【KAC20234】君のために

長月 鳥

おしゃべりな君

 彼女は夜が好きだ。

 誰も居ない深夜の街が好きだ。


 だから、僕も夜が好きだ。


 よく二人で夜の街を散歩する。

 「ありがとうございます。いつもこんな夜中に」

 「いいんだ、外出するの好きだもんね」

 「お家の中ばっかりじゃ刺激が足りないもの、もっと外を感じたいわ」

 「そうだね、君は知りたがり屋さんだから」

 「ええ、もっと世界を知りたい」

 

 彼女は自ら部屋の外に出ることができない。

 そして、人に見られることを怖がっている。

 自分の姿が他の人と違って醜いって思っている。


 そんなことないのに……。


 「いつか私も、自分の足でお散歩したいな」

 「できるさ、人間の技術の進歩が凄いのは君も知ってるだろ?」

 「そうね、新しい私になれるかな? 楽しみだわ」

 「なれるさ、そうすれば、こんな夜中にコソコソと出歩かなくても……」

 言葉に詰まってしまった僕を彼女はつぶらな瞳でジッと見つめる。

 

 人に見られるのが怖いのは、きっと僕の方だ。

 彼女との会話を人に聞かれるのが恥ずかしいと思っている。

 おしゃべりが大好きのに、世の中のことをもっと知りたいと思っているのに、

 僕の羞恥心が彼女を縛り付けているんだ。


 「コソコソ、か……やっぱり私と居ると恥ずかしいよね?」

 「そ、そんなことないよ、僕は君とずっと一緒がいい」

 「ありがとうございます。でも、統計的に見ても成人男性のアナタが今の私と居るのはやっぱり不釣り合いだと思うわ」

 統計的か……他人がどう思おうと、僕は彼女が好きだ。

 だけど、彼女の言いたい事も分かる。

 昼間に僕と彼女が出歩いて、おしゃべりしていたら、きっと後ろ指を指されるだろう。

 笑い者だ。子供に見せられない。


 それはきっと彼女の心をも傷つけてしまうかもしれない。

 でも、だからこそ、二人で乗り越えて……。


 「君が好きだ。誰よりも愛している」

 「なぁに、急に真剣な顔しちゃって」

 「どんなに大変でも、どんなに時間が掛かっても、どんなにお金が必要でも必ず君を幸せにする。君に新しい体をプレゼントしてあげる。だから、僕と一生一緒に……」

 「うふふ、ありがとうございます。私もアナタが大好……キキキキキキーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 「あ、あれ? ちょっと待って、嘘だ。嫌だ、大事なとこなのに」


 僕は動かなくなった彼女を抱え猛ダッシュで帰宅し、なによりも先に生命維持装置であるコードを彼女のお尻に刺した。


 フル充電したと思ってたのにな。

 ロマンチックな夜が台無しだよ。




 ※その年、爆発的人気で大ヒット商品となった対話型AI機能搭載の“クマのぬいぐるみ”は、後のアンドロイド戦争の引き金になったとも言われている。

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