深夜0時の事件簿~あいつと私の間の悲劇~

青猫

本編

「もういやっ!嫌い!」


そう言って家を飛び出して行った。

時計は0時。もう深夜だ。


きっかけはどうでもいい事だった。

どんどんどんどんヒートアップして、私が家を飛び出したのだ。


あぁ、もう。

小さい頃からいっつもこうだ。


あいつの言う事にムキになって、それで突っかかって大喧嘩になる。

トボトボと暗い夜道を歩き続ける。

行く当てはない。

だってあいつと同棲を始めたのは、一週間前。

大学だって始まるのはもう少し先で、ここら辺に頼れる人なんていない。


私はため息をつきながら、歩みを進めていく。


辺りには暗闇が広がり、電灯の位置によっては足元も見えなくなる。


電灯の届かない脇道は、まさに異世界と言っても過言ではない。

何かが飛び出してくるんじゃないか、そう思うと震えが走る。


「……やっぱり、帰ろうかな……」


そう思った考えを振り払う。


「いや、あいつが謝ってくるまで絶対に帰らない!」


私は気を取り直してずんずんと進んでいく。

でも行く当てがないのも確かで、さてどうしようかと歩きながら考える。


「……とりあえず、何か食べ物を買おう……」


ふと、小腹がすいていると感じた私は、近くのコンビニに入る。


「いらっしゃいませー」


コンビニの店員の眠たそうな声が、店内に響く。

私は適当に商品を物色しながら、財布の中身を確認する。


……158円。

お菓子が一つぐらいしか買えない。


「はぁ……」


しょうがないので、適当にお菓子を取ってレジに持っていく。


会計。

夜も遅いが、店員さんはすぐに商品を手に取り、スキャンする。


「158円になりまーす」


なんという偶然。

私は財布からぴったり158円を取り出して、店員に渡そうとする。


「お客さん、こっちじゃないですよ」


そう言って指さした先には、お金の投入口が。

これにはいまだ慣れない。

お金を投入して、支払いを済ませ、商品を持ってコンビニを出る。


コンビニを出た私は、お菓子の袋を開けて、お菓子を一口頬張る。


甘い。

あいつ好みの甘さ。


「あいつ、今頃どうしてるかな……?」


私はほぉっとため息をついた。

その時。


「おい!」


聞きなじみのある声が後ろから聞こえる。

私は、誰?と言った感じで振り返る。


そこには、息を切らしたあいつがいた。


「……何?」


あいつはじっと私の目を見た後、手を伸ばしてきた。


「……帰るぞ」

「……まだ謝ってもらってない」


私はそっぽを向く。

そんな私を無視してあいつは無理やり手を掴む。


「冷た……。謝らないぞ。俺は正しいからな。……まぁ、ちょっとぐらいなら譲歩するが」

「……わかった」


私は渋々折れた。

そう、渋々折れたのだ。

決してもう耐えられなかったというわけじゃない。

私はお菓子を差し出して言う。


「……食べる?」

「いただこう」


あいつはお菓子の袋の中に手を突っ込んで一番大きいのを取った。

それを一口で頬張って一言。


「……甘いな」

「嫌いじゃないでしょ?」

「……あぁ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ちなみに喧嘩の原因はみそ汁にご飯を入れるかご飯にみそ汁を入れるかについて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深夜0時の事件簿~あいつと私の間の悲劇~ 青猫 @aoneko903

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