第2章 脳破壊金髪眼鏡女さん
第6話 リスナー縛り
「こんばんはー。新人ダンジョン配信者のサンです。昨日オーク倒したので今日は3層いきます」
〈はじまた!〉
〈こんばんはー〉
〈3層攻略うおおおおお!〉
〈3層早くね?この前2層降りたばっかやん?〉
「2層と3層は難易度そんなに変わらないらしいよ」
昨日ネットで調べたところ要求レベルは2層も3層も同じだった。
オークが倒せるなら3層の主も倒せるらしい。
〈そうなんだ〉
〈オークは最序盤のクソモンスと言われているからな〉
〈オークだけ異様に強いんよな〉
〈何なら6レベまでいけば4層も攻略できるぞ〉
『品川ダンジョン』1層にはレベル1で倒せるゴブリンとスライムしか出ない。
しかし2層から急に要求レベル5のオークが出てくる。
ダンジョン黎明期にはオークのせいで多数の犠牲者が出たらしい。
「まあ私はそのオークをソロ討伐できたんだから、3層行っても問題ないってわけ!」
というわけで3層へ向かう。
移動中は雑談タイムだ。
〈オーク肉もう売った?〉
「売った売った。そのお金でリュック新調して、予備の短剣も買って、あとポーションも買いました!初めて買ったけど3万もするんですね」
〈ええやん〉
〈ポーション買えたらようやく一人前の探索者だな〉
〈ポーション見たことないから見せて?〉
「リュックに入れてるから無理」
〈何でリュックに入れてんだよ〉
〈すぐ取り出せるようにしとけよ〉
〈上着のポケットにでも入れとけ〉
「でも3万ですよ?もし瓶が割れたらって考えると大事にしまっておきたくならん?」
〈ポーション瓶は頑丈だから大丈夫〉
〈消費アイテムをしまっておいて何になるんだ〉
〈貧乏性がよぉ…〉
〈ポーションは弱?〉
「そうそう、弱ポーション。中ポーションは高くて手が出ませんでした」
〈中ポーションはめっちゃ傷治るけど10万はするからな…〉
〈今通販サイト見たら12万だった〉
〈高い〉
〈転売対策される前は30万くらいしたから安くなった方よ〉
今は瓶にシリアルナンバーが振ってあり、転売すると足が付くし逮捕もされる。
それでも未だに闇サイトで闇ポーションが出回っているとかなんとか…。
〈ところで今日は何か縛りありますか?〉
「あー、縛りねえ。考えてなかったけど何かやります?」
〈お嬢様言葉縛り!〉
〈初3層だし帰れま10でいいんじゃね〉
〈ビビったら負け縛りとか〉
〈おしがま探索〉
「お嬢様言葉縛りはやらんって。『帰れま10』は…やってる配信見たけど、難易度低い階層だとただの討伐配信になっちゃうんだよね…」
ソロのため安全マージンは十分に取っている。
3層でもビビったりすることはあんまりないだろう。
おしがま探索は『おしっこを我慢しながら探索』の略だが、そんなもんやるわけねーだろ。
〈じゃあまた中二台詞縛りか〉
「『かっこいい台詞縛り』な?でもそれもこの前やったし…あ、じゃあ今日はリスナーを縛ろう!」
〈え?〉
〈俺らが縛られんの?〉
〈縛っていただけるんですか!?〉
〈何だか興奮してきたな!〉
〈はぁはぁ〉
〈キツめにお願いします!〉
「きっしょ!物理的な縛りなわけないだろ…リスナーのコメントを縛ろうって話ね?かっこいいコメント以外ダメとか、お嬢様言葉以外ダメとか」
〈なるほど?〉
〈お嬢様言葉なら任せてくださいまし!〉
〈くっ、俺の中の魔物が暴れてやがる…!〉
〈いいお天気で雑談日和ですわ〜!〉
〈うっ!『奴』に刻まれた古傷が…!〉
〈『奴』って誰ですの?〉
〈知らねえですわ〜!〉
〈みんな!俺が正気を保っているうちに逃げてくれ!〉
〈闇に飲まれよ!〉
