夜空の贈物

蒼雪 玲楓

不思議な彼女

散歩していたら同級生を拾った。

なんて言ったら信じてもらえるだろうか。

そんなことを言ってもそれは事実なのだから仕方ない。


あれはほんの数日前の深夜のことだった。




明日必要なものを準備し忘れていたことを思い出し、少し肌寒い夜道を近くのコンビニに向かって歩く。

昼間に歩き慣れた道を深夜に歩くという特別感に加えて晴れた夜空で輝く満点の星々。その組み合わせは否が応でも私の気分を盛り上げてくれる。


「ほんとに綺麗な空これが見れるならまた……っ、ひゃっ!?」


そんな浮かれた気分につられて空ばかりを見て歩いていたから、すぐ隣に誰かが現れていたことに気がつかなかった。

暗がりにいるその誰かに肩を叩かれ、思わず跳び上がりながら少し距離を取る。


「……ごめんなさい。そんなに驚くと思わなかった」


言葉の主の声にどこか聞き覚えがあり、暗がりに目を凝らしてみればそこにいたのはクラスメイトの一人の女の子だった。

長い黒髪にシンプルなデザインのメガネ、そこまで話したことはないが見た目から得られるイメージ通りに大人しい子だったはずだ。


「えっと、こんなところで何をしてるの?」

「それはあなたも一緒」

「それはそうなんだけど……」


言い淀みながら私が視線を向けるのは彼女の服装。私と同じように何か理由があって出歩いていたのだと最初は勝手に思っていたのだが、それでは説明がつかない……正確には説明がつきにくいことがある。


「なんで制服なの?」

「それはもちろん、ずっと着ているから」

「ずっと?じゃあ家でも制服で過ごしてるってこと?」

「そうじゃない」

「じゃあ着替えて……でも、ずっと着てるって言ったし」


混乱する私に対して彼女はさらに追い討ちをかけるように言葉を続ける。


「違うって言ったのは家でもって部分。今日は家に帰ってない」

「え!? それどういうこと!?」

「そのままの意味」

「そういうことじゃなくて!明日も学校でしょ?」

「学校ならこのまま行けば大丈夫」

「そういう問題じゃ……あと、今の私が言えたことではないんだけど補導とか大丈夫なの?」

「どの辺がよく補導されるかは覚えてるから大丈夫」


もう何というか、これ以上はこの方向で突っ込んで何を言っても驚く返答が返ってくるような気しかしない。

だから、少しだけ質問の趣向を変えて聞いてみよう。


「何か事情があるみたいなのはわかったけど……なんで私に声をかけたの?」

「そこにいたから?この時間に知ってる人に出会うのは初めて」

「……うん。私もこの時間に出歩くのは初めてだから、普通は出会わないだろうね」


おとなしい、と評していた彼女のイメージは少し訂正したほうがいいかもしれない。

ぼーっとしている、というよりも天然っぽさがあるのだろう。

普段学校では誰とも話していないからそれが表に出ていないだけな気がする。


「あっ、というかコンビニ行かないと。本来そのために来てるんだから」

「私も一緒に行っていい?」

「いいけど、どうして?」

「せっかく会ったから?学校行くまで暇」

「……ほんとにそのまま学校行く気なんだね」

「そう言ってるけど?」


彼女はこてん、とさぞ不思議そうに私を見つめてくる。

あざといはずなのに思ったよりもかわいいかも……


「……って、そうじゃなくて!今日家に帰るつもりはないんだよね?」

「そう言ってるけど?」

「じゃあ、コンビニ行った後家に来ない?」

「え?」


自分でも唐突におかしなことを言いだしたとは思っている。

彼女の境遇を聞いて同情のようなものをしている自覚はあるし、同じ女の子としてこんな状態で学校に行くっていうのが許せないというのもある。

でも、それ以上に今一番感じていることは別のことだった。


「今日家に誰もいないし……せっかく会った縁だからもう少し話してみたいなって、思ったから」

「あなたがいいって言うなら、お邪魔してもいい?」

「じゃあ、さっさと行って帰ってこようか」




結局、この後彼女は実質私の家の居候のような存在になって数日が経過して今にいたるのだけど、それは別の話。

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夜空の贈物 蒼雪 玲楓 @_Yuki

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