第2話 そろそろ2層へ行ってみる
『ダンジョン』。
それは10年前に突如として現れた『巨大な空間』、又は『異世界への入り口』の呼称である。
ダンジョンは世界中に出現したが、その内部には『魔物』と呼ばれる好戦的な生物が無数に生息していた。
魔物は定期的な駆除を行わなければダンジョンから溢れ出し人界に大きな被害を与えると言われている。
そこで、我が国日本を含む多くの国では『ダンジョン基本法』が制定され、魔物狩りのためなら一般人もダンジョンに入場可能となったのである。
※民明書房刊『猿でも分かる近代日本史』より一部抜粋
品川駅から徒歩1分の位置にある『品川ダンジョン管理センター』。
その門を潜るとダンジョン受付があり、受付の奥には地下へと続く階段がある。
それを降りて行くと『品川ダンジョン』地下1層の広大な草原フィールドに出ることができる。
「あー、あー。音声と映像は大丈夫でしょうか?」
草原に降り立ち、持参したドローンを飛ばし、そちらに向かって右手を振る。
すると左手に持ったスマホに一斉にコメントが流れていった。
〈きたー!〉
〈こん!〉
〈はじまた!〉
〈大丈夫です!〉
「えー、新人ダンジョン配信者のサンです。今日も今日とて『品川ダンジョン』から配信中です」
〈見慣れた一層〉
〈毎日配信助かる〉
〈主は学生だよな?学校とかはええんか?〉
〈ヒント、夏休み〉
〈あーそっか〉
〈今日も1層攻略?〉
「実はですねー、今日は2層行っちゃおうかなと思ってて…ステータス!」
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:サン
レベル:4(+1)
体 力:9
攻撃力:8
守備力:8
素早さ:14
魔 力:0/0
運 :24
S P :7(+7)
スキル:なし
ーーーーーーーーーーーーーー
「見てほら、昨日4レベに上がったんだよね!」
〈おお!〉
〈おめでとー〉
〈おめー〉
〈ほんまや、見逃したわ〉
「貴様、さては昨日15分で帰った奴だな?あの後めちゃくちゃ色々あったんだぞ!」
〈すまん〉
〈ごめん〉
〈つい出来心で…〉
〈後でアーカイブ見とくわ〉
「結構いた!まあいいか…。とにかく今日はこのステータスポイントを割り振ってから、まだ5レベじゃないけど、2層に行こうかと思います!」
〈ステ振りだー!〉
〈うおおおおお!〉
〈とりあえず全部二桁乗せとく?〉
〈いっそ素早さに全振り〉
〈幸運値30見たくない?〉
〈ところでステータス窓ってどういう原理で出現してんの?〉
〈知らん〉
「(幸運値30は見たく)ないです。素早さに全振りもなあ…」
基本的には特化させるよりバランス良く伸ばした方が良い、ってネットで見たぞ。
「特に私のようなソロでダンジョンに潜る人間は万能型にした方が良い、らしい」
魔物にも色々な種類がいるため特化型だとどうしても勝てない相手が出てくるから、だそうな。
〈やっぱり万能型が無難か〉
〈浅層なんて割と何でもいいけどな〉
〈そういえば幸運値は良いとして何で速度特化なん?〉
「速度特化の理由は、運に10ポイントも振ったせいでSP足りなくなって火力上げても守備上げても中途半端になりそうだったから素早さ上げてどっちもカバーしようとした、って感じ」
〈なるほどね〉
〈運足引っ張ってんじゃんw〉
〈しゃーない〉
〈何か良いことありましたか?w〉
「昨日ゴブリン倒したらレアドロップあったよ」
〈おー〉
〈それはガチで運良いな!〉
