第15話 ホットスライムマッサージ
裸の二人は、オレの部屋に入った。
コリンナはベッドに腰かけるとタオルで身体を隠していた。
「うつぶせになってくれ」
「……はい」
コリンナはベッドにうつぶせに横たわった。
オレは、コリンナの腰あたりにタオルを乗せた。
背中への術式に時間がかかって、体が冷えるといけないからな。
へっくし。
ただでさえ、風呂場から出て服を着ていないのでオレとコリンナは身体が冷えてしまっている。
「今から、何をやるかわかるか」
「……はい。
覚悟しています」
背中しか見えないが、コリンナは身体を震わせていた。
えっと、隷属紋の治療が痛いって勘違いしてるのかな?
よし、痛くないよって安心させてあげよう。
「大丈夫、ゆっくり体をほぐしてやるから痛くないはずだよ」
「みな、はじめは痛いって聞きますから」
コリンナは尻尾を震わせていた。
「……私、怖くて。
……リク様。
優しくして、くださいませ」
コリンナの耳がふるふる動いている。
オレは緊張が取れるように、右手の肉球をぷにぷにしてあげた。
「ひぁあ」
コリンナは耳を赤くしていた。
さて、レレムからもらった【ドクヌキスライム】を温めるとするか。
このモンスターは毒を吸い出す効果があって、隷属紋の解呪に利用される。
しかも、レレムのサービスでスライム自体に魔法陣が刻まれているから、温めて背中に塗り込むだけで、隷属紋を取り除くことができるはず。
うーん、便利。
さて、炎魔法の巻物(スクロール)を机に広げる。
あっという間に魔法陣から火が起きた。
スライムをその上にのっけて人肌の温度にする。
紅茶も作れそうだなあ。
ヤカンも巻物の上に置いた。
「寝ててもいいからな、コリンナ」
「は、はい。リク様、何をしてるんですか?」
ベッドにうつぶせになったまま、コリンナは顔だけをこちらに向け、尋ねた。
「スライムを温めてるよ。
背中に塗り込むためにね」
「……なんだか、怖いです……」
「大丈夫、大丈夫」
スライムは温めるのに時間がかかるみたいだけど、ヤカンのお湯は沸騰したみたい。
二人分の紅茶を作って、一つをコリンナに渡した。
「さあ、どうぞ」
「え?」
コリンナは身体を起した。
「紅茶なら、私が入れますのに」
「いいよ。
温まるよ、飲んで」
「い、いただきます」
コリンナは身体を半分起し、オレが淹れた紅茶を飲んだ。
オレはコリンナの隣に座った。
「やっぱり痛そうだな」
オレは、コリンナの背中に刻まれた隷属紋を触った。
「……ごめんな」
「どうしてリク様が謝るのですか?」
オレが50年前の世界から逃げ出したから、コリンナに隷属紋を刻ませてしまった。
せめてこの子だけでも何も縛られることなく、婚約者のいる村へ帰してあげたい。
「痛くないのか?」
「だいぶ前ですからね、町長は無理な命令はしませんでしたから」
隷属紋は繰り返し痛みを発生させる度、皮膚がただれて慢性的な痛みを生じるようになる。
オレはそのただれた皮膚を見るのが嫌いだった。
コリンナは紅茶をだいぶ冷ましてから飲んだ。
ネコ舌ならぬキツネ舌ってやつだろうか。
「美味しいです」
「良かった」
お、ふとスライムを見ると、ぷるぷるしている。
スライムも温まったみたいだ。
「準備できたみたいだ」
「は、はい!」
コリンナは緊張してガチガチになってしまっている。
「ベッドでうつぶせになって」
コリンナはオレの言う通りに横たわった。
腰あたりのラインが丸見えになっている。
あの、背中だけだから腰より下は施術しないよ?
「タオルかけていいよ」
「あ、はい。
すみません、そういう趣味なんですね」
趣味?……ちょっと意味が分からないな。
コリンナは言われた通り、腰にタオルをかけた。
「少し痛いからな、我慢しろよ」
「は、はい……」
オレは、人肌に温められたスライムをコリンナの背中に乗せた。
「ひぅ……」
コリンナは初めてのピチャピチャした感触に、ふるると身体を震わせた。
耳は赤くなり、尻尾をブンブンと振り回している。
「行くぞ 【解呪(ソルブ・ザ・カース)】!」
オレの言葉に反応して、魔法陣が光った。
すると、スライムは粘性を保持しながらぐじゅぐじゅと溶け出した。
「ふ……くうううううう」
コリンナは痛みで身体をよじらせるが、オレが足で身体を締め動けないようにした。
スライムを背中にから落とすわけにはいかないからだ。
「頑張れ! コリンナ……」
オレは、コリンナの背中に人肌に温められたスライムを塗り込む。
その度にコリンナの肢体は反応し、鼻にかかった声で叫びを上げる。
「ひゃうううう……」
ヌチャっとしたスライムをコリンナの背中に丁寧に塗り込んでいく。
塗り込まれるたびにコリンナは身体を震わせるが、オレが跳ね回る身体を抑え込んだ。
「もうすぐだぞ、コリンナ」
「は、はい! 私、頑張ります……」
コリンナは震えながらもオレに返答した。
下に垂れるスライムを何度もコリンナの体に塗りたくり、強く刷り込んだ。
「あ…う…こ、来ないのですか……リク様」
「ああ、もう少しだ」
「じ、じらさないでください……」
コリンナは、瞳をトロンとさせ、口から吐息を漏らし、身体をくねらせている。
お、背中の魔法陣がほとんど取れて来てる。
「仕上げにもう一度発動させるか、少し痛いがガマンしろよ!
