状態変化は最強です!〜勘違いから二人に求婚したオレ。婚約破棄させ寝取るから魔族と疑われ今にも討伐されそうです。まあ、やり返すんですけど〜

筆塚スバル

1章 侯爵令嬢「ミア・グラフ」編

第1話 50年前の世界

 目を覚ますと、身体が完全に動かない。

 おい、どういうことだ。

 ドーム型の装置に閉じ込められてしまっている。

 叩いたが、力で何とかなるような類いのものではないだろう。


 こんなこと出来る奴はアイツしかいない。


 勇者パーティーの魔法担当。

 とんがり帽子のオールドタイプウィッチ。

 【黒髪の魔女】ウルスラ・レレム。


 ☆★


 ――オレがドーム型の装置にぶち込まれるちょっと前。


 オレ達、勇者パーティー魔王城攻略中。

 襲い掛かる敵を倒して上へ上へ。

 出てくるモンスターも大物ばかり。

 手こずるものだと思っていたが、敵があっという間に死んでいく。


 優れた球技の選手は、バットでボールを打つときボールが止まっているというが、そんな感じだ。


 敵が死んで見える。

 そういえば伝わるだろうか。

 いや、伝わらないんじゃないか。

 敵を殴っても豆腐よりも感触がない。


「来たな、勇者達よ」


 アークデーモン、悪魔系最上位モンスター。

 先代の勇者パーティーはこいつらに殺されたらしい。


「死ね」


 オレがそう叫んで拳を振るおうとすると……


「うあああああ」


 アークデーモンが死んでいる。


 おかしい。

 オレは武闘家で、拳が当たっているわけでもないのに。


 オールドタイプウィッチの基本装備のホウキ。

 ホウキで空を飛ぶレレムがオレに声をかけた。


「強いわね、リク。拳が当たる前に敵が死んでるみたいだわ。

 速すぎるわ、さすがね」


 レレムがオレを称賛した。


「実際その通りなんだ。

 当たる前に死んでいる」

「は?」


 レレムが隣に来た。


「そんなわけないじゃない。新しく変なスキルでも覚えたの? スキル鑑定するわよ」


 レレムはスキル鑑定者として一級品なのだ。

 レレムがわからなければ誰もわからない。


 オレに魔力を帯びた葉を加えさせ、唾液を採取する。

 その唾液がついた葉を青水晶(オーブ)に乗せ、聖水をかけた。


 青水晶から、光が、文字が映し出される。


名 前:リク・ハヤマ 

職 業:武闘家

レベル:255

個人スキル:【状態変化☆】

クラススキル:【貫通☆】


 おお、オレ強くなってるなあ。

 頑張ってきた甲斐があった。


「驚いた、アンタレベルこれマックスじゃないの? 私見たことないわよ、255」

「そりゃうれしいな」

「それよりなに? このスキル【☆(ほし)付き】じゃないの」

「【☆(ほし)付き】スキルってなんなの?」

「火炎魔法1、2それで最後が☆、みたいな最高ランクを示すわね」


 レレムは得意げに説明した。


「【☆付き】になったらすごいのかな」

「スキル説明読んでみるわね」


 また、聖水をかけた。

 光と文字が浮かび上がった。


――個人スキル :【状態変化☆】 この世のすべての物質・状態に変化をもたらす 

――クラススキル:【貫通☆】 だれにもスキル効果を妨げられない


「考えようによっちゃ強いか?」

「はー? ありえない強さでしょ、これ」


 レレムが驚いている。


「状態変化って、あんたが東方で覚えてきたナゾスキルじゃん。こんなに強かったっけ?」

「バカいえ、最強だぞ? 

 人間でなくともすべての物質はエネルギーを持っていてな。

 そのエネルギーそのものを扱うことで身体を癒したり、壊したりする由緒正しい武術の考え方なんだから」


 また、理屈っぽいこと言ってるって目はやめろよ。

 好きなんだよ、解説。


「はいはい、理屈っぽいことは置いといてさ。すべての物質・状態に変化をもたらすって個人スキル【状態変化】だけでやばいのにさ。

 スキル効果を妨げられないってなに? 武闘家のクラススキル強すぎ」

「ほら、武闘家って武器使わないからさ。

 敵が装甲硬いと地味にありがたいんだよね」


 そう、地味なスキルだったのだ、【貫通】。

 それが【貫通☆】になって出世したのかな。


「まあ、まさか。【生きてる状態】から【死んでる状態】に変えるとかできるのかな。

 いやー、さすがに魔王には効果ないでしょ」

「そ、そうだな。

 いやー、でも【状態変化】の可能性は無限大! 

 なんつってな。

 はははは」


 ☆★


 勇者、オレ、魔女、癒し手の4人の勇者パーティーは魔王の間へ到着。


「よく来たな、勇者達よ。思えば先代の~~~~~」


 話が長いな。

 勇者はマメなのか、話に付き合ってあげている。


「なんだと?」

「許さない!」など丁寧な反応だ。

 オレはちょいと眠い。

 レレムを見ると、やはり眠そうだ。


「眠いな」

「ちょっと話長いし、試して見たら?

