第2話 公爵令嬢を助ける

 ――魔女の呪いを発動します。レベル255から、どんどん下がっていきますよ。

 パーリラパリラパーリラ。えい、えい。100、20、10、1

 おめでとー。あなたはレベル1になりました。知力は25です!

 

 クソ魔導士レレムめ。

 ノリノリで歌いやがって。

 レベルが1で、知力が25だと?

 ふざけんな、その知力じゃ【朝食べたごはん】覚えてるかあやしいじゃねええかああ。


 ☆★


 なんか光った。

 くそ、知力が低くて情景描写ができない!

 とりあえず、なんか光った。


 うわああああああ!


 ヒューン、ボーン!


 何か光った気がしたオレは何だかよくわからない空間を通り過ぎて、いわゆる地面へ突き刺さった。

 その瞬間人間なら大ダメージを食らうはずの衝撃を食らい、もちろん大ダメージを受けた。

 そのせいでいろいろ大事なことを忘れている気がするが……


 それにしてもさっきまで寒かったのに、今は暑いな。

 あれ? さっきまでなんで寒かったのかな? 

 忘れたな。

 誰かに冷たいところに入れられたような気もするけど、それすら覚えてないし。

 そもそもオレの名前はなんだっけ?


 ドドドドド


 と馬のひづめの音が聞こえてきて、そちらを見ると、街道を馬車が走っている。

 馬車には御者と護衛の騎士。幌馬車だからだれか乗っているだろう。


 馬車の少し後ろから妙に小さい緑色が3名。

 ああ緑色の体はゴブリンだからか。

 馬に乗ったゴブリン。ゴブリンライダーか。


 馬のほうが早いのか、馬車は追いつかれつつある。

 矢での攻撃が馬に刺さり、馬車は転倒した。

 

 転倒した幌馬車からは、少女がはい出てきた。

 身なりの良い服を来ている。

 貴族の令嬢といったところか。


 騎士は、主人の無事を気にしていた。

 自分も転倒して馬車から転げ落ちているだろうに。


「ミア様、ご無事ですか!」

「ええ、私は大丈夫。怪我はない?」

「はい、これしき」


 さて、可愛そうな奴らだ。

 ゴブリンなどオレがさっそうと片付けてやろう。


 オレは最強の……なんだっけ、オレが最強なのは覚えてるんだが。

 職業とかなんだっけ?

 まあ、いいか。

 頭が痛くて思い出せない。


 ゴブリンが令嬢と騎士を取り囲む。

 御者は転倒に巻き込まれたのか、立ち上がって来ない。


 今は、この二人を助けないとな。


「ゴブリンめ! それにしてもピンチだな! 助太刀に来たぞ!」


 オレはさっそうと二人の前に現れた。


「おお、ありがたい! 貴殿は、その身なりからすると武闘家か!」


 オレは黒い布でできたピッタリフィットな服を着ていた。

 だれかが手縫いだと言っていたような。

 赤と黒でめちゃめちゃ派手だが着心地はいいぞ。


「ん? あ、そうそう。武闘家、武闘家。今思い出した」

「今、思い出した?」

「……そんなことより今大事なことは、ここを脱出することではないか。

 そうだろう?」

「武闘家さま、ご助力感謝いたします」


 少女は、頭を下げた。

 うん、エライ人でも頭を下げられるのは偉いな。

 なおさら、助けてあげたくなってきたぞ。


「下がっていろ」

「貴殿、一人で相手するつもりか」

「フン、ゴブリン程度に後れはとらない。それより、御者を助けてあげてはどうだ」

「感謝します。武闘家様」


 少女は短く礼をすると、騎士を急かす。


「ほら、トーマス。いまのうちにテオを引っ張り出しましょう」

「はい、わかりましたミア様」


 二人は馬車のほうへ救出作業に向かった。


 さて。

 オレが相手してやろう。


 ゴブリンライダーが3体同時に向かってきた。


 オレはゆっくりと息を吐く。

 ゴブリン3体がすれ違いざまに剣で攻撃してきた。


 フン、そんな攻撃止まって見えるぞ。


 上段からの攻撃を交わすぞ……ザクッ

 中段の突きを体裁きでかわしてやるからな……ブッスリ

 剣を投げたのを手でつかもうとして……プスッ


 ぎゃああああ。


「フン、ゴブリンめ見苦しく騒ぎおって」

「武闘家様!

う、腕が! 頭が! 腹が!」


 貴族令嬢が青ざめている。


「ん? 腕が頭が腹がどうかしたのか?」


 自分の体を見ると、腕が取れかけて、腹と手に剣が刺さっていることに気づく。

 え、全く攻撃をよけれてないぞ。

 めちゃめちゃ痛いし。

 血もダラダラ出てる。


 おまけにゴブリンピンピンしてるし。

 あ、くらくらしてきた。

 なるほど、さっき斬られて刺されて痛くて叫んだのは、オレだったのか。


「ぶ、武闘家様!」


 貴族令嬢が走り寄ってくる。

 なんだか、オレ弱くなってない?

 だってさ、このゴブリンたちがアークデーモンより強いなんて思えないんだけど。


 ああ、クソ。わけわかんねえ。

 体が思ったように動けないし。

 ここどこだかわかんないし。

 みんないないし。

 何とかしてくれよ、レレム。


 レレムって誰だ? 口をついてこの単語が出て来た。

 ……なんだかむかむかして来たな。


 ちくしょう、死んでたまるか。


「武闘家様!」


 少女が、オレを抱きかかえてくれた。

 思えば、こんな無様な姿をさらすのは久しぶりだな。

 

 冷たいものがオレの顔に当たった。

 そうか、オレのために泣いてくれるのか。

 見ず知らずの、役立たずのために。

 

 少女はスカーフをほどいて、魔法陣が書かれたスカーフをオレの上に乗せた。

 その上、【癒しの呪い歌】を歌い、両手で【治癒(ヒール)】をかけた。

 オレの状態がひどいので、複数の魔法を重ね掛けしている。

 若いのに大した癒し手だな。

 

 きっといい女になるだろう。


 せめてこの子くらいは守らないとな。

 

 ゴブリンライダーが少女を目掛けて突撃してきた。

 騎士が飛び込んできて、一匹の攻撃を大剣で受け流した。


「ミア様、ご無事ですか!」

「ええ、トーマスしばらく持ちこたえて!」

「その様子なら『しばらく』ってとっても長そうですねえ。

 きついなあ」


 トーマスは、オレ達の間に立ってゴブリンライダー一人を相手にしている。

 ただ三人同時には、あの騎士も相手できそうにないな。


 ウオリャアアアアアアアア!


 オレは立ち上がる。

 気合いだ、気合い。


「まだ、立ち上がっちゃダメ!」


 少女はオレに声をかける。


「ありがとう、もう治った」

「なに言ってるんですか、おなかの剣が見えないんですか!」


 ブッスリと刺さっているのが見える。

 

「こんな傷、オレにとってみればかすり傷だ」

「それがかすり傷なら世の中に致命傷なんてありませんよ!」


 それもそうだな。

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