【解呪(ソルブ・ザ・カース)】!」
スライムに刻まれた魔法陣は最後の光を発すと、粘性がなくなりただの水と化してベッドを濡らした。
「はあ……はあ……」
コリンナは、うつ伏せから仰向けになって呼吸を荒くしていた。
美しい体のラインがあらわになっている。
「来て……リク様……」
コリンナが両手でオレに手招きをしているが、何をするって言うんだ?
そもそも、そんな恰好で手招きするのはやめて欲しい。
変な気分になるだろ?
「ほら、タオル」
オレはコリンナにタオルを渡した。
「よく、頑張ったな」
「へ? 今からが本番ではないのですか?」
コリンナはタオルを握りしめ、オレに答えた。
「はい、鏡だよ」
オレは、部屋にある鏡の他に、手鏡を用意してコリンナに見せた。
「じゃあああああん」
オレはコリンナに言った。
「ほら、傷一つ残ってないぞ」
「え?」
コリンナは驚いて目を見開いた。
「これ、私の背中ですか?」
「そだよ、ほら」
オレはコリンナの背中で手を振ってみる。
「うん、キレイになってるぞ」
コリンナはオレの手を見て、背中に手を回した。
オレはその手をぎゅっと握ってあげた。
「……私の背中……隷属紋が消えています……」
コリンナは大粒の涙を流した。
「これで大手を振って婚約者のところにいけるな」
「え?」
オレは、コリンナの肩に手を置いた。
「婚約者に会いに行くのに、背中に隷属紋なんてあったら会いに行けないもんな」
オレも、嬉しそうなコリンナにつられて笑顔になった。
「スライムを背中に塗ったのって……」
「うん、隷属紋を取るスライムがあったからさ。
身柄は町長からオレに移してある。
はい、これが証書だよ」
オレは町長から預かった奴隷契約の証書をビリビリに破いた。
「オレとは書面で奴隷契約を交わしてないから、口頭で伝えるね」
オレは、コリンナの肩を持った。
「主人である私が命じる、コリンナ」
「は、はい」
コリンナが姿勢を正した。
「コリンナは、自由だ。
どこに行ってもいいし、誰を好きになってもいい。
故郷の村に、婚約者に会いに行っておいで」
コリンナが涙を流しながら、オレに抱きついてきた。
「何でなんですか、町長から譲り受けるだけでなくて、隷属紋まで解いてくれた……」
コリンナはオレの顔を持ち、じっと見つめてきた。
「リク様はなぜそこまでしてくれるんですか……」
「はじめて会った時から、可愛いなって思ってて……寂しそうな顔が印象に残ってた。
できれば、笑っていて欲しい。
そう思っただけだよ」
「それだけのことで……」
コリンナは涙を流しながら、目いっぱいの笑顔を見せてくれた。
「はは、そう。
オレはそれが見たかったんだ」
コリンナはオレに顔を近づけると、オレの唇を奪った。
激しく絡めてくるので、ちょっと戸惑った。
ぷは。
「……ちょっと、隷属紋を解呪したお礼にしては本気すぎないか」
コリンナは、オレにしなだれかかってきた。
「本気ですよ。
あそこまでされて惚れない女がいると思ってるんですか?」
「……婚約者がいるだろう?」
コリンナはくすくす笑い出した。
「リク様なら、他の男を忘れさせてくれるんでしょう?」
「フハハハハハ、無論だ!」
コリンナはオレに真剣な瞳でお願いをした。
「リク様、あなたが解呪してくれた背中です」
コリンナはオレに背中を見せつけた。
「自由にしてくれたリク様のことを、体で覚えていたいのです。
背中に口づけ……してくれますか?」
耳を真っ赤にして尻尾を震わせるコリンナの気持ちに答えたいと思った。
……ちゅ……
「リク様、ふふふ。
背中にキスしちゃいましたね。
獣人族の間では、背中へのキスは『お前が欲しい』って意味なんですよ」
コリンナはこちらを向いて嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、仕方ないな。
コリンナをもらってやるとするか」
コリンナが笑った。
「背中だけじゃなくて、前も触っていいですよ?」
「だから、言っただろ? いいですよ、じゃ触ってやらない」
コリンナは大きく息を吸い込んで、オレに話した。
「全身を触ってくれますか、リク様」
「はははは。
喜んで」
コリンナが両手でオレを手招きし、オレがコリンナの上に覆いかぶさろうとしていたその途端、扉がガラっと開いた。
「リク様あああああ!」
ミアがプンプンしている。
まあ、怒った顔も可愛いんだけどさ。
でも忘れてたなあ。
オレの部屋の隣でミアがヘルガを治療してたんだっけ。
何の用だよ、今忙しいんだけど。
「今、取り込んでるんだけど後でいいか? なあ、コリンナ」
「は、はい。
リク様はお忙しいみたいですよ。
後でいいですか?」
「いいわけ、ないでしょうがッ!」
ミアの声が部屋中に響き渡った。
状態変化は最強です!〜勘違いから二人に求婚したオレ。婚約破棄させ寝取るから魔族と疑われ今にも討伐されそうです。まあ、やり返すんですけど〜 筆塚スバル @f-subaru
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