夜桜見

月乃兎姫

第1話

 昨今では『花見』ならぬ『夜桜見よざくらみ』という言葉もあるそうだ。何を指す言葉かといえば、夜に公園などでライトアップされている桜の木を見ることである。


 昼間の喧騒とは違い、人通りも車の音も少ないので、ゆっくりと桜を見るのには最適とのこと。場所によっては真夜中過ぎまでライトアップしている所もあるので、夜の散歩がてらに見てみるのも良いかもしれない。


 去年のことだったか、私も深夜……といっても21時頃ではあるが、近くの公園に夜桜を見に行ったことがある。なんてことはない、ただライトアップされている桜しかなかった。

 ニュースで見かけるような花見団子を売っている出店があるわけでも、またレジャーシートを敷いて宴会をしている人なんて都市伝説レベルで存在し得ない。……ま、夜なのだから当たり前と言えば当たり前ではないのだが。むしろ深夜に出店が開いているほうが怖いまである。


 しかし、ふと周りを見渡してみれば、数メートル先もハッキリ見えない真っ暗闇にもかかわらず、ヘッドライトやスマホライトを胸元に装着してジョギングしている人の姿をチラホラみかけた。


 日中は仕事をしているのか、はたまた健康を意識した運動の一環なのか、夜桜なんか珍しくも無いと言った様相で、一切の脇目もふらずにただひたすら走っている。


 きっと普段の日常、それも桜を見るなんて見飽きたとの見解なのだろう。


 桜を見るというのは、人々の時間の余裕の表れと同時に日常風景なのかもしれない。仕事をしている人、学業に追われている人、家事や育児、人それぞれ忙しい日中夜、いつの頃からか、花を見るということを忘れてしまうことがある。


 それでも一歩街を歩けば道沿いには植木があり、公園には草木が顔を覗かせているが、普段それを意識している人はあまりいない。


 もし最近花見をしていないと言う人は、夜の散歩がてらにライトアップされている夜桜を一度見てみると良い。何かしらの出会いがあるのだから――。

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夜桜見 月乃兎姫 @scarlet2200

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