第5話 白い花飾り
毎朝、通勤電車を待つ混雑したホーム。左を向くと今日もいる。となりのドアが開く場所に。毎朝、いつもと同じ場面である。
風の強い日でも、冷たい雨が降っても、雪がひどく積もったときも、いつも同じとなりの場所にいる。
風邪をひいて高熱を出て、2時間も遅く出勤ときも、やっぱりとなりにいた。
でもね、その娘、電車に乗るのを見たことがないんだ。次の電車を待っているのだろうか。慌ただしく殺気立っている朝の駅のホーム。静かにそっと佇んでいる。
真っ直ぐに伸びた黒髪を可憐に彩る白い花飾り、美しくておとなしげな女学生である。いつも小さな両手で鞄を抱えている。ややうつ向き加減で顔はよく見えないが。
真っ直ぐな長い髪が顔半分を隠して、ほっそりした顎のライン、ふっくらした桜色の柔らかな唇、間違いなく美少女を予感させる。
仲間と話しているのを見たことがない。姿勢の変化を見たことがない。
やや右向き加減の姿は、まるでこちらを見ているような誤解してしまう錯覚を引きおこすほどだ。
1ヶ月も続くとすっかり見慣れてしまい、まるで知り合いになったような気がしてくる。挨拶さえ交したことがないのに、何故か心は通じているような気がする。
もしかしたら私のファンなのかな?まさかね、自分の馬鹿さに苦笑い。
でもこのところ何日か見かけないんだ。いつもいるはずの人がいないと、こんなに寂しいものなのかな。
突然、女学生と会えなくなって、1週間、そして1か月が過ぎた・・・・・
晴れた休日に久しぶりの近くの山野にハイキング。疲れが足を独占したころ、林道の古びたベンチに腰を下ろした。
そういえば、毎朝逢う可憐な女学生。もし一緒に来れたら楽しかっただろうな。何となく突然、女学生のことを想い出して、苦笑いしてしまった。
目の前の深く生い茂る森林、落葉に埋もれたの絨毯の下。
白い花飾りが、私の名前を呼んだ・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます