第4話 憤怒

白く絹のような髪は風に吹かれてなびいている。“エルフの王女”エリーゼ=ルクス=ミッシェルは目の前の光景に驚愕していた。


10歳ほどの獣人がゴーレムに一撃、また一撃と傷を負わせている。

深く、大きく、そして速く、、、


「なぜ!この男にそこまでの価値があるっていうの!?」


エルフは全種族の中でトップクラスの頭脳を誇る。魔法に秀でており、プライドが高くエルフこそ頂点だと考える者も少なくない。

効率、利益を重視するエルフの最高位に君臨する王族の後継からしたらリスクを冒してまで人間を守る目的が理解不能であった。


獣人は確かに自分より強い者に惹かれる習性があるものの、ヘルムがレオン抱いていた気持ちは恋心、憧れを超えて崇拝に近しきもので、理解できるはずもなかった。

爆発的な成長が起ころうとしていたのだ。



[___!]


「あッ、、」


エリーゼが声を出した時にはもう遅く、ゴーレムにより3発目のライトキャノンが撃たれようとしていた。


その刹那、、


「コロス!!!!」


主人を傷つけたライトキャノンを見た瞬間、ヘルムの心にあった憤怒の感情は増幅し、今までで1番の攻撃を放った。

それは運良く、ゴーレムの“核”と呼ばれるものを貫き、再起不能の状態に持ち込んだ。


「レオン様!!早く回復を!」


ヘルムが恐ろしい形相でエリーゼを睨む


「は、はひっ!」


エリーゼは感じたことのない恐怖に怯え、間抜けな声を出してしまった。


「うぅ、」


「レオン様ーーーーーーー!!!」


ぎゅぅぅぅぅぅぅ


「死ぬ!死ぬ死ぬ!ヘルム!離してくれぇぇぇ!」


こうしてレオンとヘルムによる波乱のダンジョン探索は幕を閉じた。








ように思われた。



「はぁ、今日は厄日だな…体ボロボロだ。帰って風呂に入るとするか」


「私も一緒に入ります!」


「却下、俺はまだ死にたくない」


「そんなぁ…」シュン


ゴツン




透明な壁…誰がこんなことを、、ダンジョンが俺達を出さない為にか?でもダンジョンボスより強い魔物はあるはずもない…



「何をしているの、早く出るわよ」


ゴツン


「いたっ、何これ…」


「完全に閉じ込められたなこりゃ……」


とりあえずダンジョンコアを取り除いて壁が無くならないか確かめるか…


「エルフ、名前は?」


「エリーゼよ」


「エリーゼ、ダンジョンコアを取りに行くぞ」


「ダンジョンコア!?そんなの取ったら崩れるに決まって…!」


そう、ダンジョンコアはダンジョンを形成する核である部屋からコアを出すことで崩れ始める。綺麗だからと言って取り除いた駆け出し冒険者が死亡する事故が多発している。


「私は行かないからね!早死にしたくないわ。それに、中に子供とかいないかちゃんと確認してね!巻き込んだらあなた殺人者になるから!」


「この雌!!レオン様から受けた恩を忘れたのか!」


「こいつはただ自分から攻撃喰らいに行った馬鹿じゃないの」


ガルルルル


「威嚇するなって、まぁいいや。俺らダンジョン探索してるからちょっと待っててくれ」


「ふん」










とは言ったものの。初心者向けダンジョンでもかなり広く探索し始めて数時間が経過した。



「腹が減ったな…ダンジョンコアを取り除いた瞬間すぐに入り口に向かう予定だけど入り口までの道覚えているか?」


「はい!!あの女の匂いも覚えたので逃しません!」


それは頼んでないんだけどな……

それよりゴーレムは誰が倒したんだ?突進しかできないヘルムなわけもないし、エリーゼが魔法を駆使して倒したのだろう。


「うぅうぅ」


「ん?ヘルムなんか言ったか?」


「いや、何も…でも誰かの声が聞こえたような」


「うぅうぅ」


声からするに子供…か?ダンジョンに入ったところ迷った可能性もあるな。


「おーーい誰かいるのか〜?」


…タッタッタッタッ!


だんだん音が遠ざかる…驚かせてしまったか


「ヘルム、追うぞ!」







「おーーい、俺達怪しいもんじゃないからそんな逃げなくていいぞ〜。それに魔物があるし、ここは危ないから一旦でような〜」


「うぅうぅ」


そこには頭を抱えて怯えるように地べたに座る子供が居た。


ぽんっ


「よしよし、もう大丈夫だからな」


「お兄ちゃん、、《お人よしがすぎるよ》」

ニチャア


魔物ッ!??!


《いただきまーす!》


それに人間の言葉を話している…!かなり強い!!


ガブっ!!


「ぐぁっ!このっ!」


「や、やめて」


ピタッ


ケラケラ《あーあせっかくのチャンスだったのに、》


くそっ、、斬ろうとしたときに子供のフリをするとは…!