魔物は倒されると消滅し、死体の代わりにアイテムを落としていく。
ドロップアイテムは『魔石』がほとんどだが、稀に他の物を落とすことがある。
ゴブリンの場合は『ゴブリンの
●ゴブリンの短剣:攻撃力+3
〈それ最弱のゴブリン産だから割と出回ってるけどね〉
〈俺も持ってるわ〉
〈レアドロって100分の1くらいの確率だっけ?〉
〈普通にゴブリン100匹倒しただけだったりしてw〉
「流石に100匹は倒してない。多分30匹くらいじゃない?」
〈30匹でレアドロは結構運良いな〉
〈おめでとう!〉
〈一般的な運の2.5倍なら、まあそんなもんか〉
〈なんだ確率通りか…〉
「まあ、私元々短剣使いだし?そんなレアじゃなくても有用武器ゲットできただけラッキーだよね!」
〈せやな〉
〈うむ〉
〈前向きで良し!〉
「よし、じゃあさっさと2層行きますか!」
〈ステ振りは?〉
〈いやステータス〉
〈ステータスふれ〉
〈ステ振り忘れんな〉
「あ、そうだった。どうしようかな?とりあえず全部二桁に乗せて、余りは取っとく感じでいい?」
〈いいとおもう〉
〈良いんじゃね?〉
〈いっそ魔力に全振り〉
「(魔力に振るのは)ないです。初期魔力0の時点で魔法は諦めてるから」
ーーーーーーーーーーーーー
名 前:サン
レベル:4
体 力:10(+1)
攻撃力:10(+2)
守備力:10(+2)
素早さ:14
魔 力:0/0
運 :24
S P :2(-5)
スキル:なし
ーーーーーーーーーーーーーー
〈これ素早さ15、運25にしたら見栄え良くね?〉
「やだ。素早さはともかく、運にはもう絶対振らん」
『品川ダンジョン』の1層は広く、大体ディズ●ーランドくらいあるらしい。
そんな広い『品川ダンジョン』は2層へ降りる階段も結構遠いところにある。
しかし階段の位置は知れ渡っているので、特に苦労することもなく数分歩いたら辿り着けた。
「2層からは大きめの魔物も出るらしいですね」
1層はゴブリンとスライムしかいなかったが、2層では魔物の種類が増えて、『オーク』なども出るようになるという。
〈今のステータスだとオークには負ける可能性あるから逃げた方がいいかも〉
〈オークの討伐推奨レベルは5です〉
〈オークに負けるとグヘヘされるからな…〉
〈実際は普通に殴り殺されてお終いらしいぞ〉
〈ぐへへ…〉
〈オークも見てます〉
「とりあえず今日は様子見なんで、オーク戦は避けるようにします」
長めの階段を降りると、また草原に出た。
ほぼ1層と変わらないが、何本か木が生えているので別の階層だと分かる。
そしてあれらの木の周辺がオークの生息地だ。
つまり、木に近付かなければOK。
〈何か来てね?〉
「ん?」
2層へ降り立ち、さてどこへ行こうかとキョロキョロしていたら、遠くから走ってくる2つの人影があった。
〈追われてる?〉
〈あれオークじゃね?〉
「うわああああ!!」
「ひぃぃっ!」
追われているのは2人とも男性だ。
まだ学生と思しき2人で、それを追うのは二足歩行の牛の化け物。
2層のボスモンスター、オークだ。
〈あれヤバくね?〉
〈もう追いつかれそう〉
〈助けた方がよくないか?〉
「え、私が助けんの?無理無理!」
さっきステータス的に厳しいって話したばっかじゃん。
〈でも助けないと死ぬぞ〉
〈足おっそいなアイツら〉
〈長剣に盾と鎧の鈍足欲張りセットや〉
〈そら遅いわ〉
〈助けないと炎上するぞ〉
「マジで!?」
見ず知らずの他人を見殺しにしたらダンジョン配信者は炎上するのか?
