48.VS湯水(part8)
……目的地のディステニーランドへついた私たちは、受付の女にチケットを手渡した。
「二名様ですねー、どうぞご入場くださーい」
「どうも、ありがとうございます」
渡辺は受付の人に……私には絶対向けてくれないであろう笑顔を向けて、ぺこりと頭まで下げていた。
「……………………」
渡辺は入り口のすぐそばにある看板へと歩いていく。そこには、この遊園地内にあるアトラクションの紹介が掲載されている。
「いいか湯水、俺はお前のことが嫌いだが……かと言って、せっかく来た遊園地をギスギスしたまま終わるのも味気ない。とりあえずは、それなりに遊んでみるとしよう」
「……ふーん。あなた結構、割り切るタイプなのね」
「割り切るというか、単純に嫌だろ?遊園地でギスギスした客なんて、従業員さんたちにいらない気を使わせちまう」
「……………………」
「ほら、なにボサッとしてんだよ湯水。『私から眼を離せなくする』って豪語したんだ、それなりのデートをさせてもらえなきゃつまらねえぜ?」
「うるさいわね……言われなくても、私に釘付けにしてやるわよ」
そうして……私と渡辺の勝負……その一回目のデートが始まった。
「だぁーかぁーらぁー!!それは絶対ちげえって!ここはAが正解だっつーの!」
「あなたねー!いい加減折れなさいよ!どう見てもBしかあり得ないじゃない!」
私たちは、互いに鼻先が触れあうんじゃないかというほどに顔を近づけて、睨みあっていた。
ジェットコースターやアスレチックなど、あらゆるアトラクションを巡り巡って、今私たちは『謎解き迷路』に入っている。
四方を壁で仕切られ、正面には閉ざされた扉がある。その扉には、小さな液晶が設置されており、その液晶の下に『A』『B』『C』のボタンがつけてある。液晶に映された三択の問題を、そのボタンを押して解答し、正解すれば閉ざされた扉が開くという仕組みだ。
現在、7問目の問題。液晶に出されている文言は、これだ。
『この中で一番綺麗なものはなに?』
『A.湖の水 B.水道の水 C.沼の水』
渡辺はAの湖だと言って聞かないが、そんなの見当違いも良いとこだ、Bの水道しかありえない。
「湯水!湖は自然が作るありのままの美だぞ!その美しさには何者も敵わないだろ!?」
「分かってないわねー!水道水の人工的な手が加わった水が一番衛生的で安全じゃない!それが最も『綺麗』と定義するべきでしょ!」
「この野郎ー!わからず屋め!」
「そっちこそ!」
「ならここはジャンケンだ!勝った方の正解を押すぞ!」
「上等ね!なら、行くわよ!」
「「最初はグー!ジャンケンぽん!」」
渡辺はグーを出し、私はパーを出した。
「はっはー!私の勝ちね!」
「ちくしょー!俺の負けか!」
悔しがる渡辺を横目に、私は意気揚々にBのボタンを押した。
しかし……液晶に映されたのは、『不正解』の文字だった。
「は?なに?違うの?」
困惑する私の隣に、渡辺が来ていた。「ほら見ろ湯水!」と、得意気に話す彼が、Aのボタンを押した。
「やっぱり湖が綺麗ってこった!」
「ふん!誰よこの問題作ったやつ!センスを疑うわ!」
「まあそう言うな。さ、扉が開……あれ?開いてない?」
そう、結局液晶に映っているのは、またもや『不正解』の文字だった。
「……………………」
私と渡辺は顔を見合わせて、残った最後の選択肢……Cの沼の水を選んだ。
すると、ピンポーンという音と共に、液晶へ『正解』の文字と、なぜ正解なのかの解説が映された。
『湖(みずうみ)も水道(すいどう)も、(ず)や(ど)など言葉に濁点があって濁っているが、沼(ぬま)のみ濁点がないため、綺麗だから』
「「……………………」」
まさかの私も渡辺も不正解という結果を残して、私たちはちょっと気まずくなった。
「……なんなのよ、あれ」
「なーんか釈然としないな、あれ」
「必死こいて討論したのがバカみたいじゃない」
「そうだな……なんか、無駄に恥ずかしいな」
「全部渡辺のせいだからね!私、もっとゆっくり時間をかければ、絶対解けたもの!」
「はあ!?俺のせいかよ!?」
「あなたが『湖』だなんて見当違いなことを言い出すから、私も思考停止しちゃったのよ!」
「いやいやいや!見当違いはお前もだろ!?人のせいにするなよ!」
私も渡辺も、こんな感じでやいのやいの言い合うことが多かった。お互いに性格が真反対というか……根本から考え方が違いすぎるのがよく分かる。
でも、私は……それが実は、嫌ではなかった。
今までの男には、そんな面倒くさいことしなかった。私が黙ってても、他の男たちは勝手にエスコートしてくれて、勝手にいろいろおだててくれたり、お膳立てしてくれるからだ。だから私のすることと言えば、作り笑いを浮かべて「ありがとう~」とハリボテの言葉を述べ、心の中で『70点ね』と点数をつけていくことだけ。
でも、渡辺は違う。渡辺といると、私も本音を話したくなる。自分の気持ちを出したくなる。
だから、この喧嘩も……私には、そこまで……嫌じゃ……
(はっ!?わ、私……何考えてるのよ!)