〈うおおおおですわ!〉
〈偽りの光、悠久なる時の中で塵と化せ!〉
「うわ、一斉に来るな!『うおおおですわ』って何だよ!『かっこいい台詞縛り』じゃなくて『中二病縛り』じゃねーか!偽りの…なんて??」
〈訳:配信頑張ってください!〉
「嘘でしょ!?」
うーむ、どうやらこの縛りはダメなようだ。
私1人がツッコミに回ることになってしまう。
普通にしんどい。
「えー、中二台詞縛りは翻訳が難解過ぎるので却下とします」
〈お嬢様言葉縛りは?〉
「えー、連帯責任で却下とします」
〈酷いですわ!〉
中二台詞もダメ。
お嬢様言葉もダメ。
となると…。
「何か他に良い感じのアイデア無い?」
〈ぶん投げやがった!?〉
〈また俺らにぶん投げですか〉
〈お前はいつもそうだ〉
〈無策〉
「でも『リスナーは馬車馬の如く使い倒して良い』って
〈はい嘘〉
〈1秒で分かる嘘をつくな〉
〈リスナーの捌き方に詳しいひいひいじいちゃんなんかいるわけないだろ!〉
〈戦争を経験してそう〉
「何か今日皆んな私に
〈何それ?〉
「説明しよう!」
〈サンが何しても全肯定コメしか打っちゃダメってこと?〉
「先に説明しないで!」
〈草〉
〈リスナーの察知能力が高過ぎたがゆえの悲劇〉
〈これは有能リスナー〉
〈全肯定強要とか何かの宗教かよ〉
「まあでもそういうこと。仮に私が迷惑行為を働いたり人を殺したり国会議事堂を爆破しても全肯定コメントしかダメ」
〈やばw〉
〈お前犯ったのか?〉
〈いつか犯ると思ってました〉
〈自主しよう〉
〈もしもしポリスメン?〉
「『仮に』って言ったでしょうが。ちゃんと私の話聞いて?とにかく今日は否定的なコメント禁止ね」
〈もし否定的なコメントしたら?〉
「即ブロック」
〈ひでえ〉
〈横暴だ!〉
「はいうるさいうるさい。じゃあ今から『リスナー全肯定コメント縛り』開始〜!何やっても全肯定ってなると、悪いことしたくなるな…」
〈何か邪悪なこと言い出したぞ〉
〈邪悪で偉い!〉
〈根性がひん曲がってて凄い!〉
〈生きてるだけで優勝!〉
〈二足歩行できるなんて天才!〉
〈初見です。何だこのコメ欄は…〉
「うむ、皆んなその調子だ!」
〈地獄配信かな?〉
〈初見バイバイ〉
〈地獄が作れて偉い!〉
3層は2層よりも更に森化の進んだフィールドだ。
出てくる魔物も植物系の魔物が増えてくる。
階層主は『トレント』という切り株の化け物だ。
推奨討伐レベルはオークと同じで5レベ。
「初3層なので雑魚魔物狩りからやっていきます」
〈雑魚狩り出来て偉い!〉
〈弱い者いじめの神!〉
〈令和のジャイアン!〉
〈トレントは遅いけど移動型の魔物だから気をつけて〉
「オッケー。クソみたいなコメ欄の中で有能コメが輝いて見えるワンニャンねえ…」
〈お前が作った地獄だろ!〉
〈責任感の無さマジリスペクトっす!〉
〈ナイス無責任!〉
3層に降りてしばらく歩くと最初の魔物に出会った。
「『人面芋』か」
その名の通り、デカい芋に人の顔が付いた魔物である。
転がり攻撃を仕掛けてくるが、まあ雑魚だ。
『3層のスライムポジ』って攻略サイトに書いてあったからな。
「POTEEEEEE!!」
という貧弱な叫び声と共に転がってきた芋をかわし、ゴブリンダガーで斬りつける。
短剣だから大体の敵は一撃では倒せないが、何度も繰り返せばやがて動かなくなる。
「PO…POTE…」
「はい完封!」
〈ナイスゥ!〉
〈うおおおおお最強!最強!最強!〉
〈雑魚相手にイキってて凄い!〉
〈これでイキれるメンタルが鋼!〉
〈メンタルデブ!〉
「褒めてるそれ?」
〈めっちゃ褒めてる〉
「ほなええか…」