…まあ、するか…。
現代社会には火のないところにも煙を立てる暇な奴らが無数にいるからな…。
『見殺しにした』というでっけえ火種あったらワンチャンどころかスリーチャンスくらいで燃えるわ。
「じゃあ行くか…?」
〈え、行くの!?〉
〈やめとけやめとけ!〉
〈お前も死ぬぞ〉
〈やめといた方が…〉
〈行くならステータス振っとけ〉
「ステータス!」
私は一瞬考えて、余りの2ポイントを素早さに振った。
これで素早さ16。
速さだけなら陸上部のエース級になった。
オークは牛の魔物。
つまりデブだ。
素早さは私の方が上のはず。
素早さで勝っていれば、倒せなくてもあの2人が逃げ切るまでの時間稼ぎくらいならできる。
…はずだ。
「よし、行くぞ!」
彼らとの距離は100メートルくらい。
走り出してから、一応声をかけておいた。
「おぉい!助けは必要か!?」
「「た、助けて!」」
「分かった!」
答えを聞いてから10秒ほどで2人の横を通り過ぎる。
右手には抜剣済みのゴブリンダガー。
「BUMOO!!」
私に気付いたオークは拳を振り上げた。
だが、遅い。
こっちは既にトップスピードだ。
オークの拳が降りてくる前にオークの脇を走り抜け、更に通り過ぎざまオークの脇をダガーで斬り付けた。
「BUMO!?」
鮮血が吹き出す。
しかし短剣故、大した傷ではない。
それでもダメージは入ったし、オークの動きも止まった。
オークの後方へ走り抜けて、十分距離を取ったところで私も足を止めた。
(よし、これで時間稼ぎは十分のはず)
あとは追われていた2人が1層への階段を登ればいいだけ…。
「んんっ!?」
しかし、男子2人は足を止めて膝に手をつき、ゼーハーと息を整えていた。
「おい止まるな!走れ!」
オークは前後を確認し、目に見えて消耗している男子2人を再びターゲットに定めて動き出した。
〈なーにやってだ〉
〈魔物は階層移動できないから階段まで行けば安全なのに〉
〈流石に無能過ぎんか?〉
〈ダンジョン初心者キッズかよ〉
〈夏休みだからなあ…〉
迫り来るオークに気付いて、男子2人が慌てて逃げ出す。
しかし、階段までまだ約50メートルはある。
(おいおい…これ、もう一回私が注意引きに行かなきゃいけない感じか?)
オークは速くないが、腕力はある。
防御力10の私では一撃食らったら大ダメージだ。
そんな相手に近付いて注意を引くなんて危険なこと、そんな何度もやりたくないんだが…。
(待て、注意を引くだけなら別に近付かずとも、何か物を投げて当てればいいんじゃないか?)
辺りを見回し手頃な石でもないかと探したが、草と土と砂しか無い。
仕方がないので予備の短剣を投げることにした。
ゴブリンダガーを入手したことでナップザックの肥やしになった短剣だ。
「刺され!」
助走がてら近付きつつ、短剣を
短剣は真っ直ぐに飛んで、オークの尻に突き刺さった。
「BUHIIII!??」
〈ナイスゥ!〉
〈痛そう…〉
〈痔不可避〉
〈お尻が真っ二つや!〉
〈ケ ツ 穴 確 定〉
オークの足が再び止まった。
オークは尻に刺さった短剣を引っこ抜くと、地面に叩きつけ、憤怒の
「BUMOOOOOO!!!」
「こっわ…短剣の回収は…無理か」
どうにか短剣を回収出来ないかと思ったが、怒れるオークに不用意に近付いて怪我したら元も子もない。
男子2人はようやく階段に辿り着き、1層へと登って行った。
「よし、あとは適当に撒いて逃げるだけだな」
怒りのオークが向かってくるが、尻を負傷しているせいか動きは鈍い。
私は十分な距離を維持したまま大きく迂回し、隙を見て1層階段へと走り込んだ。
「はい安地!」
〈セーフ!〉
〈ナイス!〉
〈人命救助お疲れ!〉
「ふー、流石に疲れた。ナイフ一本無くしたけど、まあ上出来じゃないですか?」
階段の半ばまで行って座り込む。
オークは階段手前までやってきたが、それ以上は入って来れないようだった。
〈本当に入れないんだな〉
〈やーいやーい!〉
〈でも出待ちされてるから2層いけねえな〉
「せやなあ。今日は2層探索は諦めようか」
少し休んでから1層に上がった。
助けた男子2人は既にいなくなっていた。
〈礼も無しかよ〉
〈夏休みキッズさぁ…〉
〈せめて短剣代くらい置いていけや〉
「まあまあ、誰も死ななかったし炎上も回避できたんだから良しってことで。てか、疲れたから今日はもう配信終わってええか?」
〈えー〉
〈流石に早くね?〉
〈ちょっと休んでからゴブリン倒しに行くとかしようぜ〉
〈これで帰ったら昨日から2日連続で戦闘無しやん〉
〈2日連続…?〉
「貴様、昨日15分で帰った奴だな?…えー、本日はご視聴いただきありがとうございました」
〈うわ、本当に締めようとしてる!?〉
〈まだ15分やぞ!〉
〈昨日の意趣返しか!?〉
〈意外と根に持ってて草〉
〈ごめんって!〉
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