花粉症の呪い

希藤俊

第1話 悪魔の伝説

 はるか古の昔、深い森に囲まれた小さな集落があった。概ね50人程度の人々が暮らす集落であり、齢一番の長老が長として、平和に暮らしていた。


 長には誰もが認める有能な後継ぎの息子がおり、数年の後には立派な長としての活躍が、大いに期待されていた。


 実は長の息子には好きな女がいた。哀しいことに、集落においては最も身分が低い家に生まれた美しい娘であった。


 娘もまた、長の息子を深く愛していた。許されない仲、認められない関係であると、分かってはいたが・・・・・


 集落には2種の位階が存在していた。集落をまとめ、集落を運営する者たち『知恵を集う民』と常に肉体労働のみに使役する『落ちる実を拾う民』である。


 集う民と拾う民の2つの集団は、住む地域さえ分けられ、話すことさえ許されぬ大きな隔たりがあった。


 長の息子は集う民の中心的存在であったが、一方、娘は拾う民の貧しい家に生まれ育っていた。


 長の息子と美しい娘は集落の民たちの厳しい目を逃れ、深夜、深い森で密会を重ねていた。


 しかし、いつしか他の民たちの噂にものぼり始め、深夜の密会さえも目撃者が現れ、集落の掟を破る者として、娘に皆の非難が集中した。


 集落の中での孤立断絶は、即ち死を意味するものであり、娘の両親は娘を泣く泣く家から、そして集落から追放せざるを得なかった。


 愛に敗れ、家を追われた娘は絶望し、かっては長の息子と密会を重ねた、深い森の一番大きな木の下で、自らの短い生命を絶った。春まだ寒き日のことであった。


 娘は、長の息子への叶わぬ、捨てきれぬ愛への激しい未練と、自分を見捨てた両親そして集落への思いを、「好きだった・・・・・」と血を吐くような一言を残し、強い怨みを大木に託したという。


 大木に怨みを托して死んた娘の没後、この大木が春を迎える度に、娘の呪いを発現し、集落の全ての民を苦しめ、悩ましたのはあえて語るまでもない。


 集落の民はこの呪いの木を、以後「悪魔の好きの木」と称し、恐れ、崇めた。


 時は移ろい今現在においても、この大木の種子は、またたく間に日本各地、いや世界各地に広がり、『春の悪魔』と恐れられ、呪いを受ける人々から崇められている。


 『好きの木』は今は『杉の木』と名こそ変えども、地球上の全てを糞黄色の魔粉て覆い尽くし、人々を襲い苦しめる『悪魔の伝説』として語り継がれている。


 今コロナ対策の中心として活動するWHOにおいても、この『悪魔の伝説』が地球上の人類消滅の最大の危機と囁かれているのは周知の事実である。


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