自分の中に生まれた気持ちを振り払うように、頭を横に振った。
(しっかりしなさい湯水 舞!こいつを惚れさせるんでしょ!?私がぼーっとしてちゃダメじゃない!)
そう、私はこの……渡辺 明を惚れさせるんだ!惚れさせて……この生意気な態度を改めさせる!
(……そうだ、生意気と言えば……昔、『渡辺 美結』とか言う女がいたっけな)
私たちのいじめに唯一抵抗してきた、気の強い女。坊主頭にして学校に来れなくなった時までは、私たちにいじめ返してくるレベルで生意気だった。
どうやら私は、渡辺という名字で生意気な人間に縁があるらしい。
(この今の渡辺にも、必ず勝ってみせる!分からせてやるんだから!)
そう胸の中で意気込みながら、私と渡辺はまた新しいアトラクションを巡った。
……そうしてふと気がついた時には、夕方の17時半だった。そろそろ、お開きの時間が迫っていた。
「あら……もうこんな時間なのね」
スマホで時刻を確認しながら、私はそう呟いた。空の色が、だんだんと夕暮れの赤を帯びていく。
遊園地内は、どんどんと人が減っていった。子連れもカップルも、みんな出口の門を潜っていく。付近に見える客は、記念に写真を取っているJK二人組や、ベンチに座ってイヤホンをし、音楽を聴きながら本を読む……異様に長いボサボサの髪をした女がいるだけだった。
「さて、湯水。俺たちもそろそろ帰るか」
渡辺の素っ気ない言葉が少しだけ嫌だった私は……渡辺の袖を引き、「最後にあれ、行きましょうよ」と言って、観覧車を指差した。
「観覧車か……まあ、あれくらいなら良いか。でも、さすがに時間も時間だし、一周分だけだぞ?」
「ええ、いいわよ」
「よし、それなら行こう」
そうして私たちは、観覧車へと向かった。
「はい、二名様ご搭乗~」
係員に案内され、ゆっくりと回っている観覧車の……一部屋の中へと乗り込み、対面している椅子にそれぞれ腰かけた。
「……結構、あっという間の1日だったわね」
渡辺に向かって私がそう言うと、彼は窓の外を見ながら「そうだな」と答えた。
「……………………」
「……おー、夕焼け、綺麗だな~」
「……ねぇ渡辺」
「なんだ?」
私が新しい問いかけをしても、渡辺はこちらへ顔を向けてくれない。彼の膝をぽんぽんと叩いてさらにアピールをすると、ようやく彼は私の方へ視線を向けた。
「渡辺、あなた平田 恵実のこと……どれくらい好きなの?」
「どれくらいって?」
「セックスはしたの?」
「……止めてくれよ、そういう質問」
「……そうね、じゃあ聞き方を変えましょうか」
私は自分の聞きたいことを頭で整理し終えた辺りで、もう一度彼に尋ねた。
「平田 恵実となら、結婚したいと思える?」
「……………………」
渡辺は目を伏せて、手を顎に置いた。
「そうだなあ……まあ、メグちゃんが奥さんになってくれたら、きっと楽しいだろうな」
「……………………」
「いきなりどうした湯水?唐突に重たい話をしてくるじゃないか」
「……朝方のお返しよ。電車の中で、愛がどうのって訊いてきたお返し」
「あー、そう言えばそんな話もしたっけか」
「……ねえ渡辺、本当に寂しくないの?」
