幼馴染パーティーを追放された俺は最強パーティーのリーダーに登りつめた。もう一度組まないか?そんなこと言ったってもう遅い。

犬猫パンダマン

幼馴染パーティーを追放された俺は最強パーティーのリーダーに登りつめた。もう一度組まないか?そんなこと言ったってもう遅い。


「俺が追放?」


 思わず耳を疑った。一番敵を倒してきたしみんなともうまくやってきたはずだ。


「いやケイン、このパーティーにはお前はふさわしくないかなって。いやいやそうじゃないお前にはもっとふさわしいパーティーがあるはずなんだ」


 同じことだろ。そう思って席を立った。


「わかった、俺は抜けるよ」


 しばらくの間、ソロクエストや臨時の助っ人として仕事を受けていた。酒場でひとり飲んでいると誰かが俺に声をかけてきた。


「ケイン君ってのは君かい?」


 振り返ると、そこにはこの街唯一のBランクパーティー「晴天の牙」のメンバーが勢ぞろいしていた。俺は緊張しながらも平静を装って返事した。


「実は君を僕らのパーティーに誘おうと思ってね、優秀な前衛を探していたのさ。もちろん臨時じゃない、正式メンバーとしてだ」


 こんないい条件はない。すぐさま了承した。


「そうかい、それじゃあ知ってるかもしれないが紹介させてもらおうかな。一番でかくて笑顔の素敵なこの大男がガストンだ、破壊力抜群の斧は敵を一撃で切り裂く、当たらないように気をつけろよ」


 フンッと力こぶを作っている。


「紅一点のエレナは攻撃魔法も支援もこなす才女だ、美人な上に気風がいい、だったかな?」

「ええそうよ、よろしくね、ケイン」


「そして僕がパーティーの中心ですべてを司る男トーマだ。困ったことがあったら僕を頼るがいい」

「ほんと困った男よね」


 エレナさんが同意を求めるように見つめてくる。勘弁してくれ。



 それから俺は彼らに食らいついていった。何度も何度も吐いた。それでも追放したあいつらを見返してやろう。そんな思いで必死に戦い続けた。


 その甲斐あってか晴天の牙はAランクに昇格した。俺の加入によってだ。俺は有頂天になっていた。


 ある日一人で飲みに行って酒場を出ようとすると、幼馴染のあいつらが入ってきたところだった。あいつらまだこの街にいたのか、なんだか気まずい。そう思っていたらあいつらから話しかけてきた。


「よ、よう。久しぶりだな」

「ああ」


 淡泊に答えると会話は終わってしまった。

 まあでも話すことなんてないしな。


「いや、あの、その、実はな……」


 なんだよ早く言えよ。なんだかいらついてきた。お前らが言うことなんてわかってるんだ。もう一度俺と組みたいんだろう? おまえらが言ってきたら、俺はこう返すんだ。もう遅いってな。


「やっぱり、なんでもない」


 チッ、へたれかよ。扉を勢いよく開けて酒場を出て行った。



 数日後、晴天の牙は窮地に立たされていた。敵の罠に嵌って一人突出してしまった俺を助けるために、みんなが敵の群れの中に入って混戦状態になったんだ。パーティーの役割なんてあったもんじゃない。それでも俺たちは無我夢中に戦いなんとか危機を脱することができた。


 その夜トーマさんに呼び出された。また追放かな……


「すまん、待たせたな」


 トーマさんは俺の隣に腰掛けると語りだした。


「今日は大変だったな。モンスターは情報より多いし、虫は多いし、エレナは気分が悪いし、ハハッ」


 冗談を言っているのか、でも俺の頭には入ってこない。トーマさんもそれに気づいたようだ。


「どうした?気分でも悪いのか?」

「いえ、その、あの、俺……また追放されるのかなって」


「なぜそう思うんだ?」

「俺のミスでみんなを危険にさらしちゃったし、前にもパーティーを追放されたことがあるから……」


 トーマさんは黙っている、やっぱりそうなのかな。


「ケインお前このパーティー好きか?」


 ドキッとしたが俺は黙って頷いた。

 その気持ちに嘘はないから。


「だったら、もうそんなこと言うな。一度や二度のミスなんて誰にでもあるさ。助け合うのがパーティーだろ。それにお前は常にパーティーの事を考えて動いていた、そんなのは見てりゃ分かる。そんな奴はなかなかいない。もったいなくて追い出せねーよ」


