第2話 糞黄色の魔粉
春は、恋の季節などという・・・・・
麗かな春の陽射しを浴びると、猫は心ならずもサカるし、犬も必ずやまたそそり立つのが当然である。
ましてや人間などは入園式、入学式、入社式であっても必ずや心新たに屹立する。
本来は春は、すべてが萌え、世界が桜色に染まる、そんな季節といわれている。
でも、しかし騙されちゃいけません。遥か古の昔から、春は暗黒の季節と呼ばれていたことを忘れてはなりません・・・・・
その秘められた暗黒の歴史の中には、常に怖ろしき春の悪魔、杉の木が暗然と存在していた。
杉の木は神社では多く見受けられ、ご神木として扱われていた。古来から、神が天界と地上を行き来するために、天に向かって真直ぐに伸びる杉の木を利用していたと、言い伝えられていた。
昔々の遙か昔、桜の花が地上のすべてを美しく桜色に染める季節のことである。天界にいる神が100年に一度、地上にある神社に降臨される日であった。
いつものように、ご神木である杉の木を伝って地上に向かう。快い柔らかな風が神の顔を撫でる。神は、甘い桜の香りを胸いっぱいに思い切り吸い込んだ。
それが悪魔の甘い誘いとも気づかずに。
鼻孔を針で突き刺すような鋭い痛み、眼球にトロロ汁を塗られたような強烈な痒みが神を襲う。まるできな粉を練り混んだような糞黄色の魔風が吹き上げる。
御魂さえ吐出させるような激しいクシャミが、押し寄せる津波のように神を襲った。連発するクシャミに、思わず杉の木を握る手が弛み、神は杉の木から落下した。
万能の神に不可能などあり得ない。
人間界の全ての現象は、すべて神の御心のなすがまま・・・・・のはずであった。
天界まで届く高い杉の木を伝い、地上にある神社に向かう途中、なんと激烈なクシャミにより、万能の神が御神木から落下してしまったのだ。
万能の神であるがゆえに、もちろん雲に乗ることも可能である。しかし、雲は空にあり地上までは降りて行けない。だからこそ杉の木を使うのが慣わしになっていたのだ。
では神は空を飛べないのか?
否、万能の神である。空を飛ぶ飛天術も可能ではあるが、飛天術も一定の制限がある。
万能の神、御柱13貫をもって空を翔る。
かって神話の中にこのような記述がなされていたという。つまり万能の神は13貫で空を飛ぶ、という記載である。
空をとぶ神は、概ね48kgと定義されていたのを知る者は少ない。
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