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放課後。
私と愛華さんは駅前で合流すると、昨日と同じカラオケルームにやってきた。
愛華さんと勉強会をするにあたって、校内にいると嫌でも注目を集めてしまうからだ。
そういうわけで、ここで勉強を始めようとしたのだけど…。
「ねーねー。むつきぃ。」
隣に座っていた愛華さんはソファーに両手を突き、私へとにじり寄ってくる。
「だ、だめだよ…。」
後退りしながら、愛華さんを拒絶する。
「でもでもぉ。」
さらに私を追い詰めようと、にじり寄ってくる。
「だ、だめだって…。」
私は負けじとソファーのぎりぎりまで、後退りする。
「うぅ。むつきのいじわるー!」
それ以上寄ったら私がソファーから落ちてしまうことに気づいたのか、その場で止まると座り直し、そっぽを向く愛華さん。
「い、いじわるしてるわけじゃ…。」
なんだか罪悪感に襲われてしまう私。
「わかってるけどー!我慢できないのー!」
私の方に向き直り、両手をぶんぶんさせる愛華さん。
「お、お願いだから我慢して…。」
駄々っ子みたいになる愛華さんが、かわいいなと思いながらなんとか宥める。
「お願いむつきー!」
上目遣いでお願いする愛華さんに。
「ち、ちょっとだけだからね…。」
ついに負けてしまった私。
「やったー!それじゃあ、いくよー!」
そう言うと、愛華さんの手が私の胸元へと向かってきて。
優しく触れると同時に。
室内に曲が流れ始めた。
本当は勉強を始めるはずだったけど、愛華さんが歌うのを我慢できず。
曲を入れるための、タッチパネルを操作し始めたので、取り上げると。
抱きかかえて抵抗するも虚しく、愛華さんのお願いに負けてしまった私は、隣で嬉しそうに歌う愛華さんに。
(まぁ少しだけならいいのかな…。それにしても愛華さん歌上手だなぁ…。)
なんて、考えながら聞き入っているのであった。
一曲歌い終えた愛華さんに、上手だったと拍手をすると。
愛華さんは次に思いがけない提案をする。
「ねーねー。むつきも歌おうよー!むつきの歌も聞きたいー!」
「え、えぇ…!わ、私はいいよ…!カ、カラオケに来るのだって初めてだったし…。」
「えー!それじゃあ尚更歌わないと!きっと、むつきも楽しくなるよ!」
「で、でも…。は、恥ずかしいし…。」
「んー。あ、それならさ!一緒に歌おうよ!」
「い、一緒に…?」
「そう!それなら恥ずかしくないんじゃない?」
一人で歌うよりは大丈夫かも…?なんて思い。
「う、うん…。そ、それなら…。」
と、返事をすると、喜ぶ愛華さんと一緒に曲選びをする。
流行りの曲に詳しくない私に、愛華さんはこれはどうかなと指差し、何度も聞いたことがあったのでその曲に決めた。
それは、以前深夜に放送されていた百合アニメのオープニング曲で。
最初は歌うのが恥ずかしくて、声がなかなか出せなかったけど。
愛華さんがリズム良く身体を揺らし、私のことを気にしながら歌ってくれたおかげで徐々に声が出るようになっていくと、終盤の方ではちゃんと歌えるようになっていた。
「むつき上手だったよー!」
と、パチパチと手を叩きながら褒めてくれる愛華さん。
「あ、ありがと…。あ、愛華さんのおかげだよ…。」
照れながらもお礼を伝えると。
「えへへー!それじゃあ次はこれを歌おうよ!」
愛華さんはタッチパネルを操作して、また別の百合アニメの曲を選ぶ。
ここで、止めないといけないはずだったのだけど。
歌う楽しさを知ってしまった私は、止めることが出来ず。
その後も、愛華さんと何十曲もデュエットをしてしまう。
「あはは!もー限界だよー!声ガラガラー!」
そう言う愛華さんだったけど、変わらずかわいい声のままで。
対して、歌い慣れていなかった私の喉は限界を迎えていた。
ドリンクで喉を潤しながら休憩していると電話が鳴り響き。
結局、勉強をすることなく終わりを迎えることになる。
「むつきほんとごめんっ!」
「い、いいよ…。わ、私の方こそ止められなくてごめんね…。」
「むつきのせいじゃないよ!ほんとごめんね…。ただでさえ勉強を教えてもらうだけでも、むつきの邪魔しちゃうのに…。」
「う、ううん…。き、気にしないで…。そ、それに愛華さんと一緒に歌えて楽しかったから…。」
「うぅ…。むつきやさしいよー!」
そう言う愛華さんに抱きしめられ、顔を赤くしながら慌ててしまい。
前回と同様に、あわわわわ…。と固まっている私の腕を引きながら、またお詫びと奢ってくれた愛華さんにお礼を伝えると、駅のホームで、明日こそは勉強頑張ろう!とお互いに決意して、別れることに。
こうして、人生二度目のカラオケルームは歌を歌う場所という本来の役目を果たし。
勉強をするという本当の目的を達成できず終わるのであった。
テスト開始まで残り4日。
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