「え?」
「その……愛がどうのって話してる時に言ってたじゃない。『たとえ何もかもなくなっても、何かを愛した記憶さえあれば寂しくない』って」
「そうだな、確かにそう言った」
「本当にそうなの?本当に寂しくないの?」
……私は無意識の内に、そんな問いかけを口走っていた。考えるより先に、言葉がもう口から出ていた。そんな気持ちになったのは……小さな子どもの頃以来かもしれない。
「……なぜ愛すると、寂しくないの?なんでなの?愛されるから寂しくない、ということなら納得できるけど、なんで愛すると寂しくないの?渡辺、教えてよ」
「……お前は、今までに一度だけでも、何かを愛したことがあるか?」
「……………………」
「一度でもあるなら、理解しやすいかもしれない。一度もないなら、今ここで……口頭で言っても分からないかもな」
「……そう、ね。そうだと思う」
「……………………」
「私は、今まで一度も、何かを愛したことはない。愛することは負けだと思ってたから。愛されて称賛されることが勝利だから……愛する側は負け組だと思っている」
「……なるほどな。ま、愛をトロフィーと例えたお前だ。そういう考えであることはなんとなく察してはいたけどな」
「でも、事実そうでしょ?あなただって、愛されたいと思ってるはずよ?愛されたいと思うからこそ、社会に準じて生きようとするわけじゃない」
「多くの人は、そうかもな。俺も少なからずそうだけどさ」
「だから私には、まるで理解できない。愛することで寂しくなくなるってことが」
「……………………」
「……私、あなたのことが分からない。何を言っているのか、理解できない。こんなこと、初めてなの」
「……初めて、か」
「あなたに朝……『愛することは、自分らしく生きられることに繋がる』って聞いた時から、ずっと考えてた。私はもともと、『自分らしく生きる』って言葉が嫌いだった。あんなもの、学校の教師が使う三流ドラマの台詞みたいなものでしかないって」
「……………………」
「だいたいのバカたちは、『自分らしく生きようぜ!』って言って、自分がカッコよくなったような気になってるだけ。ロックバンドに憧れて、見かけだけのロックをやっているのと根本的に一緒。自分の持つ自分らしさを、本当に理解しているヤツなんて、全然いない。『自分らしく生きよう』って台詞に酔ってるだけ」
「……………………」
「でも、あなたの言う『自分らしさ』についての話は……もっと、よく分からなかった。でも、分からなかったけど、なぜか……カッコつけてる気がしなかった。あなたの口から出た、本当の本音のような気がした」
……私は、自分で自分が理解できなかった。何をこんな……くだらないことを、渡辺に喋っているのだろう?
意味不明なぐちゃぐちゃした気持ちなんて、別に渡辺に明かさなくったって良いじゃない。だって、こんなワケわからない質問をしている姿なんか、男からしたら『重たい女』って一蹴される状況じゃない。そんな無様な姿を、惚れさせるべき相手に見せるのは得策じゃない。
……でも、私の口は止まらない。意味が分からない。なんで私は、渡辺に話しているのだろう?
