第3話 縛りプレイ

「こんばんは。今日も『品川ダンジョン』2層やっていきまーす」


〈こんー〉

〈がんばえー〉

〈毎日配信助かる〉

〈今日こそ2層探索や!〉


「でさ、今日も2層の様子見&レベリングなんだけど、毎回同じことしててもアレなんで、今日は縛り付けてやっていこうかと思います」


『縛り』とは自ら特殊な制限を設けて配信を行うことである。

縛りを設けることで緊張感が生まれたり、ダンジョンに詳しくない人でもコメントしやすくなるという配信テクの1つだ。


「で、何か良い感じの縛りない?」


〈俺らに聞くんかーい〉

〈そこは用意してないのかよ〉


「昨日他の人の配信でやってんの見て楽しそうだったから…」


〈あのさぁ…〉

〈見切り発車もいいとこじゃねーか〉

〈計画性×〉

〈ミーハーがよぉ…〉

〈その人は何やってたんや?〉


「その人はマイナー武器縛りだったけど、私は短剣しか武器無いから無理なんだよね」


〈あー〉

〈いつもと違う武器でダンジョン潜るアレか〉


「それそれ。でも武器縛りって舐めプだから危ないよね?炎上的な意味で」


〈そっちかい〉

〈でもまあそう〉

〈Xwitterとかでたまに炎上したりしてるな〉


ダンジョン探索は基本命懸けだから、あんまりふざけていると普通に炎上するのだ。




「というわけで何か他に無い?」


〈他によくある縛りだと『帰れま10』とか?〉

〈魔物10種倒さないと帰れないやつね〉

〈2層にモンスター10種もいなくね?〉

〈じゃあRTAでもやるか?〉

〈2層で…?〉

〈あとはお嬢様言葉縛りとか〉


「あー、全部『ですわ口調』にする奴ですわね?」


〈そうですわ〉

〈飲み込みが早いですわね〉

〈ケツに「ですわ」付けるだけだから楽でいいですわ〜!〉

〈まあ!ケツなんてお下品ですわ!〉

〈おケツと言ってくださいまし!〉

〈こいつはすまねえですわ!〉

〈腹が減りましたわ!爺や!マカロンを持ってきて!〉


「コメントの流れがいつもの1.5倍速ですわ!みなさんお嬢様言葉好き過ぎではありませんこと!?」


とその時、背後から他の探索者の歩いてくる気配を感じた。

私はスッ…と押し黙り、そそくさと脇に避けて道を譲った。

…行ったか。


「『お嬢様言葉縛り』は他の人に見られるとちょっと恥ずかしいですわね…」


〈せやろなあw〉

〈まあ、外でやることではないな〉

〈家でやるゲーム配信とかならともかくな〉

〈ちなみにゲーム配信とかはやらないんですの?〉


「やらんですわ」


〈でもお嬢様言葉を封じられたら他に手がないですわ〉

〈そうですわね…〉

〈てか皆様お嬢様言葉が抜けてないですわ〉

〈感染力が強すぎますわ〉

〈ゾンビゲーのウィルス並みの感染力ですわ〉

〈ほんまですわ〜〉

〈それは関西弁ですわ〉


「でも台詞縛りは良い案だと思いますわ」


楽だし。


「他にバリエーションはなくって?」


〈他なら「罵詈雑言禁止縛り」とか?〉

〈あら、お上品でいいですわね〜〉


「『クソ』とか『死ね』とか言っちゃいけない縛りかな?でも私、普段から言わなくないですか?」


〈ほんまか?〉

〈確かにあんまり聞かないかも?〉

〈逆に「罵詈雑言オンリー縛り」で治安クソ悪配信でも良いですわ〉


「『罵詈雑言オンリー』は初見の人に誤解を与えかねないから却下…あ、じゃあ『カッコイイ台詞縛り』とかどうですわ?」


〈例えばどんなですわ?〉


「今日は風が騒がしいな…みたいな」


〈中二病ですわ〜〜〜〉

〈でもこの風、少し泣いています…〉

〈それお嬢様言葉よりキツくないか…?〉

〈ボキャブラリー持つんですの?〉


「まあとりあえずやってみて、無理そうなら『お嬢様言葉縛り』にシフトする感じで。よし、じゃあ、開始!…今日は風が騒がしいな…」


〈それしかねえのかよですわ!〉