 涙が勝手に溢れてきた。

 周囲の目も気にせずボロボロ泣いた。


「トーマさん、なんで俺の事誘ってくれたんですか?」

「前にも言ったろ、優秀な前衛が欲しかったって。伸び盛りの若い奴なら尚いい。」


 トーマさんは恥ずかしそうに鼻をこすってる。


「それになんか昔の俺に似ているって思ってな」


 どこが?


「あぶなっかしいところがさ。だから早く強くなってくれよ」

「いいですよ、トーマさんをすぐ追い抜いてみせますよ」


 俺が鼻水をたらしながら言うと、笑って答えてくれた。


「そりゃいいな、俺の仕事が楽になる」


 トーマさんの様になりたい、素直にそう思った。



 それから俺たちの快進撃が始まった。一つ目の巨人を倒したり、未踏のダンジョンをクリアしたり、お姫様の誘拐を阻止したこともあった。俺たちの評判は上がり遂に王宮から指名依頼が届いた。


 なんでも隣国では古代龍が暴れまわっていたらしく、なんとか撃退したものの逃げられてしまい我が王国内の山で傷を癒しているらしい。今度の相手は古代龍か。


 山に入ると古代龍はすぐ見つかった。


 相手は傷ついたといっても古代龍だ。まともにやったら勝てない。不意打ちで倒せればよかったが、気づかれてしまったので作戦通りに行動することになった。俺とトーマさんとガストンが交代で古代龍を引きつけ、隙ができたらエレナさんが攻撃する、あるいはかく乱して俺たちの誰かが一撃離脱を繰り返す。


 長時間に及ぶ戦闘で既に体力、魔力共に尽きかけていた。しかしそれは古代龍も同じだった。古代龍の渾身の一撃を食らい、ガストンは大きく吹っ飛ばされてしまったが、同時にその大きな動きは俺たちのチャンスでもあった。トーマさんがすかさず攻撃態勢に入る。古代龍が振り向く。


「今だ、ケイン」


 トーマさんが俺の為に時間をつくってくれている。

 これでとどめだ!



 古代龍を倒した俺たちは王様に謁見することになった。しかし、そこにトーマさんの姿はなかった。古代龍を引きつけていたトーマさんはブレスで焼かれて死んでしまったんだ。


 そして俺は晴天の牙のリーダーになった。


 交渉事や備品の管理はエレナさんが引き受けてくれたし、前向きなガストンはパーティーに欠かせない。ただやはり三人ではこれまでのようにクエストをこなすのは難しかった。


 トーマさんの死を知ったのか、パーティーメンバーに立候補するやつらがやってくるようになった。名のある歴戦の戦士もたくさんいた。だが俺は彼らを採用しなかった。


「若くてくすぶっている奴を仲間にしよう」


 トーマさんが俺を育ててくれたように。二人も納得してくれた。



「マイクです、宜しくお願いします」


 マイクはまだ若く実績もないが、なにか光るものを感じた。魔法戦士のマイクはいずれパーティーの中核を担ってくれるようになるだろう。初めはクエストの難易度を落としたりしてたが、徐々に頭角を現してきた。状況判断に優れみんなをフォローしてくれる。


 この調子で経験を積んでいけば、いずれトーマさんのようになれるかもしれない。そんなことをつぶやいていたら、偶然マイクに聞かれていた。


「僕はケインさんの様になりたいんです」


 力強く宣言するマイクを見て、あの頃を思い出して涙を流した。



 久しぶりに酒場に行くと、そこにはすでに出来上がっているあいつらがいた。女にふられたとか、借金がどうだとか、くだらないことを大声で話している。あいつら成長しね~な。そう思ったがよく見ると腕に大きな傷跡があった。俺と組んでいた時にはなかった傷だ。


 ああ、あいつらも頑張っていたんだな。なぜだか嬉しくなりその日は酒場で眠ってしまった。



 それからしばらくして、エレナさんが引退することになった。戦闘中に態勢を崩してしまい、その隙を突かれて左足を食われてしまったんだ。エレナさんは故郷に帰ることになり、俺たちは最後の晩餐をすることになった。そこでエレナさんから新しいメンバーを紹介された。


