第8話 パーティー
救助した女性はしばらく眠っていた。
(改めて見ると女性っていうより女の子だな)
年齢は多分高校生くらい。
長い金髪に眼鏡を掛けている。
顔立ちは整っている方だ。
「んん…」
〈お、起きたっぽい?〉
〈寝起きの声…Hだ…〉
〈お前ら何でもありかよ〉
〈うっ…ふぅ…〉
「おい、今画面に映ってんの私の顔だろ。やめろやめろ!」
「ここは…あ、あなた誰…ですか?」
彼女が起きあがろうとすると掛けてあった上着がずり落ちた。
「え、何で裸!?」
「あー、落ち着いてください。変なことはしてません。ジャイアントフラワーと戦ってたのは覚えてますか?あなた、負けた。私、助けた。それ、私の上着。OK?」
混乱しているようだったので短文で説明を試みる。
「ジャイアントフラワー…あ!タカくんは?タカくんはどこ!?」
「タカくん?彼氏っぽい人なら…どっかに走って行きましたけど…」
「どっか!?どっかってどこ!?」
「あっちの方…」
遠目に階段が見える方を指差すと、彼女はブチギレた。
「嘘!?あいつあたしのこと置き去りにして逃げたってこと!?何それ!信じらんない!最悪!」
〈こ、怖いっぴ…〉
〈そりゃまあキレるわな〉
〈彼女見捨てて逃げるのはダメだよな〉
〈男としても人間としてもアウト〉
キレ散らかす彼女を宥めようと思い、カバンだけは回収したことを伝えると、彼女はカバンをひったくってスマホを取り出し猛然と入力を始めた。
「タカくん今どこ!?何で置いて行ったの!?あたし死にそうだったんだけど!?」
全部声に出てるが音声入力とかではなさそうだ。
「はあ!?生きてて良かった!?ふざけんなマジ!今から迎えに行くって何言ってんだ馬鹿死ね!来なくていいから別れて!二度と顔も見たくない!」
彼氏とのやり取りが終わったのを見計らって話しかけようとしたが、彼女は今度はさめざめと泣き出した。
「うう…もう最悪…ダンジョンなんか来るんじゃなかった!」
〈大丈夫?話聞こか?〉
〈全部聞こえてんだよなあ…〉
〈情緒不安定過ぎんか〉
〈まあ、死にかけたら情緒不安定になっても仕方ないんじゃね?〉
〈傷口に塩塗るような発言はやめよう〉
「あの、とりあえず階段まで移動しましょう。ここだと魔物の襲撃を受ける可能性があるので」
泣きじゃくる彼女を連れて階段まで移動した。
歩いているうちに多少落ち着いたようで、一応会話ができる状態にはなった。
「あの…助けてくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「ええっと…あなたは…男の人?」
「性別は伏せてるんですよね。あ、私配信者なんですけど」
「え、そうなの?もしかして、今も配信してる?」
「はい」
〈ばっちり映ってます〉
〈イェーイ見てるー?〉
〈ずっと自撮りモードだからサンの顔しか映ってないけどな〉
〈視聴者数は何か伸びてるけどな〉
〈やっぱエ/ロよ〉
「じゃ、じゃああたしの裸も…」
「それは映さないようにしたので大丈夫。Utubeで配信してるので、過激なシーンは映せないので」
「そうなんだ。良かった…」
「とりあえず今日はダンジョン探索どころじゃないと思うので、上まで戻りましょう」
「あなたも戻るの?」
「流石にそんな格好の女性に『1人で上まで行け』とは言えないので…最悪炎上しかねないし」
〈炎上対策、ヨシ!〉
〈流石に炎上はしないと思うけどw〉
〈常識的に考えれば送らないわけにはいかんわな〉
〈てかそんな敬語使う感じだったっけ?〉
〈普段から敬語だったり敬語じゃなかったり半々くらいじゃね?〉
〈女の子の前だから格好つけてんだろ〉
〈初対面の相手に敬語使うのは普通では?〉
コメ欄で何か言っているが、私は基本敬語だぞ。
リスナーの扱いが特別に雑なだけだ。
階段を上がって4層に出て、魔物を避けながら上層への階段に向かう。
魔物と遭遇したくないので本当は無言がいいのだが、そうすると配信的にまずいのでポツポツ会話もする。