「ダンジョンの2層へ降り立つと、生温い風が頬を撫でた。嫌な風だ…。こういう日は決まって良くないことが起きる」


〈なんか始まったぞ〉

〈まさかの自力ナレーション〉

〈また風じゃねーか〉

〈ハードボイルドっぽいような気がしなくもなくもない〉


その時、前方に巨大キノコが現れた。


「前方に敵影!パターンは…『赤』です!」


〈『パターン赤』…って何?〉

〈知らん〉

〈お化けキノコの頭は確かに赤いけど…?〉

〈考えるな、感じろ〉


「どうやら俺の封印されし右腕の封印を解く時がきたようだな…」


〈おいこれカッコいい台詞縛りじゃなくて中二病台詞縛りじゃねーか?〉

〈封印2回言う必要なくない?〉

〈何か背中が痒くなってきた〉

〈うっ、俺の黒歴史が…!〉


「くらえ!邪王炎殺黒龍波ーーー!!!」


〈普通に斬った!〉

〈普通に走っていって斬っただけじゃねーか〉

〈波ーーー!!!の要素どこ?〉

〈何なら炎の要素から無い〉

〈植物系モンスターの弱点が炎であることはあまりにも有名〉

〈炎出てないんだよなあ…〉


「ふ…またつまらぬモノを斬ってしまった…」


しばし残心し、私は「チン!」と良い音を立てて短剣を納めた。




次に遭遇した魔物は二足歩行する犬『コボルト』であった。


「戦闘力5…ゴミか…」


〈急にスカウター付いたな〉

〈鑑定スキルがあれば実際にスカウターごっこ出来るらしいぞ〉

〈サンさんって鑑定持ちなんですか?〉

〈持ってないぞ〉

〈ええ…〉


「全艦主砲斉射三連!ファイエル!!!」

「KOBOOOOO!?」


〈かっこよ〉

〈いや全艦って何だよ〉

〈急に艦隊戦始まったぞ〉

〈※普通に斬っただけです〉


「…てめーの敗因はたった一つ。たった一つのシンプルな答えだ。てめーは俺を怒らせた」


〈コボルト何もしてない…〉

〈背後から不意打ち1発KOだったんだよなあ…〉

〈コボルト君かわいそう〉

〈お、向こうにホーンディアもいるぞ〉

〈角鹿ちょっと強いけど大丈夫そ?〉


「ホーンディアか…地獄で会おうぜベイビー!」


〈逃げた!〉

〈逃げんのかい!〉

〈逃げるのはかっこよくないのでは?〉

〈かっこいい台詞吐いてったからセーフ!〉

〈言うほどかっこいいか?〉

〈あ、でかい声出したせいで向こうにバレたぞ〉

〈うお、こっち来た!〉


「げえっ!来るな!私のそばに近寄るなああ!!」


〈ダッサwww〉

〈かっこいい台詞どこやった?〉

〈悪役が負ける時の台詞だろそれ〉


私は全力で逃げた。

ホーンディアは足の速い魔物だったが、私も素早さ高めだったので何とか逃げ切ることができた。


「ゼー、ハー…か、紙一重か…」


〈何が?〉

〈全力で逃げておいて紙一重も何も…〉




その後フラフラしていたら階層主のオークを見つけた。

が、やはり戦闘は避けた。


「俺は死ぬ。あんたも死ぬ。みんないつか死ぬ。…だが今日じゃない」


〈ヒュー!〉

〈訳「戦ったら死ぬので逃げます」〉

〈かっこいい感じで言い訳すな〉

〈この企画すでに破綻しているのでは?〉

〈まだギリギリかっこいいからセーフ〉


私はオークに見つからないように足音を殺してその場を離れた。

癖になってんだ…音殺して歩くの。


〈お、ゴブリンじゃん〉

〈どこにでもいるなゴブリン〉

浅層せんそうならマジでどこにでもいるぞ〉


「ゴブリンか…死ぬには良い日だ」


〈さっき死ぬのは今日じゃないって言ってなかったか?〉

〈速攻で矛盾すんのやめろ〉


「行くぞ!ばん!!!かい!!!!!」


〈何も変わってねえ!〉

〈とりあえず始解から始めてもろて〉

〈バンカイって何ですか?〉

〈うわやめろ、そのジェネレーションギャップは俺に効く〉


「うおおおおおお!地獄の底で寝ぼけな!!!」


〈う〜ん、かっこいい!〉



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