「渡辺、ひとつ教え……」
「はい、お疲れ様でした~。お降りの際は足元にお気をつけください~」
気がつくと、もう観覧車は一周していた。係員に扉を開けられて、降りるよう言い渡される。私も渡辺もそれに従って、観覧車から降りた。
「……………………」
話がブツ切りになってしまった私は、少しモヤモヤとした気持ちを抱えていた。できることなら話の続きをしたいけれど……周りに人がいるのが気になる。話している内容を、あまり他人に聞かれたくない。
「……さ、渡辺。もう帰りましょうか」
私は結局、話の続きを諦めた。彼にそう告げて、出口へと向かおうとしたその時……渡辺が係員に言った。
「すみません、もう一周……してもいいですか?」
「ええ、どうぞ~。今は他にお待ちのお客様もいらっしゃいませんし、大丈夫ですよ~」
「……!」
「湯水、二週目いいってさ。行こうぜ」
渡辺に手招きされた私は、それにつられるようにして……もう一度、観覧車に乗り込んだ。
「……良かったの?渡辺。あなたが一周だけしかしないって言ってたのに」
「まあな。でも、何かまだ話したそうだったし、仕方ないだろ」
「……あなた、私のこと嫌いなくせに、なんでそこまで気を遣うのよ」
「別に……ただ、大事な話っぽいから、腰を折るのも気が引けただけだ」
「……………………」
なんなのよ……こいつ。生意気に……ちょっと……。
「……………………」
「ほら、湯水。さっき何を訊こうとしてたんだよ?言ってみろよ」
「……渡辺、もし、もしよ?平田の安全と自分らしさを天秤にかけないといけない時があったら……どっちを取る?」
「なんだそれ?そりゃお前、メグちゃんの安全に決まってるだろ」
「……………………」
「さっきも言ったようにな、愛することは自分らしさに繋がる。メグちゃんの安全を守ること自体が、俺らしさの一部。だからどっちを選択しようが、俺は俺なんだ」
「…………そうね、質問が悪かったみたい」
「やけに考えこんでいるみたいだが……何か思うところでもあるのか?」
「…………ある。けど、今は上手く言葉にできない。ごめんなさい」
「……………………」
その時……渡辺は大きく息を吐いた。そして……ほんの少し、ほんの少しだけ……私に向かって、微笑んでくれた。
「まあ、いいさ。上手く言葉にできるようになったら、その時言えよ」
「……………………」
……その微笑みを見た時、私の何かが弾けた気がした。それは、自分の胸の中に宿っていた花の蕾が……徐々に開こうとしているのを自覚したような、そんな感覚に近かった。
「ねえ、渡辺」
「なんだ?」
「あなた、女の子の髪型で……何が一番好き?」
「え?なんだ突然に」
「いいから、答えてよ」
「えー?一番は……ボブヘアかな?み……じゃなくて、メグちゃんが結構似合うんだよな、ボブ」
「……ふーん、そうなの。じゃあ、あなたの一番好きな色は?」
「色?えーと……まあ、フツーに水色とか?爽やかな色が俺は好きだな」
「ふーん」
「なんだよ湯水、いきなりこんな質問」
「別に、あんたも普通の人間なのねって理解するために訊いただけよ。ボブヘアなんて……量産型女子の典型的な髪型じゃない」
「なんだとこのやろー!」
……それからしばらく、私と渡辺は他愛もない話をして終わった。その時間が……決して嫌いじゃなかった。
……湯水と別れたのは、夜の七時を超えた頃だった。辺りはぼんやりと暗くなり、夜の気配を感じさせる時間帯。待ち合わせた駅の広場で、湯水と別れることになった。
「それじゃあ、あと三回のデート、せいぜい楽しみにしておくことね。平田よりも私がいいって、必ず言わせてみせるから」
「けっ、言ってろ女狐め」
湯水はいつものように、ニッと口角を上げて笑うと、その場から去っていった。
「……………………」
湯水の背中が人混みで見えなくなったところで、俺はポケットから盗聴機を取り出した。
「湯水はいなくなりました。もう大丈夫ですよ、柊さん」
「ありがとうございます、明氏」
俺のすぐ後ろから、声をかけられた。振り返るとそこには、柊さんが立っていた。イヤホンを取り、それをスーツの胸ポケットに仕舞うと、「間違いありませんね」と彼女は言った。
「湯水は、明氏に惚れます。絶対に」
「……あの湯水が、本当に俺を……?」
「今日のデートで確信しました。この作戦は、絶対に成功します」
