初めての家出は幼馴染と共に
ポンポン帝国
初めての家出は幼馴染と共に
「うっせぇ! もうこんな家出てってやる!!」
「あ、こら! まだ話は終わってないでしょ!? 待ちなさい!!」
「そんな事知るもんか!!」
母親の言葉を無視してスマホ片手に外へと飛び出した俺。
「絶対納得いかねぇ!」
行く当てもなく、走った。とにかく走った。母親が玄関から何か叫んでいたが、そんなの今の俺には関係ない。
「ハァハァ。やばい、めっちゃ疲れた……」
俺って運動部だったんだけどな。引退して数カ月でこんなに体力落ちるもんかよ。
肩で息をしていると、今いた場所がいつもの公園である事に気付いた。
「はぁ、少し休むか」
とにかく息を整えないと……。自動販売機を見つけると、のどを潤す為に少し急ぎ足で向かっていく。
「やっぱこれだよな」
炭酸飲料水を購入すると、公園にポツンとあるベンチに座る事にした。
「プハァ! 生き返るな」
一口飲んだ事で気持ちが落ち着き、スマホを確認すると、既に時間は夜中。十二時。
そしてサイレントモードにしているスマホはずっと母親からの着信が鳴り続いている。
それを無視して俺は空を見上げた。
「あぁ……、何でこんな事になっちまったんだろうな?」
空に向かって独り言をつぶやく。だが、この言葉は虚空に消えることなく、ある美少女の耳に入った。
「あんたが強情だからよ」
「へっ?」
まさか、返事が返ってくるとは思わなかった。後ろを振り向くとそこには幼馴染が呆れた様子で立っていた。
「何でお前が来てるんだよ」
「何でとは何よ! あれだけずっと喧嘩してれば誰だって聴こえるわよ」
「うっ」
そうなのだ、幼馴染は隣に住んでいる、いわゆる腐れ縁ってやつだった。
「せ、せっかく心配して来たっていうのに……」
口をとがらせて拗ねた表情をするが、これがまた可愛い。
「はぁ、ここに座るか?」
仕方ないから俺の隣をポンポンっと叩くとそそくさに座り込む。
「寒いね」
季節はすっかり秋になり、真夜中の夜風は中々寒さを感じる。
「何でそんな恰好で来ちゃったんだよ」
お互い寝巻な為、人の事を言えないが、それはそれ、これはこれだ。
「だ、だって慌てて外に飛び出してっちゃったから……。心配だったんだもん」
もじもじと手を弄っている姿を見ると、怒る気も失せてしまうのは不思議だ。
いや、不思議じゃないな、だって俺はこの目の前にいる美少女が好きだからな。
真っすぐに腰まで伸びた黒髪は満月の光でサラサラと輝く。ぷっくらとした唇に誰もが魅了され、一度微笑めば、目がハートマークになってしまう輩が続出してしまう程。それに誰にでも優しく、成績も優秀。文句のつけようがなかった。
まぁ簡単にいえば、『学校で一番の美少女』ってやつなんだけどな。
「そ、そんなに俺達、大声だったのか?」
慌てて追いかけてくるくらいだ。あらかじめ声が聴こえてたんだろうと俺は考えた。そしてそれは当たりのようだった。
「まぁこの辺は、夜になると静かだからね。うち、隣だし」
「だよな……。それは申し訳ねぇ。だけどな、いくら心配だからって女の子がこんな時間に一人で外に出るなんて危ないぞ?」
そんなに治安は悪くない場所だが、こんな真夜中では何が起きるかわからなかった。しかもこの幼馴染は誰もが認める美少女なんだから。
「だって、だって」
次第にしょぼくれた顔になる幼馴染の鼻をズイっと押すと幼馴染がびっくりした顔でこちらを見て来た。
「ちょ、ちょっと、何するのよ!?」
「ハハハ、しょぼくれた顔してるからだよ。……ありがとな」
誤魔化すように小さな声でお礼を言う。面と向かってお礼を言う勇気はなかった。だが、相手には聴こえてしまっていたようだ。ニヤニヤと俺の顔を見てくる。
「えへへ、どういたしまして。で、えっとこれからどうするの?」
首をこてんと傾げつつ、俺に訊ねてくる幼馴染。このまま朝までここにいるって言ったら普通に一緒にいそうで怖い。それくらい仲がいい自信はあるしな。
「仲良しか。……えへへ」
どうやら俺の心の声が漏れていたようだ。気持ちも落ち着いたし、このまま俺の大事な人を寒いままにするわけにはいかない。
「落ち着いた事だし、帰るか」
「帰りますか」
すると、幼馴染がすっと俺に向かって手を差し伸べて来た。
「どうした?」
今度は俺が首を傾げる。すると、
「こんな真夜中に女性のエスコートもしてくれないんですかー?」
自分で言っててちょっと恥ずかしかったんだろう、頬をほんのり赤くしながら手を差し伸べ続けた。
「ふっ」
「あ、鼻で笑った!!」
頬を膨らませて怒る。そんな表情も愛おしい。
「ごめんごめん。それでは失礼するよ。お姫様。あ、その前に、これ飲みきるわ」
手にはまだジュースが残っていた。それを飲もうとすると、幼馴染が奪ってくる。
「一人だけずるい!」
こちらが返事をする前にゴクリと大きく飲んでしまう幼馴染。心なしか先程より頬が赤い。
「プハァ! ってもう炭酸ないじゃん。……そんなんじゃもういらない」
押し返されると重さ的にもわずかに一口残ってるのがわかり、どうしようか考える。
「飲まないの?」
からかうつもりなのが丸わかりな表情でこちらを見てきている幼馴染。俺はここで引いたら負けな気がし、何でもないような顔でそれを飲みきった。既に炭酸が抜けてしまっていたジュースの最後の一口が、妙に甘く感じる。
目の前の幼馴染を見ると、自分の唇をなぞって顔全体が真っ赤になっていた。
その姿を見ると俺まで恥ずかしくなり、顔が火照ってしまう。
「じゃ、じゃあ行くぞ」
今度は俺から手を差し伸べる。きっと今の俺も幼馴染と同じように顔が真っ赤になってるんだろう。なるべく目を合わさないように前を歩く。
ゆっくりとした歩み。さっきまで寒かった風が心地よく感じた。
初めての家出は幼馴染と共に ポンポン帝国 @rontao816
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