アイス食べたくなっただけなのに【KAC2023/深夜の散歩で起きた出来事】

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

🍦


 いる。

 パカっとコートを広げている変な人が、公園の中にいる。

 変な人は背中向きだから、コートの中がどうなってるか分からない。

 ただ、ヤバい人の香りはプンプンしてる。

 

 ああ。こんな時間にコンビニへ行こうとしちゃダメなんだな。

 でも、仕方ないよ。

 私、てっぺん回る頃に帰ってきたんだもん。家に帰って泥になって、泥から人間に戻った瞬間、「やば、アイス食べたい」って思っただけだもん。

 もっと早く家に帰れていたら、こんなことになってないもん。


 スマホを握りしめ歩く。

 公園の中を突っ切れば速いのに、変な奴のせいでちょっと遠回り。ヒールの音を消し、忍者のようにそろりそろりと――。


 って、なんでヒール履いてきたんだよ。

 コンビニ行くだけなんだからさ、サンダルつっかけてこいよ。

 ああ、もう!


 怒りの矛先がブレる。


 悪いのは誰だ?

 残業させた上司?

 公園にいる変態?

 それとも、自分?


 なんとかバレずにコンビニにたどり着き、アイスを買って、きた道戻る。

 すっかりアイス脳になっていたから、いつものように公園に入ってしまって足が凍った。


「こ、こんばんはー」

「……ヒィッ!」


 変態が挨拶してきた!


 視界に入ってしまった変態の内部は、きちんと布で覆われていた。

 混乱した。

 この状況、なぜ裸ではないのかと。


 あれ、私は裸であって欲しいと思っていたのか?

 違う、私は変態じゃないもん!


「あの、すみません。申し訳ないんですけど、嗅いでみてもらっても……」

「……ヒィッ!」


 ちゃ、着衣変態!


「待って! この匂いが消えないと家に入れてもらえないんです! だから!」


 ヒールをカツカツ鳴らしながら駆けた。

 駆けながら私は、110番に電話をかけた。





 翌朝、上司が嘆いた。

「マジさ、旦那が異臭纏って帰ってきてさ、臭くて仕方なかったから『無臭になるまで家に入れない』って言ったら警察のお世話になることになってさ。超めんどくさかった」


 変態に、同情した。



 

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アイス食べたくなっただけなのに【KAC2023/深夜の散歩で起きた出来事】 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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