教わって

「それに、魂を美味しくいただくんだ。そいつの事をよく知ってなきゃ失礼だろ?」


「死神さんって、主食は魂なんですか?」


「いんや、米」


「米……」


「でも、大好物が魂なわけ。だからさー、美味しくいただかせてくれよー?」


「……自殺関連の魂は、どんな味がするんですか?」


「死神によって違うが、俺はゴム」


「ゴム……。天寿を全うした魂は?」


「こってり豚骨ラーメン」


「ラーメン……」


「っていうのは冗談でー」


「冗談なんですか」


「味というよりは、幸せな気持ちになれんだよ。それに、味を感じる前に溶けちまうの。だから頼むよー、とろけさせておくれよー」


「……死神事情なんて知りません。大人しくご飯でも食べていてください。私なんか、死んだ方が、母は楽なんですから」


「……」


 死神さんはまた、革が剥げている古そうな手帳を取り出した。


「……みや流日るび、ピー歳。根暗を極めた女。「私なんか」「どうせ」が口癖」


「……いいんですよ、私なんか、あっ」


「ほらな」


 死神さんはくくっと笑った。


「……」


「それに、自殺もそうだが、この世に未練がある魂も美味くない」


「未練なんて別に……」


「ヲタデートは?」


「…………」


「推し活に付き合ってもらいたいんじゃねぇの?」


「…………」


 私は恥ずかしいような泣きたいような、複雑な気持ちになった。


「そこで、俺の出番よ」


「はい?」


「死ぬ前に、俺とデート、してみねぇ?」


「え……」


 ようやくちゃんと、顔を見れた。


「したい事、全部してやるぜ? 例えば、腕を組んで歩くとか、一度でいいから恋人繋ぎで町を歩くとか」


「……どこまで知っているんですか」


「全部よ全部。全部知らずに喰らうとな、お互い損をするんだ。こんな味のする魂じゃなかったー! こっちだってお前に喰われたくなんかなかったー! ってな」


「…………」


「だから、未練を残さないように、協力してやるぜって話。俺とデートしようぜって話なわけ」

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