「そういえば怪我とかはないですか?」
「大丈夫!さっき小石踏んで、ちょっと足が痛いくらい」
あ、そういえば靴も溶かされているから裸足だった。
「すみません、気が回らなくて。靴貸しますよ」
「いい、いい!草の上歩けば大丈夫だから」
〈草原でも裸足はキツそう〉
〈貸してやれ〉
〈やめた方がいい。万一の時にサンが動けないとまずいから〉
〈確かに〉
〈えー貸すのダメです〉
「うーむ、コメントでも『万一に備えて貸さない方がいい』って言ってますね…」
「本当に大丈夫。あたし防御力14もあるし!」
「私より防御力あるな…」
負けたとはいえジャイアントフラワーに挑むくらいだから、彼女のレベルは私と同じか私より上なのかもしれない。
「あれ?でもジャイアントフラワーにぶっ飛ばされた怪我も消えてる?何でだろ?」
「ああ、もしかしたらポーションが効いたのかも」
「ポーション?」
「気を失ってる時、念のため飲ませたんですよ」
「ええー!?ポーションって高いやつでしょ!?」
「あー、いや、弱ポーションなんでそんなにです」
「上に戻ったら弁償します!」
一瞬3万円の誘惑に心が揺らいだが、やはり弁償はしなくていいと言った。
魔物に捕まって、裸にされて、彼氏にも置いていかれた彼女に3万円を請求するのは良心が咎めた。
「本当にいいの?」
「本当にポーションが効いたのか分かりませんしね」
「うう、優しい…好きになっちゃいそう…」
「それはちょっと勘弁してもろて…」
幸運にも私達は魔物と遭遇することなく地上へ戻れた。
戻るとすぐに、ダンジョン受付で待ち伏せしていた『彼氏のタカくん』と遭遇。
それはもう大変な修羅場を演じたが、長くなるので割愛。
『彼氏のタカくん』を追っ払った後、彼女は親御さんに連絡して迎えに来てもらうことになった。
私ももう配信する気はなかったので、後のことはダンジョン受付のお姉さんに任せて先に帰った。
翌日は休みにした。
ダンジョン探索用の上着をあげてしまったので、服屋に行く必要があったからだ。
上着を買った後はXwitterで休みの報告をして、今日のやることはお終い。
1日ぶりに『品川ダンジョン』へ行くと、受付で声をかけられた。
「サンさーん!」
「ん?ああ、この前の…」
声の主は一昨日助けた女の子だった。
そういえば名前も聞いてなかったな。
「あれ?私、名乗りましたっけ?」
「えへへ、配信してるって言ってたからチャンネル探しちゃった。あ、上着新しいの買っちゃった?」
彼女は上着を返却するつもりだったらしく、現在はクリーニングに出しているところだそうだ。
「わざわざすみません。用件はそれだけですか?」
「あ、それと改めてお礼と…もう一個話があって」
彼女はモジモジしながら言った。
「あの、あたしとパーティーを組んでください!」
「ちょっとパスで…」
「えー!何で!?」
理由はまあ2つかな?
まず、面識の無い相手とパーティーは普通組まない。
未だに彼女の名前すら知らないんだから当然だろう。
そして2つ目の理由は私が配信者だからだ。
「あたし映っても気にしないよ?」
「いや、こっちが気にするんですよ」
ずっとソロ配信者でやってきたので急にパーティーを組むとなったら『リスナー離れ』を起こすかもしれない。
登録者数も少しずつだが順調に伸びているところだし、あまり変なことをしたくないタイミングだ。
「どうしてもダメ?」
「そうですね…」
「どうしてもどうしてもどうしてもダメ?」
「そ、そうですね…」
「一生のお願いでもダメ?」
めげねえ、この子…。
というか『会ったばかりの人の一生のお願い』に一体どれくらいの価値があるのだろうか?
「ええっと…何かパーティーを組まなきゃいけない理由でもあるんですか?」
「それがね…お金がなくって…」
いや金かよ。
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