第5話 オークの肉は高級肉

「はい!みなさまこんばんはー!新人ダンジョン配信者のサンです!よろよろ!」


〈こん!〉

〈こんばんはー〉

〈何か今日テンション高くね?〉


「それがさあ、昨日の配信でチャンネル登録者数200人までいったんだよね。ほぼ2倍増よ」


今朝登録者数を確認してみたら40人以上増えていてビビった。

多分誰かがXwitterとかに拡散してくれたのだろう。

未発見スキル効果抜群である。


〈おー〉

〈おめでとう〜〉

〈まあ未発見スキル引いたしな〉

〈未発見スキル出して登録者200人って逆にしょぼくね〉


「まあ、元が130なんで…」


元の登録者数がもっと多ければもっと拡散されてチャンネル登録者数も激増したかもしれないが、それは言っても仕方のない話。

『バウンド』自体も補助系スキルでそんな派手なスキルではなかったし。


「何にせよ登録者は増え、スキルも覚え、レベルも上がって最高にハッピー!なので、今日はオーク戦にいきます」


〈おお!〉

〈オーク退治だ!〉

〈フロアボス戦きたー!〉

〈オークって浅層の敵の中ではまあまあ強い方だけど大丈夫そ?〉


「多分いけるはず。ちなステータスこれね」


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:サン

レベル:5

体 力:10

攻撃力:12(+2)

防御力:10

素早さ:20(+4)

魔 力:0/0

 運 :24

S P :0

スキル:バウンド

ーーーーーーーーーーーーーー


5レベのスキルポイントは素早さと攻撃力に振った。

素早さ特化にしたのは『バウンド』との相性が良いから。

初手最速ダッシュや急速方向転換が可能になったので、今後は攻撃即離脱ヒット&アウェイ戦法を基本にしていくつもりである。

素早さ20はトップアスリート並みだ。

それ以外は未だ高校生運動部員レベルだが…まあ何とかなるだろう。




前にも言ったがオークを見つけるのは簡単だ。

2層に生えている木の周辺に生息している。

見晴らしの良い草原であるから木の場所も一目瞭然だ。

行ってみれば、オークは大木の横で地面に座り込んで下を向いていた。


〈寝てんのかな?〉

〈これチャンスじゃない?〉


私はコメントにも反応せず、黙って、音を立てないよう気をつけてオークの背後に回り込んだ。


〈当然のように不意打ち狙い〉

〈オークと正面から戦うわけないだろ〉

〈体力も攻撃力も防御力も足りないからな〉

〈足で引っ掻き回すしかない〉

〈事故だけは避けてくれ…グロ配信なんか見たくないぞ〉


(ふぅ…)


オークの背後で一息つく。

オークの推奨討伐レベルは5。

だが私は運に10ポイントも振ってしまったから、ステータスは多分足りていない。

だから、勝負は最初の不意打ちにかかっている。


「ふっ!」


私は思いきり飛び上がった。

ジャリッ!

着地音が鳴る。

オークがこちらを振り向く。


「バウンド!」


1歩目からトップスピード。

時速にして40km超。

秒速11m超。

1秒でオークの眼前に迫った私は、ゴブリンダガーを牛頭うしあたまの真ん中に突き刺した。


「BUMOOOOOO!!?」


ダガーはオークの脳天深く突き刺さった。

だがオークは痛みに呻くばかりで一向に消滅しない。


(倒せてない!刀身が短かったせいか!?)


ならばと、私はオークの顔面を思いきり踏みつけた。


「バウンド!」


オークの顔面を地面に見立ててダガーを引っこ抜きながら後方に跳んで逃げる。

蹴飛ばされたオークは地面に転がった。


(大丈夫、1発では倒せなかったがダメージは相当入った)


私はステップを刻みつつオークの死角側へ移動。

オークの背後に回って小ジャンプを繰り返し、そしてオークが身を起こしたのを見計らって跳んだ。


「バウンド!」


大ジャンプからの高速ダッシュで一気に距離を詰めに行った。


「あっ!」


がしかし、オークの目前で私の足はもつれてしまった。

手に入れたばかりのスキル。

初めてのスキル。

未発見で使い方も分かっていなかったスキル。

言い訳はいくらでもあるが、とにかくスキルの運用をミスった。


(やばっ!!)


とっさに私は武器を前に構えた。

攻撃のためか、防御のためか、自分でもよく分からなかった。

そしてダガーはオークの尻に刺さった。


「BUMOOOOOOO!!???」


頭と尻をやられたオークは悲痛な叫びを上げ、尻を抑えたポーズのまま塵になって消えた。




「肉だー!!!」


爆散したオークはドロップアイテムに変わり、しかも魔石ではなくレアドロップの『オーク肉』になった。


〈またレアドロップ!?〉

〈この前ゴブリンダガーを入手したばかりなのに!?〉

〈これが運24の効果か…〉

〈ちょっと俺も運上げてくる〉

〈やめとけやめとけ!〉


オーク肉はデカかった。

両手にやっと抱えられるほどの大きさでめっちゃ重い。


「赤ん坊でも抱いてる気分」


〈俺の子か…〉

〈お前の子供肉塊なの…?〉

〈オーク肉5キロで30万円です〉

〈30万!〉

〈100gで6000円かよ。超高級牛やん〉

〈よし、焼いて食おう〉


「食うわけないでしょ!普通に売るよ!だって30万だよ!?30万あったら何が買えるか分かるか?私は分からん!」


〈分からんのかい〉

〈興奮して訳分からんこと言ってるぞw〉

〈おおお、おち、落ち着け、一旦、一旦深呼吸だ。ひっひっふー〉

〈まあ2層のオークから30万出てきたらウハウハだよな〉


ウハウハの私はいそいそとオーク肉をしまおうとした。

が、ここで問題が発生。


「バッグに入りきらない!」


赤ん坊大のブロック肉である。

探索者用の大きなリュックなら入ったかもしれないが、私のナップザックは小さかった。


(しばらくは魔石さえ入ればいいと思ってたから…くそ、どうしたらいいんだ!)


結局ナップザックに入れるのは諦め、タオルに包んで抱えて持って帰ることにした。


「えっほ、えっほ、えっほ!」


〈モ●ハンの卵運搬クエストみたい〉

〈タオルから肉はみ出てるけど大丈夫か?〉

〈探索者ならもっと大きいリュック買え〉

〈あ、ゴブリンだ〉


「GOBUUUUUUU!!」

「げえっ!肉の匂いを嗅ぎつけてきやがった!」


しかし、今はゴブリンなんかに構ってる暇はない。


「うおおおおバウンドおおお!!」


私は『バウンド』を駆使して何とか逃げ切った。



【現在のチャンネル登録者数:222人】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る