悪役令嬢に転生したので王子様と結婚してみた

犬猫パンダマン

悪役令嬢に転生したので王子様と結婚してみた

 目が覚めると私は見知らぬ世界にいた。仕事に疲れてベッドで眠っていたはずなのにいったいなぜ?


 どうやら何度もクリアした乙女ゲーム『其方だけを見つめてる』のカレン・カーマインに転生してしまったみたいだ。カレンは主人公をいじめる悪役令嬢で、貴族学院高等部の卒業式の時に婚約者であるタオーバロン王国の第一王子カリウス殿下に婚約破棄されて侯爵家を追放されてしまうのだ。


 まずい、どうにかしないと。


 私は毎日カリウスルートを攻略するくらいほれ込んでいた。カリウス殿下の婚約者であることにニヤニヤしている場合じゃない。私は将来のため動きだすことにした。


 私は今、中等部を卒業して王都から離れた実家にいるのか。5月になれば病弱設定のピンクの悪魔が編入してきて殿下と仲良くなってしまう。それまでに殿下ともっと親密にならなければ……


 高等部に入学した私は早速動きだした。


「カリウス殿下、図書室で一緒に勉強しませんか?」


「カリウス殿下、今度湖まで行きませんか?」


「カリウス殿下、これからカバディしませんか?」


 何度誘っても殿下は断ってくる。カレンはいったい今まで何をしていたんだ。周りで見ていた生徒たちのせせら笑う声が聞こえてくる。



 殿下どうして? 心が壊れてしまいそう……



 その後、何度もカリウス殿下をお誘いした。けれども殿下は、断るどころが露骨に無視してくるようになった。髪型を変えてみたり、お菓子を作ったり、カバディも好きになったのに……


 5月はとうに過ぎていた。


 こうなったらもう既成事実をつくるしかない。私は意を決してカリウス殿下の寝室に忍び込むことにした。


 殿下を誘惑するべく、セクシーな下着をつけその上から外套を被り家を出た。衛兵は買収済みだ。殿下の屋敷に向かうと前方に手を繋いで歩く二つの影を発見した。


 カリウス殿下と……あの泥棒猫?!


 殿下がなにやら耳打ちすると、あいつが頬を染めて頷き屋敷に入っていった。しばらく呆然としていると二階にある殿下の寝室に二つの影がうつり、やがて暗闇の中に消えていった。


「どんなことをしてでも、必ず殿下を取り戻す……」


 涙を流しながら声にならない声でそう叫んだ。



 十数日後、普段通り学院へ行くと使いの者がやってきて急いで侯爵領に戻るように言われた。どうやらお父様が倒れたらしい。


「わかりました、すぐに向かうわ」


 王都の屋敷に戻ると準備していた荷物をもって馬車に乗り込んだ。


「できるだけ急いでね」


 カリウス殿下、しばしのお別れです。いずれカレンがお迎えに参りますわ。


 侯爵領は辺境にあり馬車で二週間ほど要した。屋敷に着くと一目散にお父様の部屋に行き、ベッドに寝ているお父様と目を腫らしたお母様に帰宅を報告した。


「お父様、お母様ただいま戻りました」


 気弱なお母様は、かなり動揺しており娘の私に縋りつくように抱き着いてきた。


「ああカレンよく戻ってきてくれました」


 この邪魔な父母を追い出すために、移動中考えた策を実行した。


「お母様、ここにいてはお父様はどうしてもお仕事を気にしてしまいます。それではお父様のお身体によくありませんわ。医者を連れて湖のほとりにある別荘で静養するのはどうかしら」


 そう提案すると、お母様の目がぱっと輝やいた。もう一息か。


「侯爵領のことは私にお任せください。学院は休学しお父様が戻るまで私が侯爵領を守りますわ。ですから、お母さまはお父様についていって助けてあげて下さい。お父様もお母様がいらっしゃれば安心なさるでしょう」


