第2話

「ねえ、あなたのそのホッチキス。貸してくださる?」


その日も、特に何も無い一日を過ごすはずだった。B氏も穏やかに日課のホッチキス止めをこなしていた。

Oさんがホッチキスを借りに来るまでは。B氏は大変に驚いた。あまりの出来事に、彼女への返事が少々遅くなった。


「お、Oさん。ぼ、ぼ、僕のホ、ほ、ホッチキスを借りたいのか?べ、別に構わないけど、そもそも貴方はホッチキスをも、持っていないのかい?」

「あら、あたしがもし、ホッチキスを持っていても、あなたからホッチキスを借りにきていたわ。」

「そ、それは、いったい、どういう、、、。」

「あたし、あなたに興味があるのよ。広報部で紙の仕事しかしてないのは、あなただけなんですもの。同僚からの冷たい視線を浴びても、惨めにならないどころか、誇りまで持っている。あたし、そういう変な人が気になる性格なの。」


B氏は呆気にとられていた。今まで、高嶺の花よりも高いと思っていたOさんが、まさか、自分に興味を持っていた。だから、先程よりも彼女への返事に5秒有した。


「そ、それは、光栄だね。ほ、ほら、まだ止めなければならない書類が山ほどあるから、使ったらすぐ返してくれよ。」

「ふふ、ありがとう。ねえ。もうひとつ、頼みたいことがあるの。」

そう言って、Oさんは乳白色の綺麗な長い指をB氏の頬へと伸ばした。

その時、広報部の扉が開かれた。

「おつかれさんでーす。」

彼が来た。彼はある年に始まったプロジェクトに携わっている。今や会社のスター。

彼の名は、R.B.ブッコロー。

「よっす、Oさん。なーにしてんの?この人は?」

「この人は、うちの紙担当です。この人からホッチキスを借りようとしてたんです。」

「へー。」

「それより、ブッコローさんはどうしてここに?」

「そうそう!いやー、日頃のね!皆さんへね!感謝を込めてね、じゃーーん!」

そう言ってブッコローは、どこからともなく置かれた機械を見せた。

「これさー、この前の収録でも使ったものなんだけど、電動ホッチキスでさ。ほら、何故か書類が多くて、ホッチキス止めの専門家も雇っているでしょ?でも、これがあれば一瞬で終わる。」

そう言って、ブッコローは書類の束を機械に差し込んだ。そして音がした後、ホッチキス止めされた書類を取り出して見せた。

「すごい!これなら誰でも気軽にできますね!」

Oさんが笑顔で言う。

「すごい!」「さすがブッコローさん!」「これは革新的だ!!」

社員達も口々に賞賛の言葉を言う。

「あ、あの、僕の仕事はどうなるんですか?」

そう尋ねるB氏にブッコローは彼の方に翼をおいて言った。

「君には無限の可能性がある!」

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アグラフーズ・アムール @dotounohoshi

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