満月の夜中に
信仙夜祭
満月の夜に
眠れなかったので、夜中に散歩に出かけた。
「仕事、失敗しちまったな……。何処に飛ばされるやら」
今日は、社長に怒鳴られた。昨日は、部課長だったな。
明日からが、つらい。
「……辞めるか」
もう、未練もない。
疲れ過ぎている。
そんな時だった。
――ワォ~ン
「犬かな?」
何か遠吠えが聞こえた。
意味もなく、その方向に足を向ける。
だけど……、その先は山林だった。
「野犬か? いくら田舎と言っても、保健所が動いていそうだけど……」
後で通報するのもいいだろう。
俺は、姿形もしくは、毛色を確認するために獣道を進んだ。
懐中電灯を照らして……。
そこには、想像すらしていなかった光景が広がっていた。
狼男が、熊を狩っているんだけど? 狼人間?
血の匂いが、充満している。
紛れもない、現実を俺に突きつけて来る。
ここで、狼人間と目が合った。
熊の肉を噛みちぎって、一飲みすると、狼人間が立ち上がった。
『おい! 懐中電灯の光を当て続けるなよ!』
自分で自分に突っ込む。
だけど怖いモノ見たさが、俺の恐怖心を上回った。
いや、人生に疲れてしまって、あの牙で楽にして欲しいと、無意識に思ってしまったのかもしれない。
だけど、次の瞬間……。狼人間が消えた。
「……物証の熊は、残したままなんだな」
◇
次の日に、会社の倒産が報告された。
従業員の出入り口に紙一枚って……。
社長は、逃げたらしい。従業員は、部課長の家に押しかけて、暴言を吐いていた。
警察まで呼ばれる始末だ。
「責任者なんだから、責任取れよと言いたい」
俺は、それよりも昨日の山林に向かった。
獣道を進むけど……、どんなに探しても熊の死骸は見つからなかった。血痕を全て消すこともできないと思うので、俺の夢だったのかな?
「誰にも相談しなくて良かったな。ストレスが、爆発して幻覚でも見たんだろう。つうか、昨日の夜に散歩したのかも怪しいな」
会社もなくなって、気も楽になった。
本当は、ここからつらい生活が待っているんだろうけど……、まあ何とかなるだろう。
少し休憩して、次を探そう。
そう思って、獣道を降りた。
「ここは、何処ですか?」
目の前には、一面の平野が広がっていた。
知らない場所なんだけど?
「良く来てくれました。異界の勇者さん」
背後より、声をかけられる。
20歳前後の綺麗な女性が、そこにいた。
そして……、気が付いてしまった。
「昨日の、狼人間……」
「うふふ。鋭いですね~」
その後、連行される。
「何処に行くんですか?」
「異世界に来たのに、冷静なんですね?」
移動が馬車なんだし、素直に受け入れますよ。
空を見ると、ドラゴンが飛んでんだし。
俺の新生活……。どうなることやら。
少し時間がかかったけど、村に着いた。建物は、粗末としか言いようがない。せめて、石作りの建物くらいの文明が欲しかった。
ナーロッパじゃないなこれ。もっと古代だ。それと、亜人の村みたいだ。
「もう一人、連れて来ました」
女性がそう言うと、見知った顔が現れた。
「社長! てめぇ!」
せめて一発は殴りたかったんだけど、止められた。
つうか、異世界に逃げるなよ。元の世界で責任取れよ!
「待て待て。この世界で一発当てようぜ? なっ?」
「てめぇとつるむ気はない!」
折角の異世界だけど、スタートで躓いてしまった。
その後、満月の日であれば、往復できることが分かった。
「俺は……、どちらの世界で生活するのか考えないとな」
満月の夜中に 信仙夜祭 @tomi1070
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます