈ミアちゃん陽キャ感あるし隠キャのサンでは勝てへんかw〉


お〜!

流石リスナーさん達、よく分かってる。

初めはパーティーに後ろ向きだったサンさんだけど、めちゃめちゃゴリ押したら何とかなったんだよね。


〈ふむふむ、サンちゃんは押しに弱いっと〉

〈気付いたら付き合ってそう〉

〈いつの間にか入籍してそう〉

〈百合かあ…良いね!!〉

〈キモいこと言うのやめて?あとサン君は男だから〉

〈お、ガチ恋女さんちーっすw〉


「あ、ちなみにあたし彼氏います!」


〈え?〉

〈まじ?〉

〈何…だと…!?〉


「あれ、タカくんさんと仲直りしたんですか?」

「ううん、別の人」


タカくんと別れてSNSでヘラってたら別の男友達から告白されたのでそっちと付き合い始めた。


〈フットワーク軽すぎねえ…?〉

〈乗り換え速えええ〉

〈そんな…ミアちゃんに彼氏が…うっ、頭が!〉

〈何か脳破壊されてる奴いて草〉

〈ミアちゃんの初登場から5分経ってないのに何でもう脳破壊されてんだよ〉




「とりあえず今日は4層でお互いの能力見つつ、魔物狩ってレベル上げ&換金アイテム狙いでいいですか?」

「うん!」


4層は「森に成りかけの林」くらいのフィールド。

階層主は『ワーム』という虫のような蛇のような化け物だ。

全長は2mもあり、地中を素早く移動する。

円形の口には牙のような突起がビッシリと生えていて超キモい。

何だっけ、ヤツメウナギ?みたいな感じ。

ただ防御力は低く、全身どこでもダメージ判定がある。

出現場所も分かりやすく、林の中の木の無いエリアの地中に潜んでいる。

推奨討伐レベルは6だ。

…ってサンさんが言ってた。


〈ミアちゃんのレベルなんぼ?〉

〈ステータス見せて〉


「分かった!ステータスオープン!」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:ミア

レベル:6

体 力:13

攻撃力:14

防御力:13

素早さ:13

魔 力:20/20

 運 :10

S P :0

スキル:火弾、連射


●装備

・普通の服:防御力+0

・普通のスカート:防御力+0

・カーディガン:防御力+0

・スニーカー:素早さ+0

・ショルダーポーチ:スマホ

・赤メガネ:防御力+0


年齢:16歳

性別:女

髪型:ローツインテ

髪色:プラチナブロンド

身長:158cm

ーーーーーーーーーーーーーー


〈おお魔法使いか!〉

〈スキル2つあんじゃん!〉

〈火弾と連射は結構強そう〉

〈これサンより強いんじゃない?〉


「あたし強い?本当?あ、でも火弾撃ってたら大体何でも倒せてたよ!」


〈やるやん〉

〈火弾良いよな。水弾とか風弾とかより明らかに強い〉

〈でもジャイアントフラワーには負けましたと〉


「う、ジャイアントフラワーは…植物系だから相性有利ってタカくんが言ってて…」


2レベ差くらい何とかなるかと思ったんだけど、実際はどうにもならなかった。


〈2レベ上がると15ポイントくらい差が出るしな〉

〈15ポイントはでかいなあ〉

〈攻撃力だけに振れば一般人が世界チャンプ並みのパワーになるからな〉

〈推奨討伐レベルは必ず守る。ダンジョン攻略の鉄則じゃ〉

〈長老もいます〉


「結構酷い目に合ってましたけど、大丈夫ですか?魔物と戦えます?」

「う…うん…大丈夫」


〈めちゃめちゃ自信無さそうじゃねーか〉




4層に降りて5分くらい歩くとワームの出現ポイントに着いた。


「多分あそこ。色の違う土の中にいます」

「わかりやすっ!もしかしてワームって頭悪い?」

「いや、事前情報が無かったら結構気付かないかもしれませんよ」

「あー確かに」


ここで一旦作戦タイム。


「あたしの魔法で誘き出そうか?」

「いや、私が近付いて釣り出すので、トドメを頼みます。リスナーに実力見せてほしいんで」

「分かった!絶対1発で仕留めて見せるよ!」

「連射あるんだから連射してもろて…」


〈草〉

〈張り切り過ぎて空回ってるミアちゃん可愛いね〉

〈いつもは適当なことばっか言ってるサンさんが今日はツッコミ役で新鮮だ〉