「……俺が湯水を惚れさせて、彼女と接近し、情報を聞き出す……。本当に上手くいくんでしょうか?」
「ええ、私も湯水の反応を観てから判断しようと思って、今回二人のデートを監視してましたが……湯水は、かなり明氏が気になってます。この感じだと、“明日にでも”面白いことが起きるかもしれません」
「明日にでも?それは一体……」
柊さんは含みを持った笑みを見せると、俺の隣へと歩いてきた。
「それはそうと明氏、なぜ湯水は明氏を好きになると思いますか?」
「え……?いや、分かりません。なんなのでしょう?顔は間違いなく好みではなさそうですが……」
「湯水にはですね、“兄”が必要なのです」
「兄?」
「明氏を好いている子たちの共通点……美結氏、メグ氏、そして湯水。三人はみな、兄が欲しいのです」
「その兄というのは、一体どういう意味なんですか?」
「それぞれ微妙に求める像が違いますが……強引にまとめるとするならば、導いてくれる人です」
「それが……俺だと?」
「ええ、三人とも、誰かに導いてほしかった。自分の幼さや弱さを、叱ってくれたり受け入れてくれたりする人がほしかった。それを、明氏がやってくれた。だから三人は明氏が好きなのです」
「……俺は、そんな大層な人間じゃありませんよ。俺だってまだまだ、幼さや弱さを抱えている子どもですから……」
「それでいいんです。いや、むしろそれがいいんです。それはつまり、共に成長する喜びも共有できるということですから。だから“父”ではなく“兄”なのです」
「……………………」
俺は……湯水の去っていった先を見つめた。もうそこに彼女はいない。
「俺は……少しだけ罪悪感があるんです。たとえ湯水であろうとも、恋心を利用して……いいんだろうか?って。弄ぶことにならないだろうか?って」
「湯水はもともと、悪意を持って人の心を弄んできた。その報いを受けるだけです。それに明氏、あなたはあなたのままでいればいいんです。そうすれば、彼女は勝手にあなたに惚れていきます。ハニートラップならぬブラザートラップ、なんてところですね」
なんだか照れ臭かった。本当にそんなことあるんだろうか?確かに今日の湯水は、少し素直なところも見えていた。しかし、だからってあの湯水が俺を……?
「なに、明氏。心配しなくていいです。この作戦を立てたのは私です。責任は私が持ちます。明氏が罪悪感を覚える必要はありません」
「そうもいきませんよ。その作戦を了承した自分にも責任がある。だいたい、湯水が好きになるのは俺です……。俺に責任はない、なんてことをしたら……それこそ“俺らしく”なくなる」
「……ふふふ、そうですか」
柊さんが隣で……実に嬉しそうに、くすくすと笑っていた。
……翌日の月曜日。俺はいつものようにメグちゃんと登校した。その登校の道すがら、メグちゃんに昨日のことを話した。
「湯水が……明さんを本気で好きに?」
「柊さんはそうなるだろうって。だからそれを利用して、湯水により近づこうって」
「危なくないですか……?あの湯水が誰かに本気になるなんて、一体どうなるか……」
「そう、だから細心の注意が必要だと思う。メグちゃんも、何か異変があったらすぐに知らせてくれ。俺や美結、あるいは柊さん……本当に誰でもいいから」
「ええ、分かりました」
「柊さんは、今日あたり面白いことが起きそうだなんて言っていたけど、怖いなあ……平穏でいてくれたらいいけ……」
……と、そこまで話していた時、俺はふと前を見た。
学校の正門前……そこには腕を組んで仁王立ちをし、不適に笑う一人の少女がいた。ボブヘアで水色の髪をした……びっくりするほどの美少女だ。
横を通り過ぎていく者たちが、みな振り返る。「誰だ誰だ?あんな可愛い子いたか?」「でも誰かに似てない?」と、口々にそう騒いでいる。
「おはようお二人さん、仲がよろしいことで」
彼女が俺たちに向かってそう告げる。俺とメグちゃんはそれが誰か分からず、お互いに困惑しながら顔を見合わせた。
「何よアキラ、私が誰か分からないの?“昨日”……1日一緒にいたというのに?」
「昨日……?え?は?ま、まさかお前……」
「ええ、湯水 舞よ」
「そ、その髪……一体」
「なによ、昨日あなたが言ったんじゃない。ボブヘアと水色が好きって」
ほら、可愛いでしょう?と言って、彼女は髪を耳にかきあげた。
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