 スキル。

 どうせ魔王に効くわけないんだし」

「そうだな」


 エライ人の長い話の途中で私語する感じで言ってみる。


「死ね」

「うぼああああああああ」


 魔王は死んだ。


「えええええええええええ!」


 【死ね】といったら魔王が即死したので勇者たちはみな驚いている。


「やば。

 オレのスキル強すぎ」


 グサリ。


 へ? オレの背中に聖剣がぶっ刺さっている。


「おい、マジか」


 金髪を肩まで伸ばし、丁寧に切りそろえた髪。

 オレの妹で勇者のルシア・ハヤマ。

 身内びいきなしに可愛い。


 ……あー、やっぱり可愛いわ。ルシア。

 で、今その勇者ルシアに刺されている。

 

 元々キレイだったブルーの瞳は、赤く濁り怪しく光っていた。


「……ルシア、操られているのか?」

「魔王を倒した今、それ以上の存在がいるってこと?」


 レレムが驚いている。


「リク、お前は強すぎた。

 魔王を倒すという役目を終えたのだ。

 ゆっくり眠れ」


 機械みたいな声で、勇者ルシアが告げる。


「役目かあ。兄ちゃん、お前の結婚式まではお前を守ってやりたかったなあ……ゲホッ」


 ダバダバと口から血を吐く。

 あ、これやばい。死ぬ。


 癒し手が、妹勇者ルシアに呪文をかけた。


【沈静化(カームダウン)】


 ルシアの目がもとに戻る。


「お兄ちゃん……どうしたの?その傷」


 え? お前にぶっ刺されたんだけどな。

 そうか、操られて覚えてないんだね。

 よーし、お兄ちゃん精いっぱい強がるからな。


「蚊に刺されたら血が出た」

「へー……ってそんなわけあるか!」


 的確な頭へのツッコミは今はやめてほしかったな。

 死にかねない。


 あ。


 意識がブツンと切れた。


 ☆★


 ドーム型装置にぶち込まれる前のことを思い出していた。

 オレはルシアに刺された。

 操られていたようだが、それにしてもなぜなのか。

 

――聞こえる、リク


「レレムか。おい、冗談はいいからここから出せ」


――出してもいいけど、出た瞬間ルシアがあなためがけて飛んできて殺されるわよ


「なんでルシアは操られてるんだ」


――勇者は【神の実行者】って言うでしょ。おとぎ話でもよく勇者に神が【憑依(ひょうい)】したりするじゃない。勇者の起こす奇跡も【神のひいき】って呼ぶ人がいるくらいだしね


「ってことは」


――そう。魔王以上の存在がリクを狙ってる。【神】とでも呼ぼうかしら。


 なんてことだ。


――しかもルシアに取りついてる。他の人ならまだしもルシアと戦えないでしょ、アンタ。


 もちろん、無理だ。

 我が妹ルシアに「心臓を捧げよ」と言われるのなら喜んで捧げよう。

 ただし、操られてなければの話だ。


「どうすればいいんだ」


――何ともならないわ。ただ、上位存在は忘れっぽいって言うからね。ほとぼりが冷めれば許してもらえるんじゃないかしら。


「ほとぼりっていつのことだよ」


――そうね、50年くらいかしら


「長いわ!」


――上位存在もすぐにリクのこと忘れてしまうかもしれない、そうなったらすぐに目覚めさせるから


 ポチッ。


「おい、今何押した!」


――さよなら、リク


 プシューッ。

 装置の中に寒風が吹きあれる。

 

「おい、冷たいぞ。

 マジか、おい」


――寂しくないようにアイテム入れておいたわよ、一人じゃないからね


「自己完結するな、オレの話を聞け」


――さよなら、リク。服は私のイメージカラーと同じ黒のものを私が手縫いしたのよ。ずっと、あなたと一緒にいたかったけど。一緒にいられないから。


「だから、一人で突っ走るな。

 まだ解決方法はあるかもしれないだろうが、バカ!」


 さ、寒い。コールドスリープに本当になるかも怪しいじゃねえか。

 凍死になっちゃうんじゃないかな。

 ホントに後で生き返れるかな。

 

「おい、こら……」


――リク……私、あなたのことが好きだった。


「……え?なに、風がうるさくて聞こえない」


――上位存在に見つからないよう、弱くしておくねリク。死なないでね。こんなことならもっと早く、好きって言っておけばよかった


「……え? なに、やっぱり風がうるさいんだけど。

 聞こえない」


 レレムがなんか言ってるけど風がビュービュー吹いてるのに聞こえるわけねえだろ。

 あ、マジで寒い。死ぬ……

 

 死、死にたくねえええええ!

 薄れゆく意識の中、オレはこんなことを思った。

 

 次、目が覚めたら、マジで好きに人生、生きてやるからな。

 ずっと、魔王討伐のために来る日も来る日もトレーニングして来たのに、バカヤロー!

 

 ほんっと自分のためだけに生きてやるからな。覚えてろよおおおおおおおおお!


 ☆★


 その瞬間、コールドスリープマシーンが大きな音を立てて、小さな破片を飛び散らせた。

 

――リク、大丈夫?


 壊れた装置の中にはリクはどこにもいなかった。


――リク、リク!

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