夜道を歩いていたら黒猫とぶつかりそうになった話をしても、誰も信じてくれません

どこかのサトウ

深夜の散歩で起きた出来事

「よし、勝ったぞ!」

 勝利の酒を飲み干す。

 宇宙大戦争という対戦ネットゲームを勝利で終わらせ、気分が良くなった俺は祝勝祝いにと残っていたアイスを食べようと冷凍庫を開ける。

「品切れか。散歩がてらコンビニ行くか……」

 熱った体を冷ますには夜の散歩が丁度良い。と言っても時計の針は12時をとっくの昔に通り過ぎ深夜になっていた。

 誰もいない交差点。赤信号が点滅している。そのまま歩いて交差点の中に入ると、右横から黒猫が猛スピードで迫ってきた。

 ビビった俺はうおぉっと叫びながらジャンプしていた。

 だが猫は素晴らしい反射神経で、俺の足下でピタリと止まった。ライトのように光輝く目がこちらを見据えてる。

「危ないぞ、若者!」

「えっ?」

「あ……」

 渋い声だった。声で判断するなら雄だ。猫は気まずそうに顔を逸らして鳴いた。

「にゃーん?」

「いやいやいや、無理があるだろう」

「これは夢だ。忘れろ人間」

 目を見開いてしゃーと威嚇される。だが俺はこの猫ともっと話がしてみたかった。

「なぁ」

「シャーッ!」

「ちゅ〜る」

「——!?」

「ちゅ〜るで手を打とう。俺、今からコンビニ行くから買ってやるよ」

「……貴様、何が目的だ? だが良いだろう。私はそれを探していたのだ」

 俺の後ろを、黒猫がテクテクとついてくる。ちゅ〜るに反応したのでどこかの飼い猫のようだが、ここまで流暢に喋る猫なんて聞いたことがない。どうやら俺は、相当に酔っているらしい。


「ありがとうございました〜」

 コンビニで買い物を済ませた俺は、公園のベンチでちゅ〜るを開ける。

「おぉ、これがちゅ〜る! 美味美味!」

「猫って喋れるんだな」

「まぁ、我は宇宙猫だからな」

「宇宙猫?」

「左様。高度知的生命体が、この惑星に住む貴様らだけだと思うなよ?」

「ふーん、どうしてこの星に?」

「ちゅ〜るだ。ようやくこの星の人間が我の住む惑星を見つけたからな」

「えっ?」

「知らぬとは言わせぬぞ。最近見つけたと報道されたであろう。ここから300光年ほど離れている水の惑星だ」

「あぁ、あれか!」

 そういえばニュースになっていたな。ケプラーなんとかいう奴だ。思い出した。

「我々にはルールがあるのだ。惑星に住む知的生命体が、こちらの存在を見つけねば、その惑星に降り立ってはいけないというのがルールがな」

「目的は何? 観光?」

「ちゅ〜るの動画を見てな?」

「まさかのサブスク!」

「暇つぶしには最適だな。この星の人間は良い仕事をする」

「おぉ……宇宙猫から褒められたよ、地球人」

「でな、聞け。我らの同胞がな、ちゅ〜るをペロペロ舐めながら「もう無理、帰れない」などと言うものだからな、我も気になって一口食べてみたいと思ってやってきたのだが、迂闊なことに現地の金がなくてな、どのようにして手に入れようかと悩んでおったところに、貴様だ」

「あぁ、タイミング良かったんだ。ってか宇宙猫ってすでに紛れ込んでるんだ」

「うむ。万引きをすると銀河警察に捕まってしまうのでな、正直助かった。では礼をしよう」

 そう言って、黒猫が光輝く。俺も光り輝いていた。

「——飛ぶぞ」


 次の瞬間、俺は宇宙船の中にいた。ガラス張りの司令室からは見える宇宙は、真っ黒な画用紙に色取り取りの宝石を無数に散りばめたように光り輝いている。

「凄い!」

「そこに座れ、地球の周りをぐるっと一周してやる」

「地球の近くに宇宙船が?」

「うむ。この惑星の衛星の裏側だ」

「月の裏側!」

「ここなら貴様らには、知られぬからな。では行くぞ」

 ヒューンという駆動音が、徐々に静かになって消えていく。だが宇宙船は動き出した。

 音のない静かな世界で、俺は蒼く光り輝く地球を見下ろす。

 白い雲の隙間から緑と茶色の大地が所々見える。

「地球は青かった」

「まんまではないか」

 徐々に夜の面積が増えていく。三日月ならぬ、三日地球だろうか。

 そして太陽と地球、宇宙船が一列に並び地球が黒で塗り潰されたあと、再び色が戻っていく。

「満足したかね?」

「あぁ、貴重な体験をありがとう」

「うむ、ではさらばだ」


 気がついたら朝になっていた。俺は部屋で眠っていた。まさかの夢オチかよ!

 だが、良い夢を見たと思う。

「にゃ〜ん」

 空耳かな?

「にゃ〜ん」

 夢だよな?

「にゃ〜ん」

 俺の部屋に、黒猫が堂々と居座っていた。


 おわり

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夜道を歩いていたら黒猫とぶつかりそうになった話をしても、誰も信じてくれません どこかのサトウ @sahiri

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