〈流石にまだちょっと心の距離を感じるな〉


「バウンド!」


大きく跳び上がったサンさんは色の違う土の近くに着地した。


「GUUUUUUUUUUUMU!!」


振動に反応してワームが土中から飛び出す。

一瞬サンさんが食べられたかと焦ったけど、サンさんはスキルで上空に跳び上がって回避していた。

10メートルくらい離れた場所に着地すると、ワームはサンさんの方に顔を向けた。

あたしには完全に背を向けている。


〈今だ!〉

〈GOGOGO!〉


「火弾!」


突き出した右腕の先に炎の球が生まれ、詠唱を合図に飛んでいった。


「GUUUUMU!?」


よし、命中!

このまま倒し切る!


「火弾!火弾!火弾!」


火弾は1発ごとに魔力を1消費する。

だから1日に撃てる火弾は20発。

でも今はボス戦なので、出し惜しみはなしだ。


「火弾!火弾!火弾!」


1発外れたけど他は命中した。

合計6発の火弾で火達磨になったワームは叫び声を上げて地面に崩れた。


「やったあ!!」


〈うおおおおおお!〉

〈ナイスゥ!〉

〈火弾連射つんよ〉

〈魔法いいなー〉

〈魔法撃ちたいけどスキルは運だからなあ〉




ワーム戦で実力を見せることには成功した。


「次は美愛さんの配信者力を試させてもらいます」

「カメラの前で面白おかしく魔物を倒せば良いんでしょ?簡単よ!」


〈フラグじゃん〉

〈なめくさってんな〉

〈配信者舐めてると痛い目見るぜ?〉

〈ただのリスナーが配信者目線で何か言ってて草〉


丁度いいところに1匹のゴブリンを発見。

あれにしよう。

サンさんの方を見たら「どうぞ」と手で促された。

1人でやれということらしい。

1人か…ちょっと怖いかも…。


(いや大丈夫、ゴブリンなら今までにも1人で倒したことあるし!)


いつもは遠くから不意打ちで魔法を撃って倒すが、今回は配信映えを考えて先に挑発してみた。


「さあ来なさい、ゴブリン!あんたなんかあたしの魔法で…」

「GOBUUUUUUU!!」

「って、キャア!」


ゴブリンは卑怯にもあたしが喋ってる間に攻撃してきた。

魔法使いは距離を詰められると弱い。

攻撃を避けようとしたあたしは後ろに転び、ゴブリンはあたしの上に馬乗りになった。


「GOBU!GOBU!」

「ひいっ!た、助けて!嫌っ!変なとこ触らな…あっ!嫌っ…!」


〈エッッッッッッ〉

〈ぬっっっ!!!〉

〈まさかのくっころ路線〉

〈どちらかと言うと即落ち2コマでは?〉

〈言ってる場合か?〉

〈相手ゴブリンやし何とかなるやろ〉

〈あ、サンちゃんが助けた〉

〈髪も服もグシャグシャで可哀想…だから抜くね?〉

〈この子彼氏いるんだよな……余計興奮してきた〉

〈イェーイ彼氏くん見てるー?〉


服が少し破けたけど、サンさんが助けてくれたおかげで怪我はほとんどなかった。


「大丈夫ですか?」

「怖かったよぉ!」


ジャイアントフラワーに続いてゴブリンにまで犯されるんじゃないかと怖かった。

襲われてる時も半べそだったが、助けられて安心したら涙がボロボロと落ちてきた。


「美愛さんは…確かに、誰か前衛できる人と組んだ方が良さそうですね…」

「ひっぐ、えっぐ…」


〈どんまい〉

〈ステータスはそこそこあるんだけどなあ〉

〈能力あっても戦いに向かない人はいる〉

〈魔物と戦うの怖いもんな〉


魔物に近寄られるとどうしても身体が強張ってしまう。

薄々思っていたけど、あたしは探索者には向いていないんだ…。


「まあ、私が前衛をやれば大丈夫でしょう」

「ゔぇ…?」

「今後は私が前で戦って、ミアさんが後ろから魔法で攻撃。これならもうミアさんが魔物に捕まることはないと思います」

「ご、合格っでごど…?」

「そうそう。だからそろそろ泣き止ん…」

「ゔえええええええん!」


こうしてあたしは配信者力テストに合格し、サンさんと正式にパーティーを組むことになった。

やったね!



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