次に遭遇したのは『レッドバード』だった。
名前の通りの赤い鳥。
カラスくらいの大きさで、飛んでいるのと動きが速いのが若干面倒だが、攻撃力は大したことない。
「つまり雑魚だな!」
〈素早さ対決うおおおおお!〉
〈頑張れー!〉
〈がんばえー!ぷいきゅあー!〉
〈幼女も見てます〉
〈絶対おっさんだろ〉
「KAAAAAAAAAA!」
叫びながら突っ込んでくるレッドバードをバックステップで回避。
そして無防備な背中にダガーを振り下ろす。
「KAAA!!」
「外した!?」
レッドバードはギリギリで身体を捻ってダガーを回避。
攻撃を外した私は体勢を崩してつんのめった。
「バウンド!」
スキルで身体を跳ね起こして体勢を立て直す。
(私の武器は
レッドバードは大きく旋回して突進のための助走距離を稼いでいる。
「来いよレッドバード、武器なんか捨ててかかって来い!」
〈武器持ってなくね?〉
〈馬鹿、否定コメは消されるぞ!〉
〈挑発できて偉い!〉
「KAAAAAAAAAA!!!」
「ここだ!」
2度目の突進に今度こそカウンターを合わせる。
片翼を根本から斬り落とすと、飛行能力を失ったレッドバードは地面に突っ込んでいった。
「よっし!この私に勝とうなんて1億光年早いぜ!」
〈ナイスゥ!〉
〈雑魚魔物にドヤ顔を決めていくぅ!〉
〈雑魚に無双してる時が1番気持ちいいんだから!〉
〈1億光年は時間じゃなくて距離だけどナイス!〉
「あれ?あいつトレントじゃね?」
次に遭遇したのは3階の主であるトレントだった。
「どうする?せっかくだし倒しちゃう?」
〈大丈夫?危なくない?〉
〈レベル的にはいける〉
〈じゃあいこう!〉
〈サンさんなら行けますよ!〉
〈トレントなんか秒殺やで!〉
「くっ…全肯定縛りのせいで本気で言ってんのかどうか分かんねえ!」
〈余裕余裕〉
〈所詮は植物よ〉
〈ほな余裕かあ〉
〈勝ったな、風呂入ってくる〉
〈じゃあコンビニ行ってくる!〉
コメント欄は役に立たなかったが、結局戦ってみることにした。
レベルが足りてるのは事実だし、トレントはオーク同様に足の遅い魔物だから相性も悪くないはず。
気付かれないよう背後に回り、今回もヒット&アウェイを狙っていく。
〈足元から根っこで攻撃してくるから気をつけて〉
〈なあに何とでもなるはずさ!〉
〈トレントだと!?〉
〈鳴らない言葉をふんふんふんふんふんふふーん!〉
〈やっちゃいなよ、そんなトレントなんか!〉
一応コメント欄を確認したがやはりクソコメしか並んでいなかった。
いや、1個だけまともなコメントもあったか。
(有能コメントが埋もれてしまうのは流石に問題だな…)
今後『リスナー縛り』をやることは二度とないかもしれない…。
「じゃあ行くか…バウンド!」
トレントを倒すとレベルが6に上がった。
「SPは8ポイント!」
リスナーと協議した結果こうなった。
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:サン
レベル:6
体 力:15(+5)
攻撃力:15(+3)
防御力:10
素早さ:20
魔 力:0/0
運 :24
S P :0
スキル:バウンド
ーーーーーーーーーーーーーー
体力・攻撃力15は高校運動部のエース級だ。
防御力は全回避すればいいとして…。
素早さ以外の足りてなかったステータスも随分マシになってきた。
「よーし、この勢いで4層も行っちゃうか!」
〈うおおおお4層だあああ!!〉
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