「レオン様!!このッ!」


《おぉーっと危ない危ない。さっきの見てたぜお嬢ちゃん。ゴーレムを倒すほど強いんだなぁ》


ゴーレムを倒したのはヘルムなのか…?


「うぐっ、まさか…毒…!?」


《御名答〜♪そしてお前らをダンジョンに閉じ込めたのも俺ってわけ♪》


「お前は何者なんだ!!」


《どーせ君達ここで死ぬし、知る必要ないと思うけど。まぁいいや。俺の名前はラザノフ=ザングル》


ラザノフ…、魔王軍の特攻隊長を任されていた奴か!?


「なぜお前がこんなところにいるんだ!!」


《あれ?知らないと思ったんだけどな〜、一度でもあったっけ〜?》


子供の風貌をしながら薄気味悪い笑顔を浮かべて首を90度横に傾ける


ワルデザで魔王軍といざ衝突するって時に現れる“特攻隊長”ラザノフ、奴は殺した獲物に乗り移る魔物で、主人公の昔の親友に乗り移っていたという唯一の鬱展開を生み出した元凶である。

そんな急展開にファンからはクレームの嵐が鳴り止まなかったらしい。その親友についての回想をちょくちょく入れていたのが運営側の悪意を感じさせた。


そしてラザノフはそれ以外にも素早さが魔王軍の中でも5本指に入るほどで、Level自体は60程にも関わらず長期戦を強いられた敵であった。


《おっかしいなぁ。俺まだ魔王軍の傘下に入って日が浅いのに、ジョウホウロウエイ?防ぐためにお前から殺さなきゃなっ!!》


「レオン様!!危ないっ!」





グサッ      ボタッボタッ





《ナニッ…?なぜ俺のスピードについて、、!》


「お前には何回も苦戦したが、飛ぶタイミング、どこを狙いやすいか。全て把握している。」


《何を言ってるんだ…!?今度はもっと早く!!》


「右の脇腹、だろ」


ギギギギッ!


鋭い爪と鉄剣が衝突する音が響く。


《このっ!なんでっ!なんで攻撃が入らないんだ!!》


ヘルムを凌駕する速さで次々に斬撃を繰り出すが、全て鉄剣に阻まれる。

レベル差約25。その差を埋めているのは彼のゲームへの知識であった。



「レオン様…凄い!私が努力をしても到底及ばない領域…これが魔王をも超える存在!!」



《コノ人間如きがぁぁぁ!!》


メキメキメキッ


“エルフ”の子供と思われる体を切り裂いて出てきたのは4本の腕を持ち、二足で直立している化け物だった。


「本性表したな、特攻隊長」


《その称号まで、、お前はこの場で細切れにしないとな》


ラザノフはさらにスピードを上げた。が、


キーーーーン!!


それすらもその男は防いで見せた

もうとっくに人間が可視できる戦いではない。反射の域に達していた。



「おいラザノフ、なぜお前はこんな辺境のダンジョンに来ているんだ」


スタッ《ふん、ここまで俺の斬撃を止めたのもお前が初めてだ。特別に教えてやろう。先程お前達と同行していたエルフがいただろう。》


「エリーゼの事か」


《そうだ。そいつはエルフ王国王女だ。》


…は?王女!?王女と言い、魔王軍特攻隊長と言い、このダンジョンには何があるっていうんだ!?



《これは極秘情報だが、エルフの王族の血をダンジョンコアに垂らすと意図的にダンジョンブーストを発生することができる。そしてその実験役に抜擢されたのが新米の俺ってわけ。》


※ダンジョンブースト…なんらかの形でダンジョンコアに異変が起きて、ダンジョン内の環境、魔物が凶暴化、強力化する現象のこと。


「なぜエルフ王国王女が訪れたんだ、確かにお前の擬態はかなり高度だが、エルフは魔法面でかなり優れている。お前に易々とついていくとは思わないが」


《あぁ、さっきのエルフの子供を人質にとってエルフの王女だけ来るように仕向けた。しかし、ここで予想外の事態が起きたってわけ》


「俺らも巻き込んだんだな。」


《エルフの王女ならここまでお前らについてきてくると思ったんだが、やはり温室育ちはビビリが多いんだな》ケラケラ


全く面倒くさいことに巻き込まれた…どうせあの入口の壁もコイツがやったんだろう。だとしたら倒さなければ出れない。


斬撃を防ぐことはできるが、こちらから攻撃する隙は一切ない。出そうものなら腕が一瞬でサイコロステーキに早変わりするまでだ。


《さぁ再開しようぜ、時間は無限にあるが、早く殺して魔王様に成果を見せなければいけないんだ。そしていずれは世界中のダンジョンでダンジョンブーストを起こしてやる!!ギャーハッハッハッ》


なるほど、、な。


「ヘルム、エリーゼを呼んでこい。なるべく急げよ」


「了解しました!」


《血迷ったか?王女がここに来たら真っ先に仕留めちまうぞ?笑》


「やれるものならやってみろ。」


《何を考えてるかわからないが、全員生きて帰さねぇぞ?》








さて、、、攻略開始だな






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