月の夜鉄道

@ramia294

  月の夜鉄道

 僕は、技術屋。

 作っているのは、ロケットエンジン。

 

 毎日、続く残業の日々。

 それでも、なかなか、宇宙は強敵。

 些細な事で、失敗が。

 落ち込む僕の帰り道。

 帰りは、いつも真夜中で、

 今夜の僕は、遠回り。

 たまには、散歩と洒落込んで。

 遅い時間のお花見を。

 桜並木のその途中、

 シャッター通り商店街。

 こんな時間は、人影も、鹿の姿も見かけません。

 

 お散歩気分で、シャッター通り。

 端から端までまで、歩いてみました。

 数件だけしかないお店。

 真夜中過ぎには、スヤスヤ、スヤスヤ。


 小さな川の小さな橋。

 渡ればそこには、駅跡が。

 しだれ桜が美しい。 

 春風そよぐ、夜でした。


 昔々のその昔。

 僕の生まれる前のまえ。

 小さな路線の小さな列車。

 駅の前には商店街。

 とても賑やか商店街。

 でも今、目立つのは、シャッターばかり…。


 日付が変わるその時に、

 駅跡、列車が滑り込む。


 あの頃行きと、表示され、

 僕の前、滑り込む。

 優しい、優しい車掌さん。


「切符を拝見いたします」


 僕の手には、切符が一枚。


 『あの頃駅まで』


 切符が一枚。


 乗り込む列車の青いイス。

 ウトウト誘う、青いイス。


 車掌さんが、車両の見回り。

 お客様は、僕だけですか?

 

 列車は、夜空に舞い上がり、

 器用に避ける人工衛星、

 宇宙へ飛び出すその列車。

 

「月まで、短いひと時を どうぞゆっくり楽しみ下さい」


 車掌さんの差し入れは、お月見団子と黒豆茶。

 僕は、美味しく頂きます。


 列車は、無事に月世界、

 月の駅に到着です。

 実は、空気がたっぷりの、

 月の世界は、快適です。


 迎えてくれた、

 綺麗な女性。

 どこかで、お会いしましたか?

 見た事のあるその笑顔。

 あなたは…。

 

「ようこそ、月へ歓迎します」


 彼女の名前は、アルテミス。

 彼女は、女神のアルテミス。


 訊けば、その他の神様は、

 慰安旅行の真っ最中。

 アンドロメダの招待受けて、

 あちらの宇宙で、どんちゃん騒ぎ。

 女神様は、留守番を、

 みんなに押し付けられました。


 月の世界に、人間が、

 到達すれば、女神さま、

 アンドロメダまで、ひとっ飛び。

 どんちゃん騒ぎに、加わります。


 申し訳なく思います。

 僕のロケット、失敗ばかり。

 女神さまの宴会に、間に合いそうもありません。


「ここから、地球をご覧なさい」


 女神さまが、声かけます。

 女神さまのお部屋から、地球の姿が綺麗です。

 地球の日本の僕たちの、街は何処にあるのでしょう。

 地球の小さな窓辺から、月を覗くその姿。

 月に憧れ、熱い目をこちらに向ける少年ひとり。

 あれは、あの頃、あの夜の、僕の幼い姿です。

 只々、空に憧れて、

 月の世界へ行きたいと、夢みる頃の僕でした。


 思い出すあの頃。

 流れる涙。

 蘇る勇気、元気、やる気。

 僕は、技術屋。

 失敗なんて怖くない。

 くじけず、進む月世界。

 必ず目指す月世界。

 


 気がつくと、花びらが、ひとひら、ふたひら。

 美しい、しだれ桜。

 僕が、いるのは、駅跡の前。

 今日もお仕事頑張って、

 いつかは、夜空のお月さま。

 僕は行きます、お月さま。


「そろそろ、帰りましょう」


 隣で声をかけるのは、とっても綺麗な女性です。


「おやおや、あなたは、アルテミス?」


「いいえ、私は、同僚です。職場で消えたあなたの笑顔。探して夜の大捜査」


 それから、2年経ちまして、

 今では、僕がパイロット。


 僕の作ったロケットエンジン。

 発射秒読み、ロケットの、

 隣に座るアルテミス。


 同僚の彼女は、僕のカミさんになりました。


       終わり


 

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