 そうしてお母様はすぐに執事に指示を出し準備を始めると翌朝出発した。そこから私の計画が始まった。


 まず内政に着手した。多くのウェブ小説を読んでいた私にとって内政チートなんて造作もないことだ。領民に米の選別法や正条植えなどを教育し、鍛冶師に命じて農具や水車を作らせた。効率化によって余った人手を使い、王国最大の鉱山地帯の開発をすすめ、なんやかんやで硝石を生産した。


 そして二年半後、大量の鉄砲や大砲を準備して宣戦布告したのだった。


 まず侯爵領に隣接するトナーリ公国を一週間で降伏させると、小国家を次々に吸収していった。タオーバロン王国は侯爵家の身勝手な振る舞いに激怒し、議会にて非難決議が全会一致で採択され、武力で鎮圧しようと遠征軍を編成して侯爵領に向かおうとしていた。


 カーマイン侯爵家は独立を宣言してカーマイン王国を名乗り、タオーバロン王国の貴族に対して書状を送り、味方になって参戦するよう要請した。だが色よい返事はもらえず逆に我が国を非難してきた。


 近隣の貴族は我が国とトナーリ公国との戦闘のことを知っているはず。それなのに私に味方しないなんて、なんて愚かな!


 私は見せしめに近隣最大のオローカ男爵領に攻め入り滅ぼした。そして再び近隣貴族に書状を送った。それでも渋る貴族もいたがいくつかの貴族領を武力で制圧すると、次々と使者がやってきて従属させた。日和見は絶対許さないわ。


 我々カーマイン連合軍はシトラス平原でタオーバロン王国軍を壊滅させ、そのまま王都を包囲すると降伏勧告をしたが受け入れられなかった。


 現実を認められないのね、なんと哀れな。大砲で城塞を破壊することにしましょう。あの気弱な王ならばこれで方が付くでしょう。


 一斉に砲撃を始めると、城塞はあっと言う間に破壊できた。瓦礫の隙間から街を覗くと住民が踊っているのが見えるわ。私の帰還を喜んでくれているのね。


 それからタオーバロン王国は降伏し、国王が私のもとへやってきた。なにか話したけど忘れちゃったわ。きっとどうでもいいことよね。


「私も鬼じゃないわ。王国は滅ぼしますが、王家の血は残すことにいたします。私とカリウス殿下の子が成長したらこの地を治めてもらうことになるでしょう」


 国王はしぶしぶ納得しているわね。でもそんなこと私は気にしないわ。だってとても気分がいいんですもの。ああ、愛しのカリウス殿下、早く私のもとへ帰ってらっしゃい。


 カーマイン王国に戻ると結婚の準備を始めた。そして時がたちカリウス殿下がやってきた。玄関まで迎えにいき……


「お久しぶりです、カリウス殿下」


 そういって歓迎すると、殿下はすこし痩せて精悍になった顔で私を見つめてくる。あぁ、殿下がやっと私を見て下さる。胸が張り裂けそうだわ。


「今はお互い忙しいでしょうし、また後でゆっくりと話しましょうね」


 別れ際に唇を重ねると逃げるように館へ戻った。


 数日後、館で結婚式の準備をしているとカリウス殿下が話しかけてきた。まさか殿下から話しかけてくださるなんて。


「なぜ、こんなことをしたんだカレン。君はこんな娘ではなかったはずだ」

「カリウス殿下のせいですわ」


 殿下は負い目があるのかうつむいてしまった。気にすることなんかないのに。でもそんな表情も素敵ね。


「カリウス殿下が素敵すぎるからいけないんです、フフッ」


 そして卒業式のシーズン、教会で結婚式が行われ祝賀パレードが催された。


 あ~心が満たされていくわ。みんなが私たちを祝福してくれている。幸せってこういうことなのね。


 幸せを感じていると、ふと小汚い恰好のピンク髪の女が目に入った。どこかで見た気がするのだけど誰だったかしら?それに今何か光ったような……


 まあいいわ、今はカリウスとの素敵なパレードの真っ最中ですもの♪

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