「ミザリー、いらっしゃい」


 呼ばれた女の子は周りをきょろきょろ見ながら近づいてきた。


「この子には私の全て……ではないけど大体のことは教えたわ。こき使ってやってね」


 エレナさんの言葉にひきつるミザリー。それにしても忙しい時間の合間をぬって弟子をとっていたとは。別れの時が近づいてきた。俺とガストンがエレナさんの今後を考えて不安そうにしていると笑顔を向けてきた。


「足がなけりゃ、魔法で空を飛べるようになればいいのよ」


 エレナさんは故郷で子供たちに魔法を教えながら研究するらしい。彼女は振り返らずに去っていった。ああ、この人にかなわないな。



 本当にかなわなかった。エレナさんが去った後、俺はエレナさんの仕事を全て引き継いだ。冒険者としての仕事の他に貴族との会合、冒険者間の仲裁など、なんでもやった。ガストンは新人たちの教育で忙しい。教育は大事だ、片手間でやらせるわけにはいかない。俺の髪はいつのまにか白髪が増えていた。



 気分転換に酒場に行くと、カウンターで一人飲みながらパーティーに入ったばかりの頃を思い出して懐かしんでいた。思えばあの頃は随分楽をさせてもらっていたんだな。戦闘だけに集中していれば良かった。


 ふと酒場の奥に目を向けるとあいつらも来ていた。なにやら新人みたいな連中に説教しているようだ。お互いに苦労しているな。いつのまにか増えている皺を見つめて俺はシンパシーを感じていた。次の日、俺は皆にパーティーの増員を提案した。


「戦うやつらだけじゃなく、戦うやつらを支える人間が必要だ」


 パーティーは十人以上になった。新人は皆やる気があり、パーティーとして成熟していった。



 マイクとミザリーが一人前になった頃、ガストンが引退すると言ってきた。ああ、ついにきてしまったか。戦闘で新人をフォローしているガストンの体はボロボロになっていた。俺はそれを知っていたが、口に出すことはできなかった。ガストンのいないパーティーなど考えられなかったからだ。ガストンにこれまでの感謝を告げ、俺たちは別の道を歩むことになった。初期のパーティーメンバーは全員いなくなってしまった。



 晴天の牙はSランクに昇格した。パーティーのみんなは喜んでくれたが、俺の心は微動だにせず、ただただ事務的にクエストをこなしているだけだった。これまで駆け抜けてきたせいか、溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきて眠ることが多くなった気がする。



 最近よく夢を見る。幼馴染のあいつらとパーティーを組んでいたころの夢だ。あの頃はランクも低かったし、クエストを失敗してよくケンカをしたなぁ。それでもなぜか楽しかった記憶だ。俺は何がしたいんだろう? 時間が空くとそんなことばかり考えていた。


 久方振りにいつもの酒場で飲んでいると楽しそうにしているあいつらを見つけた。俺はすぐさま立ち上がり向かって行った。



 俺ともう一度組まないか?



 喉まで出かかったが飲みこんだ。そんなこと言ったってもう遅い。仲間がいる、立場がある、責任だってある。



 俺が不自然に突っ立ってるのが不振だったんだろう。あいつらから話しかけてきた。


「なあ、ケイン。実は俺たちパーティーを解散するんだ。俺にも娘ができたし、こいつらも結婚することになってな。……俺たちあんな別れ方になっちまったけど、また仲良くやりたいんだ。そりゃケインにだって色々あるだろうがよ」


 こいつらも同じだったんだ。俺は涙をこらえて返事をした。


「ああ、そうだな」

「だから、こいつらの結婚式に来てくれないか?」

「ああ、行くよ、絶対行く、部下に仕事押し付けてでも行くよ」


 そういって笑いながら別れると、俺は力強い足取りでパーティーのもとへ戻っていった。

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幼馴染パーティーを追放された俺は最強パーティーのリーダーに登りつめた。もう一度組まないか?そんなこと言ったってもう遅い。 犬猫パンダマン @yama2020

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