3
お昼の時間になり、お弁当を持っていつもの場所へと移動する。
校舎から遠く離れたベンチ。
この時間は人が来ないし静かで、天気が良い日はここに決めていた。
お母さんが作ってくれたお弁当を食べ終えると、愛華さんからメッセージが届く。
百瀬愛華 むつき今どこにいるー?
私がいる場所を返信すると、愛華さんからすぐに返信がきて。
百瀬愛華 りょうかーい!今から行くから待っててー!
なんだろう。
考えてもわからなく。
尋ねてみても、いつもはすぐに来る愛華さんの返信もなかったので、とりあえず待つことにしたのだけど。
ぽかぽか陽気が気持ち良く、うつらうつらとしてくる…。
…。
……。
………。
…気づくといつのまにか眠っていたようで。
(ん…。あれ…。私寝ちゃってた…。)
まだ少し眠気が残りながら、そう考えていると。
なんだか左の頬には柔らかい感触があって。
対して、右の頬はツンツンとされているような気がする。
「あ、起きた。おはよー。」
耳元で囁かれて、声がする方を向いてみると。
そこにはニコニコしている愛華さんの顔が間近にあった。
「ふぇっ…!?」
思わず変な声を出してしまう私に、クスクスと笑っている愛華さん。
(な、ななな…。なんでこんな近くに愛華さんが…!?)
突然のことで慌てる私の頭を、今度は優しく撫でながら。
「ここに来たらむつきが眠ってて。なんか寝づらそうだったから…ね?」
そこでやっと私は愛華さんに膝枕をしてもらっていることに気づくと、慌てて起き上がり。
「ご、ごごごごめんね…!」
顔を赤くしながら必死に謝る。
「謝らないでよー!あたしがしたくてしたんだからー!それに数分だけだったし!」
「で、でででも…!ひ、ひざっ…!」
それ以上恥ずかしくて言い出せない私に。
「むつきの寝顔かわいかったよー!あまりにもかわいかったからツンツンしたら、にへらぁって幸せそうな顔してね!ますますかわいくてツンツンしちゃったー!」
と、私が眠っている時のことを嬉しそうに話す愛華さんに、さらに顔が赤くなってしまっていると。
「ほんとかわいかったんだよー!あーあ、写真撮っておけばよかったなー!」
残念そうにしながら話し。
「もう一回…寝ちゃう…?」
と、ふとももをポンポンとする愛華さんに、さっきの感触を思い出してしまい、首をぶんぶんと振りながら。
(愛華さんにとっては友達同士の膝枕なんて普通なのかな…。私には刺激的すぎるよぉ…。)
なんて考えると、しばらく顔の熱は取れないのであった。
それから、なんとか平常心に戻るのだけど。
「そ、それで…。な、なにか用事だったの…?」
「あー!そうだった!ハンカチ!貸してくれてありがとっ!」
「う、うん…。で、でも放課後でもよかったのに…。」
「んー。そうなんだけどね。百合友になれたんだし、学校でも顔を見て話したいなーって!」
「そ、そうだったんだ…。あ、ご、ごめんね…。ね、寝ちゃってて…。」
「いいよー!おかげで良いもの見れたしね!」
「う、うぅっ…。」
「あーむつき照れてるー!かわいー!」
「や、やめてぇ…。」
「わわっ!ごめんね!やりすぎちゃった!」
と、また顔が赤くなってしまうのだった。
それから、それから。
「実はもう一つあってね!はい!これ!」
綺麗に包装され、複数の丸く綺麗な黄金色に焼かれた物を手渡される。
「ク、クッキー…?」
「うん!昨日たくさん迷惑かけちゃったお詫び!」
「そ、そんな…。い、いいのに…。」
「いいからいいから!それね!あたしの手作りなんだよー!」
「そ、そうなの…!?」
てっきり買ったクッキーだと思っていたけど。
愛華さんの女子力の高さに感心してしまう。
「あ、でも…。むつきは手作りとか大丈夫だった?迷惑じゃなかった?」
「だ、大丈夫…。そ、それに誰かになにかもらうとか初めてだったから…。す、すごく嬉しい…。」
本当に嬉しくて、クッキーを大事に抱きしめる。
「えへへ!それならよかった!そのクッキーね!まりとめぐるに好評で!まりなんてバカ愛華の唯一の取り柄だな!なんて珍しく褒めてくれて!あとでむつきも感想聞かせてね!」
「う、うん…。あ、ありがと愛華さん…。」
「どういたしまして!あ、そうだ!ねーねー!記念撮影しようよ!」
「き、記念撮影…?」
「そーそー!一日遅れだけど、むつきと百合友になれた記念!あとはー、学校で初めて話した記念!」
「う、うん…。わ、わかった…。」
愛華さんの突然の提案に気後れしてしまうけど、両手をぶんぶんとして嬉しそうにする愛華さんに負けてしまう。
「えへへー!それじゃあ撮るよー!もっと近く寄ってー!」
愛華さんはそう言うと、スマホを構え、もう片方の手で私を抱き寄せると、掛け声の後にパシャッと音がして。
「わー!良いの撮れたよー!むつきに送るねっ!」
と、スマホの画面を見ながら嬉しそうにする愛華さんから写真が送られてくる。
そこには笑顔の愛華さんと、照れながらもなんとかスマホに顔を向け、大切そうにクッキーを両手で持つ私の姿が写っていた。
「それにしても、ここ良い場所だねー!だれも来ないし、静かだし、陽当たりもいいし!んー!」
気持ち良さそうに伸びをする愛華さん。
「う、うん…。こ、ここお気に入りなんだ…。」
「そうなんだね!あ、今度ここでお弁当一緒に食べようよ!教室だと誘ったら悪いかなって思ってたんだ!」
「い、いいの…?ほ、他の友達とか…。」
「だいじょーぶ!毎日は無理かもだけどたまにならね!あたしお弁当も手作りなんだけど、それも好評なんだ!むつきにも感想求めちゃおっと!」
私も手作りの方がいいのかな。
でも、ちゃんとできるかな…。
それに、せっかくのお昼なのにつまらないとか思われたりしないかな…。
なんて心配してしまうけど。
「えへへー!たのしみだなー!」
と、嬉しそうな愛華さんを横目でチラッと見ると、心配事なんて忘れてしまい。
「わ、私も楽しみ…。」
本当に楽しみになって、返事をするとお弁当を一緒に食べる約束をするのであった。
その後、お昼の時間も終わりに近づくと、途中まで愛華さんと歩きながら戻り。
「それじゃあ、また放課後にね!」
と、愛華さんは一緒に教室に戻ると私が目立ってしまうことを気にして、手を振ると先に駆け足で戻っていく。
そんな愛華さんの優しさと、戻りながらさっき送ってもらった写真、初めて友達からもらった手作りクッキーを見て、すごく嬉しくなる。
ちなみに教室に戻り、こっそり食べた愛華さんの手作りクッキーは、外はサクサク、中はしっとりとしていて、甘すぎず、私を幸せにしてくれて。
メッセージで感想を送ると愛華さんは喜び、放課後までまたやり取